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「銀行の統計データ『Mi-Pot』提供に乗り出したみずほ銀行の取り組みと今後の可能性」
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社みずほ銀行
デジタルマーケティング部 マーケティング開発チーム 調査役
高谷 親信 氏- 【講演者】
- 株式会社みずほ銀行
デジタルマーケティング部 総括チーム 調査役
皆川 直人 氏
<Mi-Pot (ミーポット)サービス化の経緯>
2019年5月に成立した銀行法の改正により、金融機関が保有する情報・データの第三者提供が可能になった。これを契機として、銀行の保有データを企業の様々な経営課題やマーケティングに活用することを目的に、サービス化の検討を開始した。 データビジネスの目指す姿は、企業のニーズやビジネス環境の変化を捉え、銀行データの強みを生かした課題の解決に繋げることだ。また、他の企業とのアライアンスによるデータ拡充により、プロファイリングを高度化する。これらを踏まえて法人顧客企業の成長支援につなげるソリューション提供を行う。銀行データの強みは、推計ではない確定情報として購買力・資産を把握できることだ。時系列で顧客行動をトラッキングすることもできる。また、決済に関するトランザクションデータは、鮮度が高い状態で収集していることも強みだ。
<Mizuho Insight Portalの概要>
当社で行うデータビジネスの取り組みは2つあり、1つ目はMizuho Insight Portal(Mi-Pot)、2つ目はコンサルティングだ。コンサルティングは、お客さまの経営課題やマーケティングニーズに関する課題を解決するため、データ分析や分析結果から得た示唆の提供を行う。Mi-Potは銀行データを統計加工し、お客さま自らデータ分析に活用いただくサービスだ。
Mi-Potは、統計加工された銀行データや外部のオープンデータを、BIツールを介してWEB上で閲覧できる。企業様の保有データをアップロードし、データを掛け合わせることも可能だ。なお、本サービスは統計化されたデータのみ提供するため、個人を特定する情報は一切提供していないことを強調しておく。
サービスの構成は基本メニューとカスタムメニューに分かれる。基本メニューでは我々が事前に統計処理を行ったデータを提供している。収録データは年収や口座出金状況、クレジットカード利用状況、ATM利用等をそれぞれ統計加工したものだ。カスタムメニューでは、様々なデータを組み合わせた統計データと、専用の分析テンプレートを提供している。
<銀行データ>
銀行データの詳細をいくつかご紹介すると、1つ目は年収(手取)統計だ。当社をご利用のお客さまの給与振込情報をもとに、年収300万~499万、500万~699万・・・など、エリア別・年収階層別に人口分布を把握できる。さらに年代別などの切り口で見ることも可能だ。現在は1都3県のデータに限定して提供している。2つ目は口座出金データで、口座振替等の取引データを、みずほ銀行にて定義した分類別に1ヵ月単位で集計した情報を見ることができる。エリア別に、どのような目的にお金を使っているのか把握可能だ。またクレジットカードの決済データも、エリア別・業種別に平均決済額やカード利用者の割合で統計化しており、口座出金データ同様、エリア別にお金の使途の把握が可能だ。
ATMの利用実態は、どのエリアでいくら現金が引き落とされたのかを集計している。具体的には駅を中心に、半径500メートルに設置されたATMの引出額だ。駅を商圏の基点として考え、そのエリアでどの程度の現金需要があるかを把握することで、商圏のポテンシャルが把握できる。
<サービス化の検討>
検討観点は4つあり、まずユーザービリティとして直感的・分かりやすい操作性が重要であり、主要なBI製品は十分な機能を有していた。セキュリティでは不正アクセス防止やサイバーセキュリティ対策が重要であり、直接外部からデータにアクセスできないようにした。コスト面ではスモールスタートを意識し、将来のスケールアップに対応できるクラウドサービス、SaaS型サービスを選定した。ビジネス戦略では第三者の利用を前提とするため、利用者数に依存しないキャパシティライセンスが望ましい。これらの観点による比較を総合的に勘案し、NTTデータ様の「Qlik Managed Service on A-gate」を採用した。
