米国不動産投資に対する新規制CFIUSによる最終案の公表

米国不動産投資に対する新規制CFIUSによる最終案の公表

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2020年1月13日米国不動産への外国投資家による投資を規制する内容を含む、外国投資リスク審査現代化法の最終規則案を米国財務省が公表した。本稿では、最終規則案のポイントと日本に与える影響について解説する。

  1. 規制対象となる不動産の範囲
  2. 外国投資家が取得する「権利」
  3. 日本は非対象国から外れる

規制対象となる不動産の範囲

米国財務省(the Department of the Treasury)は2020年1月13日、米国不動産への外国投資家による投資を規制する内容を含む、外国投資リスク審査現代化法(the Foreign Investment Risk Review Modernization Act<FIRRMA>)の最終規則案(以下「最終規則案」という)を公表した。

2018年に成立したFIRRMAは、対米投資に関連して、対米外国投資委員会(the Committee on Foreign Investment in the United States<CFIUS>)による審査権限を拡大するものである。すなわち、一定の対米国投資にはCFIUSに対して事前に届け出や申告をしなければならず、当該届出などに応じてCFIUSにおいて投資の可否についての審査を受ける。この義務の対象となる範囲が、2020年2月13日からFIRRMAの施行により拡大された。

FIRRMAの成立により、米国での事業の遂行に該当しない場合でも、一定の米国不動産の外国投資家による取得および賃借、ならびに外国投資家に対するコンセッションなど、事業の遂行と関連しない単なる不動産関連取引に対しても規制がおよぶ。規制がおよぶ米国不動産投資は、(1)海外投資が対象とする不動産が規制対象となる不動産(Covered Real Estate)に該当するか、(2)海外投資が対象とする取引が規則における規制対象となる不動産取引(Covered Real Estate Transaction)に該当するか、(3)上記に該当するとして例外的に許容される海外投資に該当するか─という視点で検討する必要がある。

米国政府により所有されている米国政府管理の空港、海軍施設、軍施設など“センシティブな”不動産(最終規則案では100以上の対象地が明示されている)、また、これらの不動産に地理的に近接する不動産についても規制がおよぶ。例えば、米国政府が保有する不動産から1マイル以内に所在する不動産は、前述の“センシティブな”不動産自体ではないものの、近接するものとして外国投資家による投資が規制される。

外国投資家が取得する「権利」

外国投資家による“不動産に係る権利の獲得”が取引に含まれれば、規制対象となる不動産取引に該当する。

より具体的には、①物理的に利用する権利、②他者の物理的利用を排除する権利、③修繕または開発する権利、④建物など固定資産を付着させることができる権利─との4つの権利のうち、外国投資家に3つの権利をもたらしうる取引であれば規制対象となる不動産取引に該当することになる。

規制対象となる不動産に対する担保権の設定自体については、規制対象の不動産取引には該当しない。もっとも、被担保債務のデフォルトが喫緊に予測される場合など、担保権の実行が現実に差し迫っている場合には、例外的に規制対象となる不動産取引に該当する可能性があることに留意が必要である。

投資対象が前述の規制対象となる不動産であって、かつ規制対象となる不動産取引であっても、例外的に外国投資が許容される可能性がある。

例えば、投資の主体がCFIUSにより選定された非対象国(excepted real estate foreign states)や非対象投資家(excepted real estate investor)に該当すれば、規制対象不動産に対する規制対象不動産取引であっても、FIRRMAによる規制はおよばない。

日本は非対象国から外れる

海外投資家は、非対象国と“実質的な関係”があれば、非対象投資家に該当する可能性がある。この“実質的な関係”とは、個人であれば国籍、法人であれば設立地について問題となる。最終規則案では、CFIUSにより選定された非対象国は、オーストラリア、カナダ、英国のみとされ、日本は含まれていない。最終規則案では、この非対象国の選定基準は明確ではないものの、事後的に追加される可能性があるとされている。もっとも、現状、日本が非対象国として追加される可能性はうかがわれない。

今後、米国不動産への投資を検討する際には、CFIUSに対する届出などが必要な取引かどうか、事前に確認する必要がある。規制対象となる不動産取引としては、契約締結にまで至らなくても、取引の内容が実質的に確定した際に届出が必要となる可能性がある点に留意が必要である。

寄稿
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
パートナー弁護士
植松 貴史 氏
不動産ファンドの組成、不動産取得、金融および処分など
不動産業務全般の法務に関与。
フォワードコミット型の開発案件にも注力。
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