「顧客中心のサービス改善と届け方 ~金融業界でデータと人を起点にCX(顧客体験)向上のためにできること~」

金田 拓也 氏
【講演者】
株式会社プレイド
Business Accelerator
金田 拓也 氏

プレイドの紹介

プレイドの従業員数は現在250名超(2022年3月時点)であり、2020年12月株式公開を行った。顧客満足度・顧客ロイヤルティ向上のためのNPS®(ネット・プロモーター・スコア)の調査・分析などに強みをもつエモーションテック社のグループ化など、顧客中心の事業展開を支援できるよう歩みを進めている。当社はスタートアップ時代に金融業界のVCから資金調達を受けるなど、金融機関の皆さまから多くのサポートをいただいた経緯がある。プロダクトとして理想を語るだけではなく、規制対応や当局対応など、金融業界水準で金融業界の皆さまのパートナーとしてしっかりとサポートできる体制となっている。

注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

私たちが運営しているプロダクトが「KARTE」である。KARTEは、ウェブサイト上でサイト訪問顧客のリアルタイム解析・セグメンテーションを行い、それに応じたアクションやコミュニケーションを実現するためのクラウド上のソフトウェアだ。

「KARTE」をウェブサイトやアプリに導入いただくことで、今顧客がどのページを見て、何をしているのかといった行動が、まるで店舗でリアルに接しているかのような感覚で見えるようになる。顧客の行動に対して、ポップアップやチャット、バナー、サイト等の構成を可変していくことで、お客さまに適切なメッセージを届けることができるプロダクトとなっている。また、KARTEで解析する顧客の行動データ以外の、事業者が持つ様々なデータを「KARTE」につなぎ、より高度なセグメンテーションやアクションを実行できる「KARTE Datahub」も用意している。

適切な顧客体験の実現には、カスタマーデータを用いた解像度の高い顧客理解が必要不可欠と考えている。私たちが「KARTE」というプロダクトを通じて提供しているコア・バリューは、適切な顧客体験の実現に必要不可欠なカスタマーデータを高解像度かつリアルタイムに解析する基盤及び蓄積されたカスタマーデータベースである。それを軸に、顧客中心の企業活動を支援している。2022年4月時点で多くの企業にご活用いただいている。

当社について、KARTEというプロダクトに軸足を置きつつ、顧客体験に寄与するCX、データドリブンな意思決定やデータ基盤の整備を行うDX、自社グループブランド・商品情報に詳しい社員のデジタル適応といったEXの3軸をご一緒できる会社とご認識いただければ幸いだ。

CXが注目される背景

Customer Experienceの重要性は国内外で高まっており、CXと言う言葉をあらゆるシーンで目にする機会が増えている。コロナの影響もあり、よりデジタルでのCXに注目が集まっていることも要因となって、CXという言葉が日常に沁み込んできていると考えられる。

「良いCX(顧客体験)はこういうものだ」と一般化することは難しい。提供するサービスの機能やスペックといった物理的な価値だけでなく、それを享受する顧客のコンディションや状況によっても体験価値は変わりうるためだ。CXをあえて定義づけするならば、CXとは「商品やサービスの『価格』や『機能性』といった物理的な価値だけでなく、それらを通して得られる『満足感』や『喜び』というような感情や経験の価値も含めた概念」であると考えている。CXが注目されている背景として、「企業の側面」「顧客の側面」「時代の側面」の3点が挙げられる。まず「企業の側面」。マーケティング手法の普及スピードの高まりと商品のコモディティ化が進んだことによる商品の差別化が限界に達し、差別化の袋小路が生じていることが挙げられる。「顧客の側面」では、モノ/サービス/情報の飽和化が進み、顧客が情報の選び方を自己学習し、顧客ニーズが変化するスピード自体が更に早くなっていること等が挙げられる。最後に「時代の側面」では、あらゆる行動がデジタルでつながり、リアルタイムデータで体験へ還元され、オンラインの考え方がオフラインにも浸食してきていることが挙げられる。これら3点がCXが注目される要因だと考えられる。顧客不在の差別化競争が終焉を迎え、顧客が機能性/合理性以上の欲求を持つようになり、さらにリアルタイムデータと体験の時代が訪れた点を踏まえ、顧客体験を考えてなくてはいけない時代となった。