<活用事例. 店舗の新規出店戦略に関するエリアマーケティング>
例えば娯楽系のサービスを展開するA社が、新規出店の検討を開始したとする。この場合にMi-Potを活用したエリアマーケティングについて説明する。まず娯楽関係にお金を多く使う人が住むエリアをクレジットカード統計よりリストアップし、平均決済額が多いエリアを抽出。この事例で決済額が多いエリアは港区、新宿区、墨田区であることが分かった。
次に墨田区のポテンシャルを深掘りするため、年収統計で街単位・年収階層別に分布を作成し、ターゲットとなる年収階層を把握する。仮にターゲットを年収300万~700万未満とした場合、墨田区緑町(錦糸町駅周辺)が5,500人と、墨田区で最も多いことが把握できた。
<データ利活用の課題>
課題の1点目として、マーケティングデータの拡充が必要だ。現在は1都3県のデータを提供しているが、お客さまのマーケティングニーズは1都3県外にもあることから、ニーズの高い他のエリアのデータ収集も重要となる。2点目として、データ活用に必要なビジネス課題の明確化も求められる。データをどのように利用するかではなく、課題を明確にしたうえで様々な仮説を立てて分析に取り組むことが重要だ。
< Mi-Potデータの経済指標予測への可能性>
Mi-Potカスタムメニューにて提供している法人間資金移動の統計データと、経済指標との相関を分析した事例をご紹介する。まず、クレジットカード業や割賦販売業から自動車小売業への送金を月次で統計化したものを新車販売台数の時系列と比較すると高い相関が見られた。同様に、クレジットカード業から百貨店への送金と百貨店売上高についても高い連関を見せる。
クレジットカード業からの各業界への送金データとCPI(消費者物価指数)の744品目を比較すると、多数の高い相関関係が見られた。具体的な組み合わせとして、生活関連サービス業・娯楽業への送金データとCPIの住居、ファストフード店への送金とCPIの食料÷CPIの外食、ガソリンステーションへの送金とCPIの自動車等維持などだ。
このように様々な経済指標との相関が確認され、発表タイミング対比先行性があるケースもあり、オルタナティブデータとしての経済指標予測への適用可能性が期待できる。一方で2年分の月次データのみを分析しているため、データ数は十分とは言えず、疑似相関ないしは偶然の相関の可能性もある。今後同様の傾向が継続的に見られるかをモニタリングしつつ、活用方法を探っていきたい。
<早稲田大学様との共同研究>
2020年10月に、特別定額給付金が家計の消費行動に与えた影響の分析を行った。当時はコロナの真っ最中で家計状況の分析はホットなトピックであり、各国の経済学者も様々なデータを用いて分析していた。そこで銀行の匿名化口座情報から、定額給付金のインパクトを計測できるのではないかと考えた。研究課題は、特別定額給付金の支給による家計支出の変化、大きく影響を受けた家計の属性・特徴だ。当社が保有する家計口座の詳細なビッグデータを活用し、「因果推論」というデータ分析手法を用いて分析を行った。
一人あたり支出増加額を見ると、定額給付金の支給後6週間で計4万7千円ほど使われ、米国における同様の政策であるCARES Act.とほぼ同程度の大きな効果が観測された。家族人数による効果の違いはさほどないが、収入の増減による違いはあり、昨年同月より収入が50%以上減少した世帯で特に大きな効果があった。また給与と貯蓄金額から資金繰りに困っている世帯をグルーピング化して分析したところ、資金繰りに困っている世帯でも定額給付金による効果は大きく、支出の増加を促したと言える。
この研究では、大規模で鮮度の高い銀行のデータによるアドバンテージを活かして、特別定額給付金というコロナ禍で注目を集める政策について分析することができた。政策評価的な文脈で銀行データを上手く活用できた好事例だと考えている。
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