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改正政府令案を踏まえた仮想通貨(暗号資産/電子記録移転権利)法改正の留意点―第1回・資金決済法―

2020年1月14日に公表された改正政府令案の内容を踏まえ、仮想通貨(改正法では暗号資産又は電子記録移転権利と呼ばれる)に関する法改正の内容とその留意点について、2回にわたって解説する。第1回目である本稿では、資金決済法に焦点を当てて解説する。

改正政府令案を踏まえた仮想通貨(暗号資産/電子記録移転権利)法改正の留意点―第1回・資金決済法―
  1. はじめに
  2. 暗号資産の呼称・定義
  3. 暗号資産管理業務(カストディ業務)への規制
  4. 問題のある暗号資産への対応
  5. 自主規制団体の事実上の機能強化
  6. 不適切な財産管理等への対応
  7. 業務の適正な遂行の確保
  8. 暗号資産信用取引への対応

はじめに

仮想通貨に係る法制に関しては、2018年12月に「仮想通貨交換業等に関する研究会」の報告書が公表された後(※1)、同報告書の内容を踏まえた改正資金決済法等の改正法(以下「改正法」)が2019年5月31日に成立し(※2)、6月7日に交付された。

脚注 ※
※1 https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181221.html
※2 https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

そして、2020年1月14日に、改正法に係る政令・内閣府令案等(以下「改正政府令案」)が公表され、パブリックコメントの手続に付されている(※)。

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200114/20200114.html

第1回目の今回は、公表された改正政府令案の内容を踏まえて、仮想通貨に関連する改正法のうち、資金決済法の内容について解説する。第2回目では、金融商品取引法を取り上げる予定である。

また、改正政府令案は、本稿の執筆当時パブリックコメントの手続中であるため、パブリックコメントの回答を踏まえて、情報をアップデートすることを想定している。

なお、下記で引用している改正法・改正政府令案等の具体的内容は、以下のリンク先を参考されたい。

暗号資産の呼称・定義

改正法では、これまでの「仮想通貨」という呼称が「暗号資産」に変更されている(法2条5項)。

「暗号資産」の定義については、従前の「仮想通貨」の定義を維持しつつ、第2回目で解説する「電子記録移転権利」の対象を除外することにより、資金決済法と金融商品取引法との重複適用が生じないようにしている(法2条5項但書)。

暗号資産管理業務(カストディ業務)への規制

改正法では、暗号資産の売買等を自ら行わないが、利用者のために暗号資産を管理し、利用者の指図に基づき利用者が指定する先のアドレスに暗号資産を移転させる業務(暗号資産カストディ業務)についても、他の法律に特別の規定がある場合を除き、「暗号資産交換業」に該当することとなり(法2条7項4号)、暗号資産カストディ業務のみを行う事業者も暗号資産交換業者の登録をすることが必要となる。

この点、暗号資産の移転に複数の秘密鍵による電子署名が必要なもの(いわゆるマルチシグ)について、当該秘密鍵の一部のみを保管する業務が暗号資産交換業に該当するかが問題となる。

改正事務ガイドライン案では、「利用者の関与なく、単独又は委託先と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合」には、暗号資産交換業に該当するものとしている(改正事務ガイドライン案Ⅰ-1-2-2③)。

当該記載からすれば、例えば、(1)秘密鍵が2つ存在し、その移転に両方の秘密鍵が必要な場合で、業者がその1つのみを保管し、顧客がもう1つを保管しているような場合には、暗号資産交換業に該当しないが、(2) 秘密鍵が3つ存在し、移転には2つの秘密鍵が必要な場合で、顧客はそのうち1つのみを保管し、残り2つを業者Aと業者Aから委託を受けた業者Bが保管しているような場合には、少なくとも業者Aは「委託先と共同して暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有」しているといい得るため、暗号資産交換業に該当し得ると思われる。

問題のある暗号資産への対応

改正法では、これまで事後の変更届出で足りていた、暗号資産交換業者の「取り扱う暗号資産の名称」又は「暗号資産交換業の内容及び方法」の変更については、事前届出を行うことを求めている(法63条の6第1項、63条の3第1項7号・8号)。

ただし、改正府令案では、現に取り扱う暗号資産の取扱いをやめる場合や、取り扱う暗号資産に用いられている技術・仕様の変更を理由として、保有者に新たな暗号資産が付与される場合(ブロックチェーンのフォーク等)といった一定の変更については、利用者保護に欠け又は業務遂行に支障を及ぼすおそれが少ないものとして、事後届出で足りることとされている(改正府令案11条)。

さらに、改正府令案では、暗号資産交換業者に対し、暗号資産の特性等に照らして、利用者保護に欠け又は業務遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる暗号資産を取り扱わないために必要な措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条1項5号)。

自主規制団体の事実上の機能強化

改正法では、認定資金決済事業者協会(現時点では、一般社団法人日本仮想通貨交換業協会)に加入せず、又は、協会の自主規制規則に準じる内容の社内規則を遵守するための体制を整備していないものを、登録拒否事由としている(法63条の5第1項6号)。