ここで、現状のデジタルマーケティングの課題について触れていきたい。現在のデジタルマーケティングでは、企業が顧客を理解しないまま行っているケースが多く、必ずしもユーザー・顧客の体験向上に寄与していないことが問題となっている。今まであったデジタル上の企業中心のマーケティングが「サイトの側」を変えてどうやって集客できるかに価値を置いていたところから、今その瞬間に来ているお客さまにどうコミュニケーションを取っていくか、適切な形でのコミュニケーションをどう取っていくか、または適切な形でなくとも一度話し掛けてみるやり方にトライできる環境をいかに準備できるか。そういった点が鍵となると考えている。デジタルマーケティングはサービスの構築や集客のフェーズから、顧客に価値を伝えるフェーズにシフトしている。この実態に対して必要なことが「CX(顧客体験)」であると、我々は考えている。

KARTEについて

ご紹介した通り、我々はウェブサイトやアプリの中に、リアルタイムにお客さまが見え、その中に適切な形でお客さまに届けるトライができるプロダクトを提供している。KARTEの一つ目の特徴は、顧客一人ひとりの可視化である。ウェブサイト等に来訪する顧客がどんな商品に興味を持っていたのか、今その瞬間、どの広告から入ってきたのか、顧客一人ひとりを可視化していく点である。これにより、事業者が顧客の状態やニーズを直感的に理解し、顧客がより良い体験を得られるような様々な施策を実行・検証することが可能となる。

二つ目の特徴は、リアルタイム解析基盤である。リアルタイムという言葉はミリ単位や秒単位でないと意味がない。「次来訪された際にちゃんと準備している」というものではなく、「本当に探している今その瞬間を捉えないと意味がない」と考えている。ウェブサイト等に来訪する顧客の「今」を解析することができるため、顧客の購入意向の高まりなどを見逃すことなく、適切なコミュニケーションが可能となる。

三つ目の特徴は、ワンストップでの施策実行だ。ポップアップやバナー、チャット等を担当者がいかに平易に作れるか、どういったメッセージを、どういう言葉の表現で届けたいか、色はどうするか、場所はどうするか、タイミングはどうするか、そういった点のテンプレートをいくつも用意している。KARTEは、顧客分析から施策配信の自動化にいたるまで、あらゆる顧客中心の業務をワンストップで実行可能だ。ウェブサイトやアプリに入れていただくことで利用できるようになり、事業者の顧客基盤などのデータ基盤とも連携可能だ。

また、コロナ禍でカスタマーサポート(CS)領域も進化を遂げていった。対面の営業ができなくなり、店舗にお客さまが来なくなった中、当社では顧客の属性/状態をリアルタイムに捉え、動的なサポート(状況最適型)を実現することで、Non-Voice対応を軸としたサポート体験を構築していった。次の章ではカスタマーサポート領域における当社の取り組みについて紹介したい。

KARTEを通じたCSの未来

2021年12月、子会社「RightTouch」を設立し、カスタマーサポート領域に参入した。KARTEを通じた「顧客を知る」「顧客に合わせて対応する」という点はカスタマーサポートの神髄であると考えている。カスタマーサポートのコミュニケーションは、まさに「知る」と「合わせる」点であると考えており、KARTEのコアな機能を、カスタマーサポートの体験向上にも活かせるのではないかと考え、KARTE RightSupportとして現在様々な企業と共創している。

