以下、本稿に関連する法令等を以下の通り表記する。
● 2020年6月に成立した金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律:「改正資金決済法」
● 改正資金決済法に係る政令及び内閣府令等(2021年3月):それぞれ「改正資金決済法施行令」、「改正前払式支払手段府令」、「改正資金移動業者府令」及び「改正事務ガイドライン(改正資金決済法関係)」
● 不正取引対策に係る改正事務ガイドライン(2021年2月):「改正事務ガイドライン」(不正取引対策関係)
資金決済法の骨子
資金決済法の規制内容は概ね、①前払式支払手段に関する規制、②資金移動に関する規制、③暗号資産その他の事項に関する規制に分類することができるが、特にキャッシュレス決済に深く関わる前二者について以下概説する。
(1)前払式支払手段に関する規制
前払式支払手段とは、端的には、予め対価が支払われて発行される証票や電磁的に記録される符号であって、物品購入や役務提供等を受ける際の代価の弁済に利用することができるもの(商品券やプリペイド型の電子マネー等)と、物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの(回数券やカタログギフト等)に大別することができる。
また、前払式支払手段のうち、原則として発行者に対してのみ利用できるものを自家型前払式支払手段といい、それ以外を第三者型前払式支払手段という。自家型前払式支払手段の発行者は所定の基準日における未使用残高が1,000万円超となる場合は財務(支)局長への届出を、また、第三者型前払式支払手段の発行者は予め財務(支)局長での登録をそれぞれ要するほか、発行保証金の供託義務その他の義務が課せられることとなるが、所定の適用除外(資金決済法第4条各号)に該当する場合はこの限りではない。前払式支払手段特有の性質として、原則として払戻が禁止される(資金決済法第20条第5項)ほか、代価の弁済を伴わない利用が制限される(※1)等一定の制約がある。
脚注 ※
※1 例えば、サーバ型の第三者型前払式支払手段を用いた寄付への利用は実質的にチャージした資金の加盟店に対する送金(為替取引)に該当するとして資金移動業の登録を要する場合がある。
(2)資金移動に関する規制
資金移動業とは、銀行等以外の者が所定の金額の範囲で為替取引 を業として営むことをいう。資金移動業を営む者は予め財務(支)局長の登録を要するほか、履行保証金の供託義務、委託先に対する指導義務その他の義務が課せられる。
前払式支払手段と比較するとサービス設計上の自由度が高い面もあるが、利用者アカウント開設に係る契約締結等に際して犯収法上の取引時確認を要することから、取引時確認手続に伴う利用者の離脱等を考慮し、第三者型前払式支払手段と資金移動サービスの双方を提供する決済事業者が多くみられる。
脚注 ※
※2 資金決済法上、為替取引の定義は設けられていないが、一般的には、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することを意味する。なお、本稿執筆現在、資金移動業者が取り扱うことのできる為替取引の上限額は100万円であるが改正資金決済法下ではライセンスの種類によって上限額が変動する。
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キャッシュレス決済ビジネスを取り巻く環境
(1)近時の活用事例
災害時に店舗端末が停電のために利用できない際に店舗設置型のQRコードを利用して非常時の決済インフラとして活用しようとする取組みや、資金移動サービスを用いた地方自治体等への寄付など地域支援・復興支援への活用も盛んである。また、いわゆる投資型クラウドファンディングやソーシャルレンディングなど投資分野へのサービス拡大も急速に進んでいる。
さらに、現在はいわゆるペイロール(電子マネーによる給与支払)の解禁に向けた労働法制の見直しについても議論が再開されているところであり、これが実現すると、アカウントでの資金の受入れと決済利用がシームレスに連動するなど利用者にとっての選択肢・利便性の拡大が期待される。
(2)セキュリティ強化の要請
キャッシュレス決済の急速な普及は、同時に、利用者保護・セキュリティ強化の要請の高まりにも繋がっており、ペイロール解禁の是非においてもこの点が重要な課題となっている。後記3.(2)記載の通り、金融庁も改正事務ガイドライン(不正取引対策関係)において決済事業者と金融機関の緊密な連携や多要素認証の導入を含めたセキュリティ強化を事業者に対して求めている。
決済事業に関する最新の規制動向
(1)改正資金決済法
改正資金決済法及びこれに関連する政令・内閣府令等(※3)における改正事項には以下の事項が含まれる。
