- 「MUFGにおけるデータ利活用戦略」
株式会社 三菱UFJフィナンシャル・グループ 木下 敬規 氏 - 「データの持つ力を開放して金融機関の競争力を強化するデータ分析の実現」
クリックテック・ジャパン株式会社 吉田 浩之 氏 - 「5万回のA/Bテストで見えた、CX(顧客体験)の改善事例〜非対面チャネル編〜」
株式会社Sprocket 深田 浩嗣 氏 - 「データドリブンアプローチを実現するデジタルイノベーションプラットフォームとは」
デル・テクノロジーズ株式会社 藤森 綾子 氏 - 「住信SBIネット銀行におけるNEOBANKを通じた金融サービスの変革」
住信SBIネット銀行株式会社 服部 浩久 氏
「MUFGにおけるデータ利活用戦略」
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社 三菱UFJフィナンシャル・グループ
経営企画部 部長
木下 敬規 氏
<これまでのデータマネジメントへの取り組み>
2008年のリーマンショックを契機に、取引明細の把握やリスクの所在認識などのため、データの重要性は高まってきた。2013年に「BCBS239」が公表され、当社はデータガバナンスの必要性が増しているという認識のもと、リスク統括部の傘下に経営情報室を設置した。翌年にはグループCDOを設置し、データガバナンスを強力に推進する態勢を構築。2015年末のBCBS239の遵守期限は大きなトラブルなく迎えられた。
こうしたデータガバナンス態勢の構築・整備に多大なリソースを費やしてきたが、足元ではデータをビジネスに繋げる「攻め」の戦略に軸足をシフトしている。2019年に「OCEAN」というビッグデータ基盤を立ち上げた。2022年には、データ利活用を全社的に推進するため、経営企画部の傘下に経営基盤改革室を設置した。
<データ利活用の方向性>
「守り」と「攻め」の2つの軸でデータ利活用を進めている。「守り」はコスト削減であり、デジタライゼーションに該当する領域だ。具体的には報告書等の作成自動化、データ標準化等によるシステム構築・運用コスト低減だ。「攻め」は、まずデータ分析を深めることであり、OCEANにデータを一元的に集約し、BIツールを使って分析を効果的・効率的に行う。AI等の活用も視野に入れている。その先に、ビジネスユースへのデータ活用、デジタル顧客体験、FinTech企業との連携等のデジタル戦略がある。
<データ利活用の推進体制>
全社的なデータ利活用の加速を目的に、データ領域の機能を、CSOをヘッドとする経営企画部に集中させている。CIOをヘッドとするシステム企画部や、CDTOをヘッドとするDX室、各ビジネス部門とも連携し、データドリブン経営の実現を目指している。
<データ利活用推進の課題>
データ利活用推進では、インフラ・データ・ヒトの3つの要素を、同時並行で強化する必要がある。1つ目に、システムアーキテクチャ戦略により、「ハコ」としてのインフラを用意する。2つ目に、データレイクOCEANにデータを集約し、「中身」の準備を行う。3つ目は人材育成・カルチャー変革であり、BIツールを使ったデータ分析や報告・アクションだ。3つの要素のうちどれか1つを突出させることなく、同時に強化していくことが重要だ。
<全行アーキテクチャ戦略>
3つの要素の詳細について、個別にお話しする。システムアーキテクチャ戦略は、勘定系システムの抜本的見直しを通じ、ビジネス変化への対応、コスト削減、安心・安全な業務継続を目指す。システム統廃合・再構築では、複雑性を解消し、柔軟性を持たせることを意識して推進している。API連携では、オープンな他社連携を実現するとともに、新たなアイデアの取込みも狙いに含まれる。
システム刷新にあたっては、ビジネスをシステムに適合させる発想も必要だ。システム、商品サービス、事務の3つは連携しており、システムを構築する際には、業務や商品サービスの見直しも必須だ。
<データ基盤整備>
データレイク「OCEAN」を構築し、課題であるデータ集約、データ標準化に取り組んでいる。非常に難易度が高く負荷も大きい取り組みだ。様々な理由で使える状況になっていない「データ」が多くある。真因を突き止め一つひとつ丁寧に対応を進めて、使える「データ」を増やしていく必要がある。
<データ利活用に向けた人的資本投資>
当社は「デジタル」「サステナビリティ」「カルチャー改革」を経営上の重要課題としている。これらに共通して必要なのはデータとデータ人材であり、データ人材に関しては、3つのステップを念頭に育成を進めている。ステップ1はデータナレッジ・スキル習得、ステップ2はデータ活用の実践力の習得(BI活用)、ステップ3はデータ活用による変革に向けた思考力・構想力の強化(AI活用)だ。
ステップ1のデータナレッジ・スキル習得のため、各種研修を実施している。全社員対象のeラーニングのほか、階層別研修として、新人には「データ分析の基礎」、若手には「BI操作スキルの習得」、中堅には「データの業務への活用」などをテーマに研修を行っている。社内のBIツールを一本化する目的は、共通言語化することによりナレッジ・スキルの普遍的な醸成を図ることだ。
ステップ2のBI活用では、社員が業務に追われる中で、いかに並行してBI活用を推進できるかが大きなテーマだ。そこで経営基盤改革室にCoEを設け、BIツールの利用に長けた者を集中的に配置した。CoEがいわば「家庭教師」となって課題を解決している。
<今後の展望>
外部環境の変化をいち早く捉え、内部資源の課題を踏まえながら、スピード感をもってデータ戦略に取り組む。重要なのはモノ・ヒト・カネをどう配分するかだ。モノであるシステムやデータに関しては、機動的で柔軟なインフラ整備を行うと同時に、厳格なデータガバナンスも並行して進める。ヒトに関しては、デジタル人材拡充に向けた中期計画に基づき、人材育成プログラムの充実を図る。カネに関しては、お客さまニーズの変化に応じてビジネス戦略を柔軟に見直すとともに、技術進歩やコスト上昇を踏まえてソリューションを選定する。
<データ戦略の推進事例 ~カーボンニュートラル~>
当社はカーボンニュートラルの実現に向けて、投融資ポートフォリオのGHG(温室効果ガス)排出量ネットゼロをコミットし、お客さまの脱炭素化を支援している。お客さまの排出量のデータ、外部データなど様々なデータを駆使しながら、迅速かつ効率的なGHG排出量の計測・可視化のため、データインフラ基盤を整備している。
<最後に>
変化が速く、不確実性・不透明性の高い時代を迎え、お客さまのニーズが多様化している。その個々のニーズを把握し、対応していく必要がある。「分かってからやる」ではなく「やって分かる」がキーになると考えている。まずはスモールスタートし、トライ&エラーでチューニングしながら、より良いものに変えていく取り組みが、IT・デジタルの世界では非常に有効だ。