カスタマーサポートの基本的な流れを捉えていくと、顧客は何かサービスの問題点や不明点が発生した際に、ウェブ上で情報探索をし、ある程度の探索行動をした後、解決できなかった場合に問い合わせを行う。そして、問い合わせ後に、継続的にサービスを利用するか、場合によっては離脱するかを判断する。

一方、企業側のカスタマーサポート対応では、現在多くの企業が「問い合せ対応」の効率性や品質にフォーカスして対応している。どのようなトークスクリプトを用意し、1件当たりの問い合わせ処理時間をどう縮めていくか、といった点に重きが置かれている。

RightTouchで本来向き合いたいことは、VoC(Voice of Customer)の前段階である IoC(Issue of Customer)=問い合わせ前の顧客のお困りごと、への対応である。VOCとして企業にあげられている声には、貴重な意見や向き合いたい内容は多いものの、カスタマーサポートに寄せられるお客さまの声は全体の4%に過ぎず、フィードバックを行う顧客は決して多くない。「実は悩んでいた」というようなサイレントカスタマーが大半を占めている。

また、問い合わせをして課題が迅速に解決されたお客さまのリピート率は問い合わせをしなかったお客さまの約9倍という調査結果(出典:顧客ロイヤルティ協会・佐藤知恭)も明らかとなっている。

顧客が何に困っていて、どんな情報を求めているのか、お問い合わせ前に理解することで莫大な機会損失を減らすことができる。KARTE RightSupportでは、問い合わせ前の一人ひとりの行動データを元に、つまずきや迷いを蓄積・予測し、一人ひとりのIoCに合った解決策をリアルタイムに届けることが可能となっている。

では、KARTE RightSupportがどのような価値貢献を行っているかいくつか紹介する。まず、オンライン上で顧客のことを徹底的に知ることで、問い合わせ前の情報を磨き込んでいく。そして、問い合わせ前の顧客行動に合わせた情報/FAQのマッチングや適切な問い合わせチャネルへの誘導を行い、問い合わせ前のサポート体験向上や自己解決促進によるスムーズな問題解決を促していく。問い合わせ発生時には、問い合わせ前のユーザーデータをオペレーターに還元している。更に、問い合わせをした後にロイヤルティが高まったのか、成約に結び付いたのか、といった問い合わせ後の情報も補足することで、問い合わせの前と後を含めたプロセス全体を可視化し、顧客にエフォートレスな体験を提供している。

KARTE RightSupportは、IoCの取得・推定によるカスタマーサポートに特化した分析と、自己解決促進に特化した専用のウィジェット配信・コンテンツ管理が可能となり、これら顧客課題の推定と施策提案をシステムが自動で行うため、運用段階のリソース負荷が低い点が特徴として挙げられる。

カスタマーサポート領域においてもCX、EX、DXの3つの軸において「KARTE」のプロダクトをご活用いただけると考えている。CX領域では、問合せ前からのエフォートレスなサポートを提供することでスムーズな問題解決が実現し、結果として顧客のエンゲージメントが高まっていく。EX領域では、CSの貴重な戦力を事業貢献度の高いサポートに注力させることで、従業員体験が向上し、従業員の生産性向上や優秀な人材の採用が進んでいく。そして、DX領域においては、CXやEXの向上によってデジタル技術の採用やデータ活用が更に進んでいく。CX、EX、DXのサイクルが進む好循環を、カスタマーサポート領域においてもしっかり実現できると考えている。引き続き金融機関の皆さまからお知恵をいただきながら、プロダクトを進化していきたい。

最後に、私たちはデータを起点とし、人としてお客さまに向き合うことを本質価値と捉えている。「どういう人と何をしたいのか」「誰にいつ話しかけたいのか」が重要であると考えている。金融機関の皆さまがお客さまと関係をつくる一つの手段がKARTEであると考えている。金融機関の皆さまが理想とするお客さまとのお付き合いを、KARTEを通じてサポートさせていただければありがたいと考えている。

◆講演企業情報
株式会社プレイド:https://plaid.co.jp