これにより、暗号資産交換業者の登録を受ける者については、自主規制団体への加入が事実上強制される仕組みとなっている。

また、改正府令案では、認定資金決済事業者協会の自主規制規則又はこれに準ずる社内規則に違反する行為であって、利用者保護に欠け又は業務遂行に支障を及ぼすおそれがある行為を行うことを禁止している(法63条の9の3第4号、改正府令案20条13号)。

不適切な財産管理等への対応

(1)受託金銭の管理

利用者からの受託金銭の分別管理については、従前は自己資金とは別の預貯金口座での管理が許容されていたが、改正法では、信託会社等への信託を義務付けている(法63条の11第1項)。

改正府令案では、信託会社等への金銭信託(利用者区分管理信託)の要件として、金融商品取引法に規定する通貨関連デリバティブ取引等に係る金銭信託(顧客区分管理信託)と類似した方法によるべきことを規定している(改正府令案26条)。

(2)受託暗号資産の管理

利用者から受託した暗号資産の分別管理については、従前は利用者ごとの財産を直ちに判別できる状態で管理することで足りていたが、複数の業者において秘密鍵をホットウォレット(外部のネットワークに接続されているウォレット)で管理していた暗号資産の流出事案が発生した。

そこで、改正法では、受託暗号資産の分別管理については、秘密鍵をコールドウォレット(外部のネットワークに接続されていないウォレット)等の安全性の高い管理方法で管理することを原則とし、その具体的内容は内閣府令で定めることとされた(法63条の11第2項)。

これを受け、改正府令案では、利用者の暗号資産の管理を、「利用者の暗号資産を移転するために必要な情報」(秘密鍵)を、常時インターネットに接続していない電子機器等に記録して管理する方法(すなわちコールドウォレット)その他これと同等の技術的安全管理措置を講じて管理する方法(以下、便宜的に「安全性の高い管理方法」という)によることと定めている(改正府令案27条3項)。

なお、改正事務ガイドライン案では、一度でもインターネットに接続したことがある電子機器等は「常時インターネットに接続していない」電子機器等には該当しないとされており、また、「同等の技術的安全管理措置」として認められる例が示されている(改正事務ガイドライン案Ⅱ-2‐2‐3-2(3)⑤)。

ただし、利用者からの移転指図に迅速に対応する等、利用者の利便確保等を図るために、暗号資産交換業者が管理する利用者の暗号資産全体の5%(日本円換算額)に相当する数量の暗号資産を上限として、必要な最小限度の暗号資産を、安全性の高い管理方法以外の方法(すなわちホットウォレット等)で管理することも許容されている(改正府令案27条2項)。

(3)履行保証暗号資産の保有義務

上記(2)のとおり、業務遂行上の必要性から、受託暗号資産の一部を、安全性の高い管理方法以外の方法で管理することを認めているところ、当該受託暗号資産が流出することにより、利用者への返還義務の履行に支障をきたすおそれがある。

そこで、改正法では、安全性の高い管理方法以外の方法で管理された暗号資産と同種同量の暗号資産(履行保証暗号資産)を、内閣府令で定める方法により、自己の固有財産とは分別して管理することを義務付けている(法63条の11の2)。

これを受け、改正府令案では、履行保証暗号資産の管理方法として、上記(2)で述べた安全性の高い管理方法によるべきことを規定している(改正府令案29条2項)。

また、上記に加え、改正府令案では、履行保証暗号資産と同額(日本円換算)以上の純資産額を保持していないことを、暗号資産交換業者の登録拒否事由としている(法63条の5第1項3号、改正府令案9条1項2号)。

(4)利用者の優先弁済権等

上記(2)(3)で述べたとおり、改正法では、受託暗号資産及び履行保証暗号資産についての分別管理を義務付けているところ、改正法は、さらに、暗号資産交換業者に対して暗号資産の返還を目的とする債権を有する利用者には、受託暗号資産及び履行保証暗号資産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利(民法上の先取特権)を有することとしている(法63条の19の2)。

また、改正法では、暗号資産交換業者から暗号資産の管理の委託を受けた者その他の関係者に対し、上記の受託暗号資産の返還義務の履行に関し、当局からの要請に応じた協力を行う努力義務を課している(法63条の19の3)。

(5)その他

改正府令案では、業者の財務の健全性を利用者等が認識できるようにする観点から、暗号資産交換業者に対して、貸借対照表や損益計算書を公表する措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条1項7号)。

また、暗号資産交換業者が暗号資産の借入れを行う場合に、取引相手方に対して一定の事項を表示する措置や、過大な借入れが行われないよう借入残高を適切に管理するための体制を整備する措置を講じること等も求められる(改正府令案23条1項8号)。

さらに、暗号資産交換業者に対し、暗号資産の流出等により、利用者の暗号資産の返還に関する債務が履行できなくなった場合における債務の履行方針を公表し、かつ、実施する措置を講じることを義務付けている(改正府令案23条3項)。

