「デジタルチャネルにおけるCX向上のためのデザインアプローチの活用とDX人材の育成」

本村 章 氏
【講演者】
株式会社ゆめみ
取締役 サービスデザイナー 人間中心設計専門家
本村 章 氏

会社紹介

2000年に京都で創業したゆめみは、創業以来インターネットに関わるさまざまなサービスの企画、制作、開発運用支援に携わってきた。現在は最先端のテクノロジーやデザイン手法を活用し、デジタルサービスの開発支援を行っている。特に、近年DX推進が求められる時代背景もあり、クライアント企業のデジタルケイパビリティの内製化支援に注力している。

ゆめみでは一般的に行われる受託開発ではなく、クライアント企業と共創関係を結び、エンドユーザーに対してデジタルサービスを提供するBnB2C(B and B to C)というビジネスモデルを掲げている。これは「共創する」というプロジェクトに対する姿勢を体現するとともに、めまぐるしく変化する競争環境の中で、クライアント企業に対して高い機動性・高品質を備えたサービス提供を行うための準委任型の契約に基づくプロジェクト推進を意味している。

今回はこれまでの経験もふまえ、デザインアプローチがもたらす価値やデジタルチャネル改善におけるDXの人材育成などについて幅広くお話しできればと考えている。

デザインの拡張と民主化

今回のウェビナーのテーマに切り込む前に、少しデザインの話をさせていただければと思う。

デザインの歴史は産業革命とともに始まる。工業の機械化は工業生産力の飛躍的増大を人類にもたらした一方で、これまで職人の手で丁寧に作られていた日用品の品質低下をもたらした。このような機械で作られた粗悪な製品に対するカウンターとして登場したのが、ウィリアム・モリスらのアーツアンドクラフツ運動である。そして、彼らの活動を通じて、初めてデザインという概念が生まれた。

こうして生まれたデザインは、第二次産業革命時には視覚的に情報を伝達するグラフィックデザイン、製品の機能性に着目したプロダクトデザインへと発展を遂げる。

そして、さらに時代が進み、コンピュータやインターネットの発達に伴う第三次産業革命が起きると、インタラクションデザインのようなデジタル空間で使われる道具向けのデザインが新しく登場した。

現在、我々は第四次産業革命のまっただ中にいる。さまざまなサービスがデジタル化し、人間のあらゆる行動がデジタルフットプリントとしてデータを生み出すようになった。それに伴い、人間の扱うデータの量は飛躍的に増大し、また技術革新によってAIを活用した分析やモデル構築も行われるようになってきた。

デジタルのシステムが複雑になった結果、デザインに求められるものも変わった。複数の要素や関係者、環境を考慮した上でシステムをデザインする必要が出てきたのだ。これらのニーズを満たすために登場したのが、総合格闘技的な要素を含むサービスデザインやシステムデザインである。

現在のデザインの対象は無形的な体験やシステムとなり、デザイン哲学も機能性や見た目の美しさから、デザインの利用状況や全体のエコシステム自体を評価するものへと変化しつつある。それに伴い、デザイナーの役割もさまざまな専門家の意見を統合し、形を生み出すファシリテーターへと変わっている。

デザインアプローチの重要性

これらの大きな流れの中で、DXという概念が新たに提唱されるようになった。

我々の考えるDXはデザインやビジネス、テクノロジー、社会という多角的な観点を含むアイディアである。そこでは、デジタルで世界を再解釈し、物事や事業そのものを再構築することが求められている。

このような状況下では、事業における活動の中でデザインの位置づけについて再考する必要がある。デザインの概念が時代の変化とともに変わりゆく中で、デザインは企画プロセスの上流工程にも関わるようになった。

しかし、実際に企業活動全体の中で一貫性のあるメッセージや体験をユーザーに提供するためには、複数の工程をまたがるような形で、デザインをいわばマインドセットとして活用する必要がある。これをゆめみでは、デザインアプローチと呼んでいる。

デザインアプローチがもたらす価値とその活用方法

社会の変化とともにデザインの重要性は高まりつつある。では、実際に企業活動の一部としてデザインが採用された場合、どのような価値を当該企業にもたらすのだろうか。

マーク・ジェフリーの「データ・ドリブン・マーケティング」によれば、業績上位企業と業績下位企業とではマーケティング投資の配分が異なるという。上位企業は下位企業にくらべ、ブランディングや顧客関係維持、ITインフラ・組織力の強化といった長期的な目的のカテゴリーへの投資配分を増やす傾向が見られたのだ。

デザインとマーケティングは相性が悪いとよく言われるが、実際には相互補完関係にある。たとえば、継続的なUX改善は顧客改善維持にプラスの影響をもたらし、マーケティングの観点でも役立つものである。

デザインへの投資は差別化、イノベーション、学習組織化という結果を企業にもたらすだけでなく、究極的にはブランド価値や顧客体験の向上といった価値をも生み出す。投資価値の面で疑問をもたれる方もいるかもしれないが、デザインについての投資は約3年で元が取れるというデータがある。デザインへの投資は、企業にとって、自社の競争力を高めるために取り組むべき価値のある施策なのだ。

デザインアプローチの実践

企業におけるデザインの位置づけは企業文化と密接に結びつく。現在デザイン投資の効果を発揮している各金融機関は、企業が成熟する中でデザイン活用が行われ、結果的にデザイン能力を獲得したパターンに該当する。

デザインアプローチの導入方法には、経営層が中心となって動くトップダウン型と、現場担当者レベルからデザインアプローチの実践を始めるボトムアップ型がある。どちらの導入方法が実践しやすいかは企業にもよるが、できれば両方が機能していることが望ましい。

また、実際にデザインアプローチを実現する体制にも2つのパターンがある。1つは内部でデザインチームを抱えるパターン、もう1つは外部パートナーを活用するパターンである。もっとも、それぞれにメリット・デメリットが考えられることから、当社では第三のアプローチとして内製化支援型を提案している。これは当社がクライアント企業の方と一緒にプロジェクトを推進することを通じて、社内人材を育成し、デザインアプローチを定着させることを目指すものだ。

DX推進に不可欠なDX人材には、デザイン思考に加え、戦略、フィードバックループ、リーダーシップという3つの要素が求められる。当社では、こうしたDXに必要な人材を社内で発掘・育成するためのさまざまな支援を行っている。

まとめ

産業とテクノロジーの変化とともにデザインの役割は拡張し、企業活動においてあらゆる人が取り組むべき存在となっている。マーケティング戦略の重要な要素としてデザインを捉え直し、デジタルの分野で活用することは、売り上げや顧客体験、従業員体験の向上につながるものだ。

こうしたデザインアプローチによるデジタルチャネルの改善には、継続性が求められる。継続的に施策を継続するためにも、戦略策定やフィードバックループの実践、リーダーシップといった能力を持つ人材の獲得・育成は不可欠だ。デザインアプローチの組織浸透は、CX向上に取り組むすべての企業にとって、重要なマーケティング戦略である。

当社ではデザインアプローチを企業組織にインストールするためのさまざまなサービスを提供している。今後も企業のパートナーとして共創関係を結び、デザインの力をブランディングや顧客価値創造に生かすお手伝いができれば幸いだ。

◆講演企業情報
株式会社ゆめみ:https://yumemi.co.jp/