「りそなホールディングスにおけるデータマーケティングの取組みおよび今後のビジネス展望」
- 特別講演
【講演者】 - 株式会社りそなホールディングス
DX企画部 グループリーダー
後藤 一朗 氏
<りそなグループの概要・経営課題>
りそなグループは、個人顧客数が約1,600万人、法人顧客数が50万社と、本邦最大の信託併営リテールバンキンググループだ。リテールビジネスに業務をフォーカスしているのが特徴だ。
従来銀行業務のほとんどはフィジカルチャネル、会えるお客さまを対象としていた。ごく一般的なお客さまとは、ATMやインターネットバンキングで関係が止まる状態であった。これに対してデジタルチャネル、会えないお客さまに関してどのように接点を持つかが非常に大きな経営課題となっていた。あらゆる収益は基本的にお客さまとの接点から発生するものであり、接点が限られると収益も小さくなってしまうためだ。
<りそなグループのデジタルバンキング戦略>
顧客接点を増やすため、バンキングアプリを中心とする非対面チャネルの強化をデジタルバンキング戦略とした。りそなグループアプリのキャッチコピーは当初から「スマホがあなたの銀行に」としており、お客さま一人ひとりの支店がスマホの中にあるような世界観を目指してきた。インターネットバンキングの延長ではなく、スマホビジネスに本気で取り組む姿勢でリリースしたアプリだ。様々な賞を受賞し、お客さまからも一定の評価をいただきながらユーザー数を増やしている。
<りそな銀行アプリの現状実績>
ATMやインターネットバンキングといった他のチャネルが接点として伸び悩むのと対照的に、リリースから4年で480万ダウンロードを達成し、最大のチャネルであるATMを抜いた。アプリユーザーの年齢分布では20代~40代の現役層が多く、男女比もほぼ50%で、新たな顧客層との接点を確保した。継続利用率も月間で約75%、平均アクセス回数は月間11回以上で、継続的な顧客接点の確保にも繋がっている。また積立定期預金や外貨預金におけるチャネル構成比を見ると、2021年9月時点でアプリが80%を超えた。アプリを通じた取引が確実に増えており、デジタル化が加速している。収益効果に関しても、アプリを通じたデビットカードの利用額、他行宛て振込件数、外貨・外為収益はいずれも増加している。投資対効果の測定においても基準を満たしている。
継続的な改善活動も行っており、アップデート回数は150回以上、改善項目数は累計で1,000項目以上に及ぶ。実際にやってみて感じたことだが、アプリの世界は本気で取り組まないと、お客さまに使っていただけるものにはならない。チームラボ様、IBM様といったベンダーの方々と協力しながら、日々の改善に取り組んでいる。
<データマーケティングの取組み>
チャネルが先かマーケティングが先かで、当行でも議論があったが、結論としてはチャネルが先だったと実感している。データマーケティングやこの後お話しするデータサイエンスに関しては、すべての下敷きとして顧客接点があったということをお伝えしておきたい。
しかし何も考えずにチャネルを整備してきたわけではなく、りそなグループアプリでは開発段階から、お客さまとのコミュニケーションを取るための仕掛けを施した。具体的には、りそなのアドバイス配信だ。画面上部にベルのマークがあり、我々からお客さまへ通知を出すと赤くなる。ここをタップすると、マーケティングオートメーションによって内容を一人ひとり出し分けて表示する、イベントベースドマーケティングの仕組みだ。その後は取引へスムーズに移動し、なるべくアプリ内完結でコンバージョンを取ることにこだわって開発している。
データマーケティングの取組みで痛感したことは、まず接点のボリュームが大事で、有効な接点がないとPDCAを回せないということだ。次に、スムーズな取引導線がないとコンバージョンに結び付かない。さらにコミュニケーションを最適化することで取引をどう伸ばすのかという議論がようやくできるようになる。我々が行っているのは愚直な取組みの繰り返しだと考えている。前述したアドバイスの仕組みで一番注力しているのはPDCAにおける効果検証だ。A/Bテスト、コントロールグループの設定など、マーケティングの基礎をしっかり実践することに力を入れている。
<データマーケティングの成果>
アドバイスの自動配信モデル数は5年間で積み上げることができ、配信数・収益も伸びている。アプリでの成果をアプリだけで終わらせてしまうのはもったいないということで、営業店やコールセンターといったリアルチャネルでもどう活用するのか、研究を進めている。
<データサイエンスへの取組み>
データサイエンスに関しては、データだけでなくビジネスも重要だと感じている。何のためにデータ活用をするのか、どのような成果を出せば望ましいのか、仮説を立てて検証するのにビジネス力は必要だ。ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニア力を融合することで、データを起点とした新たなビジネスチャンスの創出に挑戦している。
<データサイエンス事例>
りそなグループアプリを契機に、データの質と量が大幅に向上した。例えばアプリの行動系のデータはお客さまのニーズ予測において非常に重要ということが見えてきている。外貨預金サービスの事例では、行動系のデータを活用することでニーズ予測のモデルの精度が大幅に改善した。
セグメンテーションでは従来、取引実績からお客さまをグループ分けしていたが、お客さまのライフスタイルやライフステージを表すものではないのが課題であった。そのようなセグメンテーションから脱却するため、銀行サービスの使い方によってグループ分けする方法を試みた。クラスター分析を使い、メインバンク・クレカ派、メインバンク・現金派、貯蓄用といったグループに分類した。グループごとにアプリの通知・訴求内容を出し分けることで、一定の成果が出ている。
次にご紹介するのはライフイベントの事例で、子どもの誕生や転居といったライフイベントは様々なニーズが発生し、お客さまの困りごとを解決すべきタイミングだ。たとえば予測した子どもの誕生スコアは、カードローン契約率と正の相関がある。子どもが生まれるとお金が入用になる局面が増えると考えられ、カードローンの契約率が高まる。既存のカードローン予測モデルもあるが、子ども誕生スコアと組み合わせることにより、カードローン推進時のヒット率向上にも活用していく。
<組織体制>
データ利活用に関して、当社はようやく「車輪が回り始めた段階」と捉えており、今後もどんどん高度化に取り組んでいきたい。これまでの積み重ねを通じて、お客さまと近い距離でPDCAを回すのが重要だと感じている。我々の場合、お客さまとの接点を司る部署の一部門としてデータサイエンス部があるのが大きな特徴だ。アプリ通知を行うアドバイス企画チームと高度分析を行うチームが隣同士で業務を行っているため、分析アウトプットの施策案の提案、施策結果のフィードバックといったやり取りを、高頻度で行える。
<今後のビジネス展開>
マーケティングの考え方は企業によって様々だが、同じ銀行業なら活用すべきデータ、重視すべき顧客、通知するべき商品・サービス等は共通する部分も大きいのではないかと考えている。現在進めている「金融デジタルプラットフォーム」はデジタルバンキングの基盤であり、地域金融機関の方もご一緒できることがあれば、共同で取り組んでいきたい。具体例として常陽銀行様や足利銀行様では、りそなグループアプリのフォーマットを活用する形式で、それぞれの銀行様のアプリとしてリリースさせていただいた。将来的には分析のあり方なども、一緒に研究できることがあるのではないかと議論を開始している。