業務の適正な遂行の確保

(1)広告に係る表示義務

改正法では、暗号資産交換業の広告に関し、暗号資産が法定通貨ではないこと等の一定の事項の表示を義務化している(法63条の9の2)。

改正府令案では、表示が必要となる事項として、暗号資産の価値の変動を直接の原因として損失が生じるおそれがあることや、暗号資産は代価の弁済を受ける者の同意がある場合に限って使用することができることを定め(改正府令案18条)、また、表示方法として、一定の重要事項の表示については、他の事項の表示に係る文字のうち最も大きなものと比較して著しく異ならない大きさによらなければならないこととしている(改正府令案17条)。

(2)広告・勧誘に係る禁止行為

改正法では、暗号資産の広告・勧誘等に際し、誤認させるような表示や専ら利益を図る目的での取引を助長するような表示を禁止することとしている(法63条の9の3第1号~3号)。

改正府令案では、上記の禁止行為に加えて、裏付けとなる合理的な根拠を示さない表示の禁止(改正府令案20条1号)、不招請勧誘の禁止(継続的取引関係にある利用者を除く。同条3号~5号)、利用者の知識等に照らして不適当と認められる勧誘の禁止(同条6号)、断定的判断等の提供の禁止(同条7号)等を規定している。

(3)取引価格の透明性の確保等

改正府令案では、暗号資産取引における取引価格の透明性の確保や利益相反の防止の観点から、暗号資産交換業者に対して、以下のような措置を講じることを義務付けている。

  • 暗号資産交換業者が提供する取引の場における約定価格及び認定協会が公表する参考価格、並びに、暗号資産交換業者を相手方とする相対取引においては当該業者が提示する相対取引価格(売値及び買値)を継続的に表示すること(改正府令案23条2項1号)
  • 暗号資産交換業者が利用者に複数の取引方法(顧客間の取引と相対取引等)を提供する場合に、最良の条件で執行するための方針及び方法の公表・実施や、業者との相対取引を成立させた場合に、それが最良の条件による執行であったことの理由についての情報提供等(同項2号)
  • 暗号資産交換業者と利用者との利益相反により利用者の利益が不当に害されないよう、情報を適正に管理し、業務の実施状況を適切に監視するための体制の整備・方針の策定・公表(同項3号)

(4)暗号資産の不公正な取引に係る規制

改正府令案では、暗号資産に関する不公正な取引を規制する観点から、以下のような規定を設けている。

  • 利用者の注文動向等に応じ、利用者が金融商品取引法で規制される不正行為の禁止、風説の流布等の禁止及び相場操縦行為等の禁止の規定に違反していないか審査し、違反する疑いがあると認める時は取引停止等を行う等、不公正な行為の防止を図るために必要な措置を講じることの義務付け(改正府令案23条2項4号)、利用者が上記金融商品取引法違反取引を行うおそれがあることを知りながら、これらの取引やその受託等をする行為の禁止(改正府令案20条8号)
  • 暗号資産等に関する重要情報で取引判断に影響を及ぼすと認められるものを適切に管理するために必要な措置を講じることの義務付け(改正府令案23条1項6号)、自己又は第三者の利益を図ることを目的として、暗号資産等に関する重要情報で取引判断に影響を及ぼすと認められるものを第三者へ伝達し、又は利用することの禁止(改正府令案20条11号)
  • 暗号資産交換業者が作成・保存すべき帳簿書類として、注文伝票を追加(改正府令案33条1項4号、36条)

暗号資産信用取引への対応

暗号資産の信用取引については、元手資金(保証金)にレバレッジを効かせた取引を行う点で、第2回目で解説する暗号資産のデリバティブ取引と同じ経済的機能やリスクを有する。

そこで、改正法では、暗号資産交換業者が信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合には、利用者保護や業務の適正かつ確実な遂行を確保するため、内閣府令で定める措置を講じなければならないとしている(法63条の10第2項)。

これを受けて、改正府令案では、以下のような規定を設けている(なお、改正事務ガイドライン案Ⅱ-2-2-2に各項目の詳細が規定されている。)。

  • 暗号資産信用取引を行う際等における一定の情報提供(改正府令案25条1項~4項)。
  • (i)個人の利用者について、預託保証金額が、利用者が行おうとする暗号資産信用取引の額の50%未満となる場合に、(ii)個人以外の利用者について、預託保証金額が、利用者が行おうとする暗号資産信用取引の額に告示において定める暗号資産リスク想定比率を乗じて得た額を下回った場合に、その不足額を預託させることなくその信用取引を行うことのないようにするために必要な措置を講じること(同条5項1号・2号、いわゆるレバレッジ規制)
  • 個人の利用者について、暗号資産信用取引を決済した場合に利用者に生じる損失額が一定の額に達する場合に、暗号資産信用取引を強制的に決済(ロスカット取引)するための十分な管理体制の整備、ロスカット取引の実施(同項3号)
  • その他、利用者保護や業務の適正かつ確実な遂行を確保するため必要な体制の整備(同項4号)
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【 寄稿 】
弁護士法人大江橋法律事務所
弁護士

櫻井 拓之 氏

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