健康寿命の延伸に伴う意識の変化、グローバル金融機関のチャレンジ
Life Expectancies Are Changing — Why Aren’t Financial Services Offerings?

【講演者】
コグニザントジャパン株式会社
常務執行役員
新村 穣 氏

【講演者】
コグニザントジャパン株式会社
金融・保険事業部長
三沢 忠直 氏

コグニザントジャパン紹介

コグニザント社は米国ニュージャージーに本社があるIT企業である。35万人の従業員を抱えるIT業界でも世界の5本の指に入る売上規模を持つ大組織だ。(2022年現在)売上の70%が金融業界とライフサイエンスから成り立っている。テクノロジーとコンサルトで編成される金融チームは1万人いる。国際的に活躍するメンバーの知見をご披露したい。我々の実現手段のITからは距離を置き、現在の市場で何が起きているか? 

市場ニーズを実現するための金融機関への期待に力を入れてお話させていただく。

健康寿命の延伸による、既存顧客、新規顧客の意識・期待値の変化(新村氏)

●平均寿命と健康寿命の延伸
厚生労働白書によると過去20年で、健康寿命と共に平均寿命が5年延び、これから20年でさらに約2年延びると予測されている。この結果はこれからの社会の変化に大きな意味を持つ。政府は健康面と資金面で施策を打ち出している。「老後の資金が約2,000万円足りない」とした過去の発表が、人々に老後生活の不安を煽る結果になったと考えている。

●老後生活への不安
生活保障に関する調査によると、老後生活に対して82.2%の人が不安を感じており、その内容は老後生活の原資と収入に関するものだった。

● セカンドライフの多様化
現在では健康寿命の延伸とテクノロジーが、セカンドライフの多様化をもたらしている。これまでの「老後」の生活は、地域内の狭い範囲のコミュニティや趣味に限られ、雇用のチャンスもなかった。しかし、これからの「セカンドライフ」は、平均寿命・健康寿命が延びることで多くの機会が生まれることになる。それまでの趣味や仕事を継続していく人もいれば、新たな趣味や仕事に挑戦する機会も増えてくる。テクノロジーの発展から、地域などの制限のない交友関係を作ることになってくるだろう。

たとえばIT業界にとってメインフレームの知見を持つ退職したエンジニアの力は貴重だ。コグニザントジャパンでもベテランエンジニアの力を貸していただく取り組みを行っている。

現在の金融保険商品や金融保険機関は、セカンドライフ層やそれより若年層のニーズをどれだけ満たせているだろうか?

【1995年生まれジェシカの人生】ショートビデオ>

ジェシカは100歳まで生きる。これは同年代の30%の平均的な見込みである。21歳で大学を卒業したものの、他の卒業生と同じように、奨学金の債務を約800万円抱えている。24歳になると、ロンドンでフルタイムの仕事に就き、約45万円の収入を得ているがその半分は家賃で消えている。ジェシカは従来の資産形成のアドバイスに従い、収入の8%を退職後のために貯金した。しかし、退職後の長いセカンドライフに8%では不充分だった。実際にジェシカは緊急の出費に備えた貯金も持っていなかった。大学の卒業生の17%が可処分所得を持たず、労働年齢の成人26%が非常時の貯蓄を持っていない。58%の人は手持ちの資金が8.5万円以下だった。これはジェシカの世代が経済的に脆弱であることを意味していた。もし病気や事故などの、不測の事態が起きたら、突然の出費が金銭的なストレスとなり、ジェシカのメンタルヘルスに影響を及ぼす。

2016年には企業の41%が不安やうつなどの問題の増加を報告した。仕事中のストレス、うつ、不安が原因で失われる日は1540万日だという。健康、キャリア、仕事の目標を達成するためには、経済面で強固な支えがいる。ジェシカには信頼できる金融サービス・製品が必要だ。しかし、ジェシカには信頼できるサービスに出会っていない。50歳の時点でもジェシカにはまだあと50年の人生が待っている。人生が長くなると、学びと働く時期を何度も繰り返すことになる。収入が入らない時期に備えるためにも、ジェシカの人生を助ける金融サービスが必要になる。必要な資産と現実の収入とのギャップはますます広がっている。金融サービスはその解決策を提供できる機会に恵まれている。どんな組織も人生100年時代の問題を全て解決する答えを出すことはできない。今こそ組織全体で話し合い、解決策を見つけ出すべきだ。

長い資産形成を意識させ、支えていく仕組み・商品およびサポートするエクスペリエンス(三沢氏)

動画に出てきた労働年齢の成人の貯蓄ゼロが26%という統計に呼応する日本のデータにはない。しかし、日本では貯蓄ゼロの世帯が約30%という統計がある。今後の人生に対する不安は大きい。金融保険機関は今後の不安を持つ人に対するサポートを拡大していけるチャンスだとコグニザントは考えている。

老後に足りないと言われる2000万円という金額は一般論であって、全ての人に当てはまるものではない。たとえば私のライフスタイルであれば3,000万円かもしれないし、質素に生活している人なら1000万円かもしれない。ライフスタイルの多様性を考慮しながら、ファイナンシャルプランナーやライフプランナーはサービスを提供してきただろうか?

