- 「ライフネット生命の重点領域『顧客体験の革新』」
ライフネット生命保険株式会社 伊藤 裕樹 氏 - 「キーエンスの高収益を支えるデータ活用~保険業界の活用事例~」
株式会社キーエンス 渡邊 康弘 氏 - 「顧客体験を最適化し『LTV向上』につなげる、顧客データ活用」
トレジャーデータ株式会社 小林 広紀 氏 - 「Salesforceで実現する両利きの保険チャネル」
株式会社セールスフォース・ジャパン 東山 勇介 氏 - 「保険システムの課題の9割を解決する。今日覚えるモノシリックとマイクロサービスの知られていない深い溝」
eBaoTech Japan株式会社 河上 勝 氏 - 「もっとお客様の近くに。ペット保険のアニコム損保が取り組む顧客体験DX」
アニコム ホールディングス株式会社 加藤 一輝 氏
「ライフネット生命の重点領域『顧客体験の革新』」
- 基調講演
【講演者】
- ライフネット生命保険株式会社
CXデザイン部長 兼 データサイエンス推進室長
伊藤 裕樹 氏<はじめに>
今回は「ライフスタイルの変容と保険チャネルの強化」というセミナー全体のテーマに基づき、消費者のライフスタイルの変化に対して当社がどう向き合ってきたのかについてご紹介したい。取り組み事例中心の話にはなるが、単なる取り組み紹介にとどまらず、そこから得た知見、さらに今後の取り組み方針についてもお伝えできればと考えている。
<保険市場の特徴>
当社は2008年に開業した新しい保険会社であり、オンライン専業である点に特徴がある。当社の保険会社としての具体的な歩みについて紹介する前に、まずは創業の背景となった生命保険業界の特徴について取り上げたい。我々としては、日本の生命保険業界には、2つの特徴があると考えている。
1つ目の特徴は「大きな市場」である。世帯ごとの生命保険加入率がきわめて高い、生命保険事業がストックビジネスであるといった理由から、日本の生命保険市場は年間の保険料総額30兆円、1世帯あたりの保険料の年平均額が40万円と、非常に大きな市場になっている。
2つ目の特徴は「大きな非効率」である。これは、保険会社と顧客の間の情報の非対称性を意味する。大きな規模の市場を抱えているにも関わらず、これまで日本の保険業界は大きな問題を抱えていた。
従来、保険会社は顧客ニーズに合わせて、多種多様な商品を開発してきた。しかし、多種多様な商品が生まれた結果、保障内容が複雑になっているという現象が起きてしまった。顧客が、販売されている保険商品の内容を理解できなくなっているのだ。 さらに、商品を一社専属の営業職員が販売するシステムを採用していたがために、顧客が他社の商品と比較検討できない、各種規制によって企業間の競争が抑制されて保険料の高止まりを招いている、といった課題もあった。
<会社紹介>
当社ライフネット生命は、従来の保険業界が抱えていた問題を解決するべく、これまでになかったタイプの生命保険会社を目指して創業された。 先ほど紹介したように、従来の生命保険事業にはさまざまな問題点があった。そして、これらの問題がもともと存在していたところに起きたのが、2005年から2006年にかけて発生した保険会社による保険金・給付金の不払い事件である。これらの一部保険会社による不祥事は社会問題化し、生命保険業界全体が世間の批判という大きな逆風にさらされることになった。 こうした保険業界の厳しい状況・課題に正面から向き合う形で生まれたのが当社である。 ライフネット生命は「正直に わかりやすく、安くて、便利に。」を生命保険マニフェストとしている。業界の常識にとらわれず、お客さま視点を追求することが、我々の使命である。 20~40代の子育て世代から支持を受けている。
<「顧客体験の革新」の重要性>
当社は創業以来、大方順調に成長を続けてきた。しかし、ずっと右肩上がりに業績を伸ばしてきたわけではない。デバイスシフトの遅れなどが原因で一時期下降トレンドに陥ってしまったことがあった。 チャネルの整備、営業費用の投下といった施策により、現在は第2成長期を迎えることができているが、当社にとっては苦い経験である。
