1. HOME
  2. 事業戦略
  3. 待ったなしのITモダナイゼーション戦略(第2回)

待ったなしのITモダナイゼーション戦略(第2回)

前回は“2025年の崖”という問題の本質と、その背景にある市場環境の変化について解説してきた。第2回目となる今回はこれを踏まえ、ITモダナイゼーションの領域で国内金融機関の多くが直面する現状と問題について解説する。

待ったなしのITモダナイゼーション戦略(第2回)
  1. レガシーシステムを取り巻く環境と金融機関にもたらす”崖”
  2. 想定以上に複雑かつ険しい”崖”
※本稿は株式会社アクセンチュアの許可を得て、転載・編集しています。

レガシーシステムを取り巻く環境と金融機関にもたらす”崖”

前回触れたとおり、ITインフラの近代化という考え方は決して目新しいものではなく、多くの金融機関はこれまでモダナイゼーションの推進に向けて様々な努力をしてきた。しかしながら、こうした取り組みは必ずしも期待した成果を挙げられていないのが実情である。 その大きな足かせとなっている要因の1つが、メインフレームに代表されるレガシーシステムの問題である。既存のレガシーシステムが今問題となっている背景には、いくつかの理由が考えられる。

その1つは人材の問題である。多くの金融機関では、数々のアップデートや改良を施しながらメインフレームのシステムやアプリケーションをこれまで30年以上利用し続けているが、その構築に携わった人材が担当者として今も現場で業務に携わるケースはほとんどなく、当初の設計思想やミドルウェアの構成といった情報・知識が失われつつある。また保守管理を担う技術者の高齢化も進んでおり、レガシーシステムの保守ができる人材は今後加速度的に減少する可能性が高まっているにもかかわらず、次世代エンジニアの確保・育成は進んでいない。国内労働市場のあらゆる分野で人手不足が深刻化していることもあり、技術的な新規性に乏しく若い世代への訴求力が高いとは言えないメインフレームの保守管理という業務に優秀な若い人材を活用し、システムやノウハウを継承することが極めて困難になっている。

こうした問題はユーザーとなる金融機関だけでなく、レガシーシステムを構築し支えてきたメーカー、SIやベンダーにも影響を及ぼしている。メインフレームをはじめとするレガシーインフラ市場の縮小傾向が加速する中、極めて高い可用性を持つ既存システムの保守に必要な人的資源を確保し、サービスのレベルを維持することは大きな負担になりつつある。その結果、ハードウェア開発からの撤退、あるいは保守料金の大幅値上げに踏み切る企業も出始めており、(ユーザー企業による)現行ベンダーへの過度の依存、維持管理コストのさらなる高騰、あるいはサードベンダーの寡占化といった問題が今後深刻化する恐れが高まっている。

レガシーインフラを取り巻く環境は、開発言語の領域でも厳しさを増している。例えばメインフレームで使われることが多い開発言語COBOLは2019年末以降、情報処理推進機構(IPA)による情報処理技術者試験の対象言語から外れてしまった。COBOLは元来、非専門家による事務計算処理のプログラミングを平易にするという普遍的な設計思想で開発された言語であり、データの扱いがしやすい、システム設計がわかりやすいといった様々なメリットがある。また2002年の新規格ではオブジェクト指向プログラミングの概念も取り入れられるなど、技術的にはモダナイゼーションへの適応も可能な言語である。

しかし国内の現場ではレガシーの開発環境をアップデートすることなく、数十年前の仕様レベルで使い続けることがほとんどで、次世代にCOBOLの利用を継承するといった取り組みは見られない。こうした背景の下で“枯れていく技術”というイメージが強まり、投資規模が年々縮小しているというのが実情である。

想定以上に複雑かつ険しい”崖”

こうした状況を考えれば、ITモダナイゼーションを進める上で最も容易な方法は、レガシーシステムの段階的廃止を進めながら、並行してオープンソフトウェアベースの新たなシステムを構築し、移行を進めていくことである。しかし、金融機関の前にはビジネスケース構築の難しさという問題が立ちはだかっている。