また、その母体である金融保険機関は、サービスを提供できるだけの情報をFPやLPに与えてきただろうか?ここが今後10年の金融保険機関の投資のコアになってくる。こう断言できるのは、海外では既に老後の資金に関するサービスを提供し始めている先行事例があるからだ。

●金融•保険機関の競争の差別化となりうる3つの視点
では具体的に顧客にどのような情報を提供すべきなのか? コグニザントジャパンでは以下の3つを掲げている。

収入維持•回復力(ファイナンシャル・レジリエンス)

突然の収入の落ち込みに対して、収入を維持しながら、回復を目指す力。収入、資産、年金、負債、さらには保険等を考慮した個人・世帯のバランスシートを見て、「収入維持•回復力」に関するインサイトとガイダンスを提供する。急な収入の落ち込みに備えるためにも、働く誰にでも生活防衛資金が必要だ。しかし、生活防衛資金の必要性を私達のどれだけが認識していただろうか? たとえば私自身は貯金があるが、生活防衛資金と区別していない。バランスシートは各個人で違うし、ライフスタイルによって変わる。さらに今のライフスタイルだけで50年後を予想できない。予想できない部分にこそ金融保険機関の力が必要になる。しかし、ただ商品・サービスを説明するだけでは不充分だ。どうしてそのサービスが必要なのか?顧客を腹落ちさせるインサイトが重要になる。

就労継続•復帰力

働かなければ収入がないので、就労継続力は欠かせない。しかし、金融保険機関はその面に対応してこなかったのが現実だ。転職する場合も個人のアクションや責任で行われていた。これからは転職、キャリアの面でも、金融保険機関がインサイトを提供するべきだ。

健康維持•回復力

メンタルや肉体的な健康の維持や回復も収入に関わってくる。現在では心身の健康をサポートする保険サービスも生まれている。心身面の保険サービスに加入する理由付けとしてのインサイトの提供が必要だ。

現行のライフプランナーやファイナンシャルプランナーと肩書は違うが、ここを一つ跳び越えて、「ライフステージプランナー」、「ライフステージコンサルタント」などと、金融保険機関が業態を変えていくことが必要ではないかと考えている。

●「インサイト」とは?
何度もインサイトが重要と語ったが、ChatGPTによると、「インサイトとは、洞察力や深い理解を表す言葉です。ある問題や状況に対して、通常の見方や考え方を超えて、深く本質を理解し、新たな気づきや理解を得ることを指します」という答えが出た。本質を捉えた理解や気づきを得られれば、表面的な情報に惑わされることなく、対策をとることができる。

数年前、「AIの出現で仕事がなくなる」と言われていたが、特定の職業で未だ大きくなくなったものはない。ジェシカが必要としたように、ライフステージにおいて、時代のニーズの変化に立ち合いながらサポートしていくサービスが必要とされている。

●必要とされる新しいエコシステムおよびプラットフォーム
顧客のライフステージを支えるにはどんな仕組みが必要だろうか?

コグニザントジャパンは3つの基本原則に基づいてこのようなエコシステムおよびプラットフォームが構築されるべきだと考え、「人生設計支援エコシステム」と名づけている。

1. 顧客が提供するデータをきちんと管理・保護することで信頼を築く。

顧客のライフステージに沿ったプランを作るには顧客からデータを取得することが不可欠だ。データを取得するには小さなことからの信頼関係の構築が不可欠になる。

2. 顧客から取得したデータは、価値を創出し、インサイトを提供するために利用する。

顧客からデータを取得する場合は、目的をはっきり明示し、顧客の利益になるものでなければならない。

3.情報漏洩のリスクを最小化する。

これらは「オープンイノベーション」で謳われており、オープンファイナンス、オープンバンキングという言葉で派生している。人生設計支援エコシステムで顧客情報を安全なプラットフォームで繋げて、総合的な観点からインサイトを提供しライフステージごとに顧客の人生を支えていく。

ショートビデオ

人生100年時代となり、これまで以上に人生設計が難しくなっている。1960年には、65%以上の人が教育、実家を離れる、経済的独立、結婚、子供を持つ、というライフイベントを30歳までに経験した。金融機関や社会制度もよりシンプルで短い生涯の支援のために存在している。

しかし、2019年になると状況は一変する。現在では5つのライフイベントを30歳までに経験する人の割合はわずか10%程度。大多数にとっては不可能か無関係のイベントになっている。私達は多くの選択肢を前に、とても長く複雑な人生を頼れる地図もなく歩まねばならない。古い地図では「引退」という言葉があったが、現在では数十年もの健康な暮らしがその先にある。退職後の人生を終着点と考えるのはやめ、活気あふれた豊かなステージととらえる時だ。できるだけ長く幸せな生活を送ることは、心身の健康に良い。

リタイアという言葉は古くて使いものにならないものという意味の言葉だ。今こそリタイアという言葉からリタイアする時だ。私たちには一生を通じて成長と改革の扉を開けてくれるサービスが必要だ。社会、教育、健康、そして金融に関する将来的な見通しは、未来への旅への可能性と選択肢を広げてくれる。リタイアに関する時代遅れの思い込みを捨てて、どのように退職後の未来を再設計すればいいか?考える時代が来た。

まとめ

先進的なライフステージサービスは日本では町田市の「でんかのヤマグチ」に代表される。スイスの銀行Alpianは顧客にパーソナライズされたインサイトをアプリケーションによって伝えている。ロールスロイスはアプリの中で顧客ロイヤリティを高めている。これがCX、顧客体験であり、カスタマーエンゲージメントに繋がる。

コグニザントは、金融保険機関は顧客のトラステッドパートナーになれると信じている。もちろんコグニザントは金融保険機関のトラステッドパートナーになりたいと考えている。

◆講演企業情報
コグニザントジャパン株式会社:https://www.cognizant.com/jp/ja