「もっとお客様の近くに。ペット保険のアニコム損保が取り組む顧客体験DX」

加藤 一輝 氏
【講演者】
アニコム ホールディングス株式会社
DX企画部
部長
加藤 一輝 氏

<はじめに>

当グループは、ペット関連の幅広い事業を展開する企業グループである。事業の中核は日本のペット保険の草分け的存在であるアニコム損害保険であるが、現在ではブリーディング支援事業をはじめペットの一生と飼い主の生活に寄り添うさまざまなサービスを提供している。今回は、顧客体験向上のために当グループが行ってきた取り組み事例を3つご紹介したい。

<LINEを活用した顧客接点DX>

まずご紹介したいのが、LINEを活用した顧客接点の創出である。保険の加入は入力項目も多く、顧客にとっては煩雑で難しいイメージをもたれがちである。こうした心理的な付加を少しでも低くしようと開発したのが、LINEでの保険加入だ。当社の保険契約者は30~50代の女性が多い。こうした方が使い慣れているLINEを活用することで、保険加入へのハードルを下げようと考えた。

1つ目の特徴はチャット形式で保険加入に必要な情報を入力できることだ。また、イラストの採用やかわいらしいメッセージを表示するなど、途中で離脱が減るような工夫も行っている。LINEによる保険加入は企業側にもメリットがある。当社の保険加入経路はオンラインと紙と2通りがあるが、LINEのようなオンラインの手続き方法は紙の申し込みに比べると事務処理コストが低くなる。LINEを使った申し込みを推奨することは、コスト削減にも貢献している。保険契約の場合、 LINE のレギュレーションの観点から契約手続きを全てLINE内だけで完結させるのは難しい。それでも、保険加入に特有の煩雑な入力作業の一部を対話形式で進めることで、保険に加入しようとしている方の抵抗感は減らせたのではと考えている。さらに、当社では申し込み時のみならず、保険金請求の場面においてもLINEを活用している。ペット保険は使う頻度が高く、契約者のうち6割の方が保険を使っている。自動車保険や一般的な損害保険に比べると、利用頻度は圧倒的に高い。だからこそ、顧客の利便性向上のためには簡単に保険を使えることが大切だと考えている。そこで当社では創業当時から保険証を発行し、そちらを動物病院の会計窓口に提示することで保険金請求が完了する「窓口精算」というシステムをとってきた。現在では大半の動物病院で窓口精算が可能になっている。もっとも、契約者の中には対象外の病院に通院する方もいるし、保険証を忘れて後日精算になるという方もいる。そのため、当社では別途、顧客が直接保険金を請求できる仕組みも用意していた。

ところが直接請求時に必要となる保険金請求書は、多数の記入項目を手書きで記入する必要があったり、領収書・明細書と一緒に郵送する必要があったりと顧客にとってあまり使いやすいものではなかった。実際に保険に加入するにあたり、当社を選んだ決め手として「窓口精算ができるので」という理由をあげてくださる方は多い。それくらい直接請求に抵抗感のある顧客は多いのだ。このような事情を背景にLINEで簡単にできる保険金請求サービスは顧客に受け入れられ、順調に利用者数を伸ばしている。また、LINEによる保険金請求のメリットは、顧客にとってのものだけではない。当社側にも、事務コスト削減につながるというメリットがある。直接請求は、保険金請求の15%にしかすぎない。しかし、保険金支払いを担当する社員の7割以上が直接請求の対応にあたっているという現状があった。直接請求の減少・効率化によるコスト削減は、当社においては重要な経営課題であったのだ。LINEで直接請求のできる仕組みを取り入れたことにより、保険金の請求がわずか3分ほどでできるようになり、当社の事務負担も大幅に減少した。

結果的に、保険請求にLINEを取り入れたことで、当社では顧客利便性の向上とコスト削減という2つの課題を同時に解決することができた。それ以外の場面でも当社はLINEを積極的に活用している。獣医師に気軽に相談できる「どうぶつホットライン」など加入者の役に立つサービスを提供し、顧客の利便性向上に努めている。

<顧客接点の維持による継続率の向上>

次にご紹介するのが、顧客接点を維持することで継続率の向上を実現した事例である。こちらは、施策自体はさして目新しいものではない。新規契約者に対して、契約のお礼に始まるウェルカムメールを送信していくオーソドックスな手段を用いてお、5日ごとに配信し20日前後で終わるシナリオを組んでいる。ポイントは、顧客にとって有益な情報だけを発信するという点である。無料で使える付帯サービスの紹介や保険金の請求方法、生後間もない動物の赤ちゃんに起きがちなトラブルといった、顧客が求めているであろう情報のみを発信し、売り込みなどはいっさい行っていない。顧客の熱量が高い時期に集中的にメールを送信すること、そして顧客にとって有益な情報のみを届けることで、顧客には当社からのメールを開くという習慣が自然と生まれる。その結果、当社が顧客に送っているウェルカムメールの開封率は64.7%と驚異的な数値を記録した。

ペット保険は1年ごとの契約更新になるため、1年後の契約更新率は会社側にとっては非常に重要だ。ウェルカムメールを受け取った方とそうでない方では、契約更新率に1.7%の差がついた。なお配信対象者はペットショップでペットを購入した時に契約した人だが、その契約更新率は80%程度とほかのセグメントに比べて高くなかった。その中で契約更新率を1.7%向上させられたことは、かなりの成果であると考えている。

<SNSを活用したファン化の取り組み>

最後にご紹介するのは、SNSを活用したファン化の取り組みである。SNSの運用目的は、顧客との双方向のコミュニケーションである。インスタグラムについては6.2万フォロワーと、すでに金融機関としては多めのフォロワー数を獲得している。

インスタグラムやTwitterのやりとりでは、顧客の投稿にコメントやリツイートを返すといった双方向のやりとりを意識し、顧客とのつながりを強める努力をしている。また、LINEではメール同様、隔週で情報配信を行っている。さらに、当社独自の取り組みもある。それがアニコムアンバサダーだ。アニコムでは犬猫、うさぎ、鳥、フェレットといった比較的ペットとしては一般的な動物以外にも、蛇や亀、モモンガ、ハリネズミといった少し珍しい動物も保険に加入することが可能である。しかし、すべての動物の生態に合わせた価値のある情報を発信していくのは、当社の力だけでは難しい。そこで、顧客の中から情報発信をしてくれる方を募集してアンバサダーになってもらい、協力して情報発信を行うという試みを行っている。実際にその動物を飼っている方に情報発信をしてもらうことで、契約者とのコミュニケーションを深めていけるのではと考えている。

<まとめ>

ここまで、顧客体験の改善、顧客接点の取り組みという観点で話をしてきた。保険は一度契約していただくと、数年、数十年という長いスパンで顧客とおつきあいさせていただくことにつながる商品である。顧客体験の改善や顧客接点を増やす取り組みというものは、コスト削減や継続率の改善といった経営側の目線だけでなく、顧客が健康で幸せに過ごせるようにサポートするという保険会社としての使命そのものとつながっていると考えている。これからも保険会社としての使命を果たすために、顧客との接点を改善するための取り組みを続けていきたい。