「キーエンスの高収益を支えるデータ活用~保険業界の活用事例~」

渡邊 康弘 氏
【講演者】
株式会社キーエンス
データアナリティクス事業グループ
渡邊 康弘 氏

<はじめに>

当社キーエンスは昔からデータという客観的な情報をもとに仕事を進めることを大事にしており、それによって大きな成長を遂げてきた。現在では社内に蓄積されてきたデータ活用のノウハウを外販し、データ活用の分野で、さまざまな業種業態の企業の支援を行っている。今回はその中でも保険業界にフォーカスを当てて、当社がこれまで培ってきたデータ活用のノウハウ、活用事例などについてご紹介できればと思っている。

<なぜ保険業界においてデータ活用が必要なのか?>

まず、そもそもの前提として、「なぜ保険業界においてデータ活用が必要なのか」について考えてみたい。今、保険業界と金融業界を中心に、ビジネス環境に大きな変化が起きている。 代表的な変化としては、コロナウイルスの蔓延・拡大による顧客行動の変化、低金利といったものがあげられる。また保険業界特有の事情としては、対面での営業やライフプランニングが困難になっている、新車が売れなくなっている、といった課題も出てきている状況だ。 特にコロナの影響もあって、顧客接点については従来の対面からデジタルコンタクトへのシフトが起こりつつある。こうした環境変化をふまえると、顧客からのアクションを待つ受け身型の営業スタイルや対面チャネルだけではビジネスの成長を期待するのは難しい時代になってきているといってもいいだろう。

では、こうした状況下において、今後、保険会社には何が求められるだろうか。 を通じて顧客1人1人を理解し、またリアル・デジタル両チャネルを最大限にいかして、こちらから能動的に提案していく営業スタイルである」と当社は考えている。 ビジネス環境の変化に対応するためには、データを利用して顧客の潜在的なニーズを捉え、顧客に合わせたサービスの創造・提供をすることが求められる。

従来、企業は顧客像というものを設定し、それに合わせた商品・サービスを開発・提供するという顧客視点のスタイルを取っていた。しかし、これからはそうではない。顧客のニーズを察知し、それに合わせた商品・サービスを提案していくことが重要だ。顧客視点ではなく顧客起点のサービス、提案型の組織への変革が必要とされているのだ。そして、顧客起点のサービスを提供する上で欠かせないのが、顧客ニーズを推測するための材料となるデータである。

<保険業界におけるデータ活用の位置付け>

ここまで述べてきたように、データをうまく活用することは今後のビジネスを考える上では非常に重要な課題だ。ところで、当社としては保険業界のデータ活用は、大きく2つの工程に分かれると考えている。

1つが顧客接点のデジタル化を通じて業務を効率化する前工程、もう1つはデジタル化によって膨大に蓄積したデータを有効活用し、提案型の組織へと変革していく後工程である。そのうち、今回は当社が積極的に支援を行っている後工程の部分について取り上げたい。

<データ活用3つの壁とキーエンスのソリューション>

これからのビジネス展開ではデータ活用が求められる。しかし、データ活用が重要だといっても、実際にさまざまな場所に点在する大量のデータをうまく使いこなすのは簡単なことではない。実際、当社の社員も、保険業界の方からデータ活用を進めていく上での課題について伺うことも珍しくない。一般的に、データ活用には、データ前処理の壁、仮説立案の壁、絞り込みの壁という3つの壁があるといわれる。 データ前処理の壁は、手持ちの大量のデータの整理・処理に関する問題である。特に金融業界・保険業界は各企業がリッチな顧客データを持っている。しかし、これらのデータが社内のシステムに分散し、統合が難しくなっているケースが少なくない。そのため、データを統合しようとする場面で行き詰まる、大量のデータをうまく処理できない、といった問題が起きがちだ。 仮説立案の壁は、データをもとに仮説を立案する際に課題となるものである。実際に施策を打つ場合、データの分析結果をもとに仮説を立て、その仮説に沿った施策を実行することになる。

しかし、施策の前提となる仮説の立て方は立案者の属性に依存する。つまり、人によって切り口にばらつきが出てくる可能性があるのだ。人の手で、ありうる仮説を網羅的に考えていくのは簡単なことではない。絞り込みの壁は、想定される仮説の中から優先的に打つべき施策を絞り込む際に問題になるものである。大量に存在する仮説から、もっとも効果的な施策を見つけだすのは非常に難しいことだ。

<KIについて>

弊社の提供するデータ分析プラットフォームKIは、今ご紹介したデータ活用3つの壁を克服するためのソリューションである。KIには、データを統合した上でその中から無数の切り口を自動生成する、機械学習によって切り口の優先順位付けや効果的な打ち手の提案を行ってくれる機能がある。これらの機能を使うことで、誰もが簡単にデータ分析ができ、効率的に営業活動などを進められる。もちろん、営業部門だけでなく、他部門でも幅広く活用できる。いわゆるハイパフォーマーと呼ばれる業績の優秀な社員の分析に使われるケースも多い。

<保険業界×データ活用事例>

保険業界でのKI活用事例は、大きく3つに分類できる。

1つ目はカスタマージャーニーの入り口、すなわちアップセルで活用いただくケースである。アップセルしやすい顧客の特徴量や共通項目を機械学習を使って抽出し、優先的に営業するべき顧客のリストを作成することが可能だ。

2つ目はカスタマージャーニーの出口、すなわち解約の分析でいただくケースである。解約の可能性の高い顧客を見つけだし、適切なフォローをするというのが目的である。複数商品を契約している顧客は解約率が低いというデータから、実際のフォローは顧客関心の高い他の商品を提案していくという作業が中心となる。これもある種、アップセルにつなげる使い方ということができるかもしれない。

3つ目は営業のパフォーマンス分析である。社内のデータを活用し、社員1人1人のパフォーマンスを可視化することができる。これによりハイパフォーマーの特徴を把握し、社内研修や組織全体のスキルアップにいかすことが可能だ。

<データ活用人材を育てるカスタマーサクセス>

当社のデータ活用支援の特長はツールの提供だけでなく、人材育成の支援にも力を入れていることだ。当社が提供するプログラムでは、専任のデータサイエンティストがクライアント企業の社員を伴走支援し、具体的な施策の落とし込みやデータ活用プロジェクトの進め方などのノウハウを伝えている。最終的には、社員が自らがデータに基づいて意思決定できる組織を確立することを目指し、支援をおこなっている。データサイエンティストによるサポート以外にも、eラーニングといった社員の教育に役立つコンテンツも提供している。

<まとめ>

今回は、保険業界のデータ活用ということで、保有しているデータをどううまく活用するか、という話をさせていただいた。保険業界を取り巻く環境が変わりゆく中、今後保険業界に求められているのは社内に蓄積されたデータを有効活用して顧客を深く理解し、顧客ニーズを把握することだ。それにより、受け身ではなく、顧客の潜在的なニーズに応えられる提案型の組織が可能になるからである。これは今後の保険業界のビジネス成長にとって、重要なことであると考える。

◆講演企業情報
株式会社キーエンス:https://analytics.keyence.com/ja/