- 「これまでの琉球銀行メディア戦略とこれから」
株式会社琉球銀行 伊禮 真 氏 - 「データ活用で金融機関を変える!キーエンス流データ活用術」
株式会社キーエンス 水上 拓也 氏/齋藤 亜蘭 氏/柘植 朋紘 氏 - 「顧客起点による非対面チャネル推進とプライバシー規制に準拠する同意管理」
ティーリアムジャパン株式会社 石垣 謙 氏 - 「顧客中心のサービス改善と届け方 ~金融業界でデータと人を起点にCX(顧客体験)向上のためにできること~」
株式会社プレイド 金田 拓也 氏 - 「デジタルチャネルにおけるCX向上のためのデザインアプローチの活用とDX人材の育成」
株式会社ゆめみ 本村 章 氏 - 「auじぶん銀行が考えるCX戦略」
auじぶん銀行株式会社 清水 健太 氏
「これまでの琉球銀行メディア戦略とこれから」
- 基調講演
【講演者】 - 株式会社琉球銀行
法人事業部地方創生グループ上席調査役
(前メディア戦略室長)
伊禮 真 氏
<はじめに>
当行は沖縄に本拠を置き、沖縄県内を中心にさまざまな人・企業にご利用いただいている金融機関である。私が室長を務めるメディア戦略室を中心にメディア戦略にも積極的に取り組んでおり、企画・制作したCMで賞をいただくなどの結果を残してきた。今回は「これまでのメディア戦略とこれから」ということで、メディア戦略室におけるこれまでの取り組み事例も交えてお話しできればと考えている。
<これまでのメディア戦略>
メディア戦略室の仕事を、我々は「コミュニケーションデザイン」として位置づけている。
コミュニケーションデザインは、他者とのコミュニケーションをよりよいものにするためにデザイン・設計する仕事である。メディア戦略室は広告を中心に扱う部署ではあるが、我々は銀行のあらゆるチャネルでコミュニケーションデザインが必要だと考えている。そこで、顧客のみならず、従業員、銀行OB、従業員の家族と、銀行に関わるすべての人のコミュニケーションをよりよいものにしようということで、各部門にアプローチしてきた。
またコミュニケーションのツールとしてはデジタル・アナログ両方を重視し、2011年時点で社内SNSを導入するなどの施策を行っている。
<コンテンツの内製化を可能にするインクルーシブなチーム>
琉球銀行の中にあって、メディア戦略室は広告を中心に行内のメディア戦略に取り組んでいる部門だ。広報や社内報といった他の広報活動を行う部署とも連携し、社内外のコミュニケーションを図っている。
我々メディア戦略室の特徴は、発信するコンテンツの内製化に積極的に取り組んでいることだ。もちろん外部のクリエイターの手も借りているが、企画やロゴデザインに至るまで内製化した上で、テレビやラジオの番組を作っているという部門は少ないのではないか。
それを可能にしているのが、メディア戦略室に集った多様なメンバーである。プロパーの銀行員はわずか2名しかおらず、他は異業種や専門学校からスカウトしたメンバーである。なかには障害のあるメンバーもいるが、入行3年目にしてすでに立派な戦力として活動している。誰もが自分の能力を発揮できるインクルーシブな環境が我々の強みだ。
多様性は我々が大切にしている価値観の1つである。当行のキャラクター・りゅうぎんロボのデザインにも、その価値観は反映されている。
<取り組み事例>
ここで、これまで取り組んできた事例をいくつかご紹介したい。
1つ目は、社内SNSの導入である。コミュニケーションの深度が深くなると収益が上がるというデータがあることから、当行では行員同士のコミュニケーションを深めるべく社内SNSの導入を進めた。
銀行といえば、少なくともこれまでは情報漏洩をおそれるあまりSNSに対して拒否反応を起こすケースが多かった。しかし、今やSNSは社会の重要な情報インフラである。社内SNSの導入を進めた背景には、銀行員のSNS恐怖症を克服して世間とのギャップを埋める、という目的もある。
当行ではパートを含む全行員にiPhoneを配布しており、そこに社内SNSを導入してコミュニケーションを図ることができた。現在ではoffice365の導入に伴い、Teamsでやりとりをする機会が増えているが、そうした新しい環境への移行にスムーズに対応できたのも早い段階で社内SNSを導入したのが大きな要因ではないかと考えている。