例えば人事・給与・会計など、バックオフィス分野の業務ではERPパッケージへの置き換えといった形で既存システムから部分移行することは比較的容易かもしれない。しかしシステム全体を移行対象にする場合には、ビジネスケースという難題が立ちはだかる。つまり収益への貢献度が決して高くなく、膨大な人員・費用・期間が求められる移行プロセスに対して、社内全体でコンセンサスを形成するというハードルをクリアする必要がある。新たな価値創出につながりにくく、移行に必要な投資費用の回収へ場合によっては数十年という単位の時間がかかる案件で全社的な合意を実現するのは極めて困難と言わざるを得ない。

この問題をさらに複雑なものにしているのは、ITモダナイゼーションの中でも難易度の高い分野、つまり“容易に飛び越えられない崖”が多く残っている現状である。上述の通り、金融業界には2000年代前半・後半それぞれに1度ずつシステム近代化の流れが生じ、多くの金融機関はレガシーシステムからの移行に取り組んだ。しかしプロジェクトの検討・実行過程でリスクと難易度の高さが明らかになった分野には手を付けず、契約管理や勘定といったコア業務以外の周辺部分(いわば“容易に飛び越えられる崖”)でモダナイゼーションを進めてきたのが実情である。

その結果、中核となるメインフレームを取り囲む形で、数百単位の分散系・Web系システムが建て増しされ、システム全体の構造はさらに複雑化している。つまり現在ITモダナイゼーションの遂行が求められる領域の多くでは、これまでの取り組みをはるかに上回る巨額の投資と長い移行期間が必要とされるため、意思決定と技術の両面で“より深い崖”を飛び越えなければならないのである。

             

アクセンチュア金融サービス本部では、より早く最新の動向や弊社のインサイトをご紹介するために、金融業界向けの「金融ウェビナー」を継続的に開催している。ウェブを使ったバーチャルな1時間のライブセッションで、パソコンやモバイルから簡単に参加でき、匿名で質問することも可能。詳しくはこちら

事業戦略カテゴリのオススメの記事
変革のロードマップ(2)リソース・シフトとワーク・シフト

本連載の第1回では、デジタルトランスフォーメーション(DX)をつうじたディスラプションの現状を検証するとともに、次なるステージの取り組みが求められる背景について解説した。そして第2回では、その具体的アプローチと組織・人材戦略、特にその第1段階となるオペレーティングモデル・シフトについて話してきた。今回は変革に向けたロードマップの中で第2・3の領域となるリソース・シフトとワーク・シフトについて解説していく。

変革へのロードマップ(1)オペレーティングモデル・シフト

本連載の第1回では、デジタルトランスフォーメーション(DX)をつうじたディスラプションの現状を検証するとともに、次なるステージの取り組みが求められる背景について解説した。第2回となる今回は、その具体的アプローチと組織・人材戦略、特に第1の領域となるオペレーティングモデル・シフトについて解説していく。

ディスラプションの進行と金融業界に求められる新モデル

デジタルトランスフォーメーション(DX)のより一層の進展とともに、金融業界は従来と異なった組織運営や人材活用の改革に迫られている。本連載の第1回目は、デジタルテクノロジーの進展に伴う金融業界の環境の変化を把握し、次のステージにおいて不可欠となるDX人材戦略を探っていく。

新たな視点からのアプローチ戦略「ヒューマン・セントリック・ストラテジー」

本連載の第1回目では、市場環境の大きな変化と高まる顧客価値の重要性、そして新事業と新たな顧客体験の創出(SCALE the NEW)がこれからの時代になぜ不可欠となるのかについて話してきた。今回は、消費者のニーズ・心理の理解に軸を据えて新たなビジネスをデザインしていくための戦略“ヒューマン・セントリック・ストラテジー”(Human Centric Strategy)について解説していく。

【 寄稿 】
アクセンチュア株式会社
金融サービス本部
マネジング・ディレクター

杉山 泰之 氏

【 寄稿 】
アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
マネジング・ディレクター

西尾 友善 氏

【 寄稿 】
アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
アソシエイト・ディレクター

中野 恭秀 氏

【 寄稿 】
アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
シニアアナリスト

川口 真貴子 氏

The Finance をフォローする
注目のセミナー すべて表示する