一方、いったん下降トレンドに入ってしまったという経験は、当社に大きな気づきをもたらした。それは、時代に合った顧客体験を提供し続けることが重要だということだ。 以後、当社は顧客体験を重視し、経営方針の中で顧客体験の革新を重点領域に掲げている。 2つのキーワードから構成される。
それがストレスフリーとエンゲージメントだ。
ストレスフリーとは、一連のカスタマージャーニーにおいて、いかにストレスを軽減した顧客体験を提供できるかということを意味する。具体的には、利便性や商品、サービスのスペックといった機能価値の追求がそれにあたる。 そしてエンゲージメントは、顧客接点の創出や適切なコミュニケーションを通して顧客のエンゲージメントを図ることを意味する。いわば情緒的価値の追求である。 生命保険は契約して終わりというタイプの商品ではなく、中長期的の加入が前提となる商品だ。だからこそエンゲージメントを重視する必要がある。 営業担当がいないオンライン生保だからこそ新しい顧客接点を創出し、顧客とのコミュニケーションを取ることを重視している。
現在、当社の顧客体験はスマホが中心だ。そして、スマホ上のサービスは日々進歩しており、顧客のサービスに対する期待値も上がっている。一方、保険は顧客にとっては難しいというイメージを持たれがちなものだ。 そこで当社では、シンプルでわかりやすいウェブサイト作りを始めとする施策を通して、充実した顧客体験を提供できるよう努めている。
<顧客体験の革新を目指して>
現在、当社では顧客体験の革新を加速するために、データの活用による顧客の可視化およびパーソナライズされたコミュニケーションという2つの施策に取り組んでいる。 まず、データの活用では、属性契約データやウェブログなどの行動データ、VOCといった多様なデータをもとに顧客のインサイトや商品の検討状態を可視化している。顧客の行動データをもとに予測し、各顧客に合ったパーソナライズなコミュニケーションを先回りして提供することを目指している。 具体的な施策としては、リアルタイムでの案内などを活用したログインエラー時における顧客体験の改善、家族やパートナーと共有しやすいLINEでのサービス開発などがあげられる。
さらに、顧客体験を革新するためにはCXデザイン部門だけでなく全社的な取り組みが求められることから、各部門の情報共有や1人1人の社員の自発的な行動を促すインターナルマーケティングの試みを行い、顧客体験の革新に対する意識醸成を全社的に図っている。
<今後の取り組みについて>
昨今のコロナウイルス感染症は、生命保険市場にも大きな変化をもたらした。新型コロナウイルスへの感染という健康不安による生命保険ニーズが顕在化されただけでなく、対面から非対面への行動変容という構造的な変化が起きている。このような状況下で、外出せずとも契約できるオンライン生保への注目度は高まっている。 このような状況下にあって、当社では、顧客体験の革新を競争力の源泉としたいと考えている。具体的には、データやUXリサーチを通してインサイトを適切に捉える「顧客理解」、リアルタイムで適切なコミュニケーションを実現する「API活用」、ファーストパーティーデータの収集・活用による「パーソナライズコミュニケーション」の3つのチャレンジを継続し、顧客体験の向上に努めていきたい。 正直に わかりやすく、安くて、便利に。」という生命保険マニフェストはそのままに、顧客体験の革新や販売力の強化、システム領域といった重点領域に投資を行い、よりよい顧客体験の実現を目指す。
また、行動変容に伴う業界の構造的変化に対応し、オンライン生保市場を牽引する存在となるべく、保険証券の管理サービスや商品の拡充、保険比較サイトなどといった新しいサービスの提供にも積極的に取り組んでいきたい。 今後も当社は、インターネットの生命保険会社から、生命保険のインターネット企業への変革を目指し、これからも顧客のライフスタイルの変化に合わせた挑戦を続けていきたいと考えている。
- ライフネット生命保険株式会社