2つ目は、AWSの導入である。コーポレートサイト運営業務を行う中で、我々はいち早くAWSを導入した。とはいえ、2017年当時は今ほどクラウドがメジャーになっていなかったこともあって、導入に際しては行内には懐疑的な見方もあったのも事実だ。しかし、前職でAWSの運営に携わっていた社員が新しく入行したことで一気に導入が進み、わずか半年でコーポレートサイトをAWSに移行することができた。
さらに、AWSの導入は、当行に思わぬ副産物をもたらした。当時AWSを半ば遊びのような形で触っていた銀行OBの嘱託社員が、AmazonConnectを使ってコールセンターを立ち上げてしまったのである。こうして立ち上がったコールセンターには銀行を定年退職したOBが嘱託社員として集まり、新しい活躍の場を得ていきいきと働くようになった。半ば偶然の結果ではあるが、AWS導入によって「人生100年時代の新しい働き方」を示すことができたのではないかと考えている。
<これからのメディア戦略>
これまでの事例をふまえ、これからのメディア戦略をどうするかということを考えてみたい。
メディア戦略を含む経営戦略において、最も重要なものはエンゲージメントであると考えている。エンゲージメントというと、よく顧客とのエンゲージメントという文脈で語られることが多い。しかし、何もエンゲージメントが求められるのは対顧客の場面だけではない。従業員に対するエンゲージメント、地域社会に対するエンゲージメントも重要だ。
これまでの広告活用やデジタルマーケティングの経験をふまえ、今後我々は自行だけではなく、銀行の顧客の売り上げ支援につながるようなサポートをしていきたいと考えている。こうした売り上げ支援で上がった収益の一部を社会に還元する仕組みを作って地域社会に貢献し、企業として社会的責任を果たしていきたい。他にもインクルーシブ経営の支援、クリエイティブ人材と中小企業のマッチングといった、銀行の枠にとらわれない顧客支援ができればと考えている。
一方、社内のコミュニティについては今まで以上に強化するべきだと考えている。現役の行員はもちろんのこと、行員の家族や銀行を引退したOBをも含む大きなコミュニティを作り、活性化する必要がある。さまざまな属性の人が集まる場を作ることでデータが集まりやすくなり、テストマーケティングやリサーチに役立てられるのではないかと考えているからだ。当然のことながら、これらの調査結果は顧客である企業に還元するつもりである。
顧客、地域社会、社内コミュニティという3つの円の中を循環しながら、全員にメリットがあるような方向でよりよい社会を作っていく。これが今後とるべきメディア戦略、企業戦略のあり方であると考えている。
<エンゲージメントを高めるために>
マーケティングの世界では、顧客のエンゲージメントを高めることが重要だ、とよく言われる。私個人としては、顧客のエンゲージメントを高めるためには、単なるファンから友だち、友だちからベストフレンドへと顧客のレイヤーを上げていくような活動をする必要があるのではないかと考えている。
顧客のレイヤーを上げるために重要なのは、ポジティブな驚きを顧客に提供することである。見た人を笑顔にするような驚きを提供するためには、上司や競合他社ではなく、目の前に存在する顧客や従業員、地域社会といった存在に真正面から向き合わなければならない。
目の前にいる相手を幸せにする施策を考えること。それが、顧客価値の提供の本質なのではないだろうか。
<おわりに>
DXという言葉が流行し、実際に我々もDX戦略を顧客に提案することがある。しかし、ここで忘れてはいけないのが、デジタル化というのは単なるデジタルシフトではなく、デジタルトランスフォーメーションだということだ。つまりデジタルの力を使って、世の中を幸せな方向に持って行くということである。
当行におけるメディア戦略やDXの取り組みも、究極的には顧客や従業員、地域社会の幸せのためにある。今後も上記の方針を見失わずに、社会全体を幸せにできるような企業活動を継続していきたい。