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基準に即したシステム開発と最新情報のキャッチアップに課題

「2023年1月1日以降に開始する事業年度」からの適用延期が正式に決定した、IFRS第17号「保険契約」。IASB(国際会計基準審議会)が当初の基準を公表してから3年が経つ中、実務への適用サポートを目指した会合などを通じて基準の解釈統一や適用にあたっての課題が整理されてきたが、当事者である保険会社はどう対応してきたのか。東京海上ホールディングスに聞いた。

基準に即したシステム開発と最新情報のキャッチアップに課題
  1. どのような体制で臨んでいるか
  2. 課題や苦労している点は
  3. そうした中で、IFRSを採用するメリットはあるのか

どのような体制で臨んでいるか

藤井 当社はホールディングスの連結決算においてIFRS(国際会計基準)を適用させる方針だ。現在、部署横断的なプロジェクトチームを組み、IFRS第17号が発効する2023年度には、IFRSの適用が可能になるよう準備を進めている段階。IFRS第17号「保険契約」(以下、IFRS第17号)の対応にあたっては、経理部がプロジェクトマネージャーとして主導している。チームには経済価値ベースでの保険負債および保険リスクの計測・分析を担当するリスク管理部の数理チーム、システム部門、商品部門なども参加している。

保険負債などを計測するシステムは、情報ベンダーが提供するソフトをカスタマイズして導入する会社も多い。当社グループでは東京海上日動火災など国内社はインハウスでの開発を進め、海外のグループ会社ではベンダーソフトを購入することにしている。インハウス開発はロードがかかるのも確かだが、既成のソフトの場合、ベンダーのリソースに依存してしまうことや想定外のシステム上の制約といったリスクもあり、一長一短と考えている

また、当社は海外のプレゼンスも高く、IFRSの採用にあたっては米国、英国、ブラジル、シンガポールなどの海外グループ会社と連携して、基準の解釈を検討し、実務上の課題や実効性などを検討している。

課題や苦労している点は

藤井 あいまいさが残る基準に即したシステム開発に苦慮している。当社におけるシステム開発は、規制対応であれ、商品メンテナンスであれ、従来はやるべきことが定まった上で、業務の全体像を固め、要件を定義してシステム開発を進めるのが一般的であった。だが、IFRS第17号は2017年に基準の最終案が発表されてから3年の間、基準の解釈も変わり実務対応のための手当ても追加されるなど、ゆるやかに変化してきている。さらに「原則主義」のIFRSでは、個社ごとの裁量が大きいため、決定を委ねられている項目も数多く、システムが目指すべきゴールの設定が難しい。先々の変更を見越して、優先順位を変えながら、今も手探りで開発を進めているのが実状だ。そうした中で、海外も含めた業界内の対応事例やノウハウなどは大変参考になる。しかし、IFRSが任意適用の日本では最新情報のキャッチアップに限界があると感じる。例えば、グローバルな保険会社や監査法人が本拠地とする欧州にいれば、距離や時差を考慮せずにそうした企業との情報交換もしやすいし、IASBとの意見交換も比較的容易にできる。

子会社との情報共有と欧州主要保険会社などへのヒアリングを目的に、欧州は毎年訪れていたが、コロナ禍で直接会って情報交換をする機会も制限されている。オンライン会議という手段はあるが、時差のある中では時間的な制約も多いうえ、やはり情報量はフェイストゥフェイスにはかなわない。

そうした中で、IFRSを採用するメリットはあるのか

藤井 国際的に共通する指標を採用することの意義は大きい。グループ内の会計関連のコミュニケーションのスマート化を達成できるし、同業間の経営状態の比較も容易になる。また、外部の投資家へメッセージを出しやすくなるはずだ。今後もIASBの動向を注視しつつ、対応していきたい。

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【 インタビュー 】
東京海上ホールディングス
経理部
マネージャー

荒川 潔 氏