金融機関における不祥事の予防・発見の実務対応~近時の不正事例から心理的安全性を考える


日本における不祥事対応・危機対応の実務として、第三者調査委員会や社内調査委員会を設置し、不祥事の事実関係や原因、関係者の処分、再発防止策等について検討を行ったうえで、調査報告書を開示するという実務が始まってから10年以上が経過した。このような実務は、ある程度定着したと考えてよい。しかしながら、それにもかかわらず、現在においても、大きな不祥事が後を絶たない。不祥事が発生した場合には、その内容によっては経営者は経営責任を問われ、場合によっては法的責任まで問われることになるのである。そのため、多くの経営者は、内部監査部を設置し、内部通報制度を導入し、コンプライアンス研修に力を入れるなど不祥事の発生を防止し、また、発生してしまった場合でも早期に発見しようとしている。それにもかかわらず、なぜ、大きな不祥事が発生しているのであろうか。

目次

内部統制とその限界

クレッシーの不正のトライアングルによると、不正を防止するためには、この3要素がそろわないようにする必要がある。このうち、②機会については、有効な内部統制を構築することが効果的な防止策である。内部統制については、会社法上の内部統制構築に係る決議や金融商品取引法上の内部統制報告書に基づく開示がある。大和銀行ニューヨーク支店事件のように、仮に、有効な内部統制が構築されておらず、その結果として、本来防止できるような不正が防止されずに発生してしまったときは、経営者は、内部統制構築義務違反を理由に、会社から損害賠償請求をされる可能性があるのであり、とりわけ多くの金融機関においては、これらの制度が導入される前から、経営の重点事項として内部統制の構築に経営資源を割いてきている。

このように、多く金融機関や事業会社では内部統制の構築に一定の経営資源を投入しているにも関わらず、日本の企業、それも一流企業と言われるような企業においても、組織的かつ長期的な不祥事がとまらないのはなぜであろうか。それは、内部統制には、一定の限界があるのであり、どのように内部統制を構築したとしても、それで防ぐことができない不正があるからである。例えば、経営者が内部統制を無効化している場合には、内部統制によって、経営者の不正を防止することはできない。また、「複数の担当者による共謀」がある場合も、内部統制によって、不正を防止するのは困難である。内部統制の仕組みとしては、担当者の少なくとも一方が、不適切な行為であると気が付くことにより防止する仕組みとなっていても、担当者通しで共謀している場合には、そのような確認の仕組みは機能しない。組織的・長期的に起こっている不正の多くは、複数者の共謀によりなされているものであり、内部統制が機能していなかった。実際、上記に上げた①相場操縦の事案も、②品質不正の事案も、内部統制のみでは不正を防止できなかったのである。

正当化と組織風土

不正を、内部統制で防止できない場合には、不正のトライアングルのうち残りの「動機」、「正当化」をなくすことにより防止することになる。動機は、個人的な要因も大きいが、正当化は、組織風土を改善することが有用であり、長期的な対応が必要であるものの、対応可能である。

実際、多くの調査報告書において不正の原因として組織風土が問題とされ、再発防止策としては組織風土の改善を挙げている。以下は、調査報告書で組織風土が問題としてされている事例である。

  • 危機意識の低さ
  • うえに物が言えない
  • 風通しの悪い組織風土
  • 上意下達
  • 組織的な隠蔽体質
  • むら社会
木内 敬 氏
寄稿
三浦法律事務所
パートナー弁護士・公認会計士
木内 敬 氏
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