- 資金移動業者において為替取引に用いられることがないと認められる資金の受入れが制限される旨が明記された(改正資金決済法第51条及び改正資金移動業府令第30条の2第2項) 。(※4)。
- 取引上限金額に従って、第一種資金移動業者(100万円超可能)、第二種資金移動業者(100万円以下、現行の資金移動業者と同じ)及び第三種資金移動業者(5万円以下)に分類されることとなった。第一種資金移動業者については取扱金額の上限が設定されない反面、業務実施計画の認可(改正資金決済法第40条の2第1項及び改正資金移動業者内閣府令第9条の3)を要することとなったほか、厳格な滞留規制(※5)が課される。第三種資金移動業者は、取扱金額の上限額が低いものの、資産保全措置として預貯金管理による分別保管を選択可能となる。
- いわゆる割り勘アプリによる個人間の収納代行取引が為替取引に該当するものとされた(改正資金決済法第2条の2及び改正資金移動業者内閣府令第1条の2参照)。
- 履行保証金保全契約を締結している資金移動業者について、利用者から受け入れた資金を原資として貸付け等を行うことを防止するための措置を講じる義務が課せられることとされた(改正資金移動業者内閣府令第30条の3)。
- 前払式支払手段発行者に委託先管理義務が課せられる等規制が強化された(改正資金決済法第21条の2及び改正前払式支払手段内閣府令第45条の2等)。
- 資金移動業者及び前払式支払手段発行者に対する情報提供義務が拡充された(改正資金移動業内閣府令第29条の2、並びに、改正資金決済法第13条第3項及び改正前払式支払手段内閣府令第23条の2)。
脚注 ※
※3 改正資金決済法及びこれに関する政令、内閣府令及び事務ガイドラインは、パブリックコメントを経た上で、2021年3月19日公布の政令及び内閣府令等に基づき、2021年5月1日より施行されることとされた。
※4 なお、金融庁は、利用者資金残高に利息に相当するようなポイント等の経済的なインセンティブを付与することは、改正資金移動業内閣府令第30条の2第2項との関係で問題があるほか出資法上の預り金規制にも抵触しうるとの見解を示している(2021年3月19日付パブリックコメント質問No.38乃至41への回答)。
※5 第一種資金移動業者は、移動する資金の額、資金を移動する日及び資金の移動先が明らかでない場合は利用者と為替取引を行ってはならず、また、速やかに為替取引を実行する必要があるとされる(改正資金決済法第51条の2及び改正資金移動業者内閣府令第32条の2)など厳格な滞留規制が課せられる。また、第二種資金移動業者においては、利用者からの受入れ資金が100万円超となる場合には利用者の資金が為替取引に用いられるものであるかどうかを確認し、為替取引に用いられる蓋然性が低いと判断される部分について払い出す対応等を求められる(改正資金移動業内閣府令第30条の2第1項)。なお、第三種資金移動業者においては5万円超となる資金の受入れが不可となる(よって5万円は個々の為替取引の上限額であり、かつ、受入れ金額の上限となる。改正資金決済法第51条の3及び改正資金決済法施行令第17条の2)。
(2)不正取引対策と事務ガイドラインの改正
2020年9月以降、いわゆるなりすまし行為による資金移動サービスのアカウント開設と銀行口座からのチャージによる不正出金事案が相次いだことを受け、金融庁は、2020年12月に事務ガイドライン改正案を公表し、パブリックコメントを経て2021年2月に改正事務ガイドライン(不正取引対策関係)(※6)が確定し、前払式支払手段発行者関係と資金移動業者関係について、以下の事項を含む改正がなされた。
- 前払式支払手段発行者及び資金移動業者とサービス連携を行う銀行等(連携先)との役割分担・責任の明確化
- 前払式支払手段発行者及び資金移動業者と連携先との協力及び適切かつ有効な不正防止策の実施(マイナンバーカードの活用や多要素認証の導入を含む)
- 不正取引の検知のための態勢整備
- 不正取引に対する補償対応(補償方針の策定と利用者への情報提供を含む)
以上の通り、現在資金決済法に関連する法令等の改正が相次いでいるところであり、改正内容・施行時期を踏まえた対応に留意されたい。
脚注 ※
※6 「主要行等向けの総合的な監督指針」をはじめとする各監督指針も同時に改正されているが紙面の都合上割愛する。
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- 寄稿
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フォーカスエイド法律事務所
代表弁護士
藤井 豪 氏弁護士・ニューヨーク州弁護士。
2016年8月から2018年7月まで金融庁市場企画局市場課で専門官として勤務。