2023年5月18日(木)開催 FINANCE FORUM「金融機関における顧客接点の多様化とCX戦略」<アフターレポート>


2023年5月18日(木)セミナーインフォ主催 FINANCE FORUM「金融機関における顧客接点の多様化とCX戦略」が開催された。デジタルデバイスの普及が加速度的に進むなか、金融機関へ求める接点もデジタルへシフトしている。多様化するニーズに対して、金融機関は顧客の変化を迅速かつ柔軟に捉えていくことが重要であり、顧客の理解を深化させることが求められている。本フォーラムでは、ふくおかフィナンシャルグループ及びPayPay銀行のCX向上に向けた取り組み事例をご紹介いただいたほか、各協賛企業の講演を通じて、デジタル時代に即した製品・サービスをご紹介いただいた。

  1. ふくおかフィナンシャルグループの挑戦~お客さまを中心に据えた自己変革~
    株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 武重 太郎 氏
  2. SBIグループやアニコム損害保険が始めている
    顧客対応におけるCX向上と両立できる自動対応の活用方法
    モビルス株式会社 柏原 学 氏
  3. 活用事例で紐解く、先端AIによる金融機関の顧客対応の高度化~ChatGPTの業務活用方法も紹介~
    Allganize Japan株式会社 利光 夏海 氏
  4. 多くの成功事例から学ぶ!
    到達率99%の「SMS(ショートメッセージ)」を 活用した金融業界における顧客接点のDX化の進め方
    NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社 黒田 和宏 氏
  5. 健康寿命の延伸に伴う意識の変化、グローバル金融機関のチャレンジ Life Expectancies Are Changing — Why Aren’t Financial Services Offerings?
    コグニザントジャパン株式会社 新村 穣 氏/三沢 忠直 氏
  6. PayPay銀行におけるCS・CX向上に向けた取り組み
    PayPay銀行株式会社 川上 雅也 氏
目次

ふくおかフィナンシャルグループの挑戦
~お客さまを中心に据えた自己変革~

基調講演
【講演者】
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
DX推進本部 副本部長
武重 太郎 氏

ふくおかフィナンシャルグループのDX戦略

ふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)は、福岡、熊本、十八親和銀行を傘下に収める九州を営業基盤とし展開する広域型地域金融グループである。2021年には日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」を設立し、金融DXを推進している。FFGは2030年へ向けての長期ビジョンとして「ファイナンスとコンサルティングで全てのステークホルダーの成長に貢献するザ・ベスト リージョナルバンク」を掲げた。そして、ビジョン実現のために備えたい力として3つを挙げている。

・サービス開発力=多様化する顧客ニーズにストレスなく応える
・ソリューション力=企業や社会の課題を解決する
・組織力=大きく変化する社会課題に柔軟に対応する

この3つを備えるためにはDXの推進はもはや大前提だと認識している。

<FFGのDXの歴史>

FFGは以前から「失敗してもいいから挑戦する」という文化を持っていた。2000年代当初も日本の銀行ではじめて抜本的な不良債権処理に取り組んだ。FFGの下に各地方銀行が傘下にあるというスタイルもFFGが最初である。DXに関してもネオバンクビジネスを展開するため、2016年にiBankマーケティング(以下、iBank)を設立した。

iBankが、出島組織として権限や予算を与えられ、スピード感を持って挑戦したことが、後のみんなの銀行に繋がっている 。一方、銀行本体は2017年にデジタル戦略部を新設し、翌年からはアジャイル型の開発体制をスタートした。現在では、エンジニア約50名、データサイエンティスト約30名を銀行本体に抱えている。毎年100以上のアイデアを出して、実証実験を実施し、新商品を送り出してきた。プロダクト開発が進展してきた一方で、DXとして全社を巻き込むほどの活動には至ってなかった。2022年4月に掲げた中期経営計画では、これまで得られた経験を活かして全社DXを展開していく。新領域では市場の破壊と再創造を行い、既存領域ではコアビジネスの高度化に挑戦する。 この二つを同時並行で進める「2wayアプローチ」を行う。みんなの銀行は銀行ビジネスそのものをゼロベースで作り上げる。iBankは金融と非金融サービスのイノベーションに挑戦する。FFGは顧客の行動変容に合わせて、デジタルチャネルの構築を起点とした既存事業の変革を実行することで、銀行ビジネスの高度化を図る。具体的には、現在開発中の デジタルチャネル「個人向けバンキングアプリ」と「法人ポータル」を起点に、中計の4つの重点取り組みの「Ⅰ業務改革」「Ⅱ営業改革」を実行する。「Ⅰ業務改革」では、現物以外の全取引をデジタルチャネルでも対応できるようにする。それに伴い、新たな店舗形態のあり方も検討する。「Ⅱ営業改革」では、法人ポータル・SFAを活用し、バラツキのあった営業品質を一定レベルにまで引き上げる。またデータ活用による顧客理解を進める。営業の起点はあくまで人である。ヒューマンとデジタルを融合させることによって、より高度な営業を実現していきたい。「IV新事業への挑戦」ではみんなの銀行に次ぐ新たな企画を考案中だ。

iBank/みんなの銀行事業における経験の活用

iBankやみんなの銀行などの出島で培った経験は大きい。新たな金融サービスを創出した企画力。データドリブン、SNSマーケティングを実践して得たマーケティングのノウハウ。業務の効率化・内製化を行ってきた実績。アジャイルの枠組みの中で高度化を図ってきたリスク管理。多数のエンジニア・データサイエンティストを自社で抱え、専門的なスキルを持った従業員のキャリアプランを後押しするHR。ゼロから立ち上げたクラウドネイティブなアーキテクチャ。これらの無形資産をFFG本体のDX推進に活用していきたい。

取り組みながら簡単ではないことを実感している。みんなの銀行はゼロベースで作っていった。しかし、銀行本体は既に今まで培ってきたものがあり、既存のものを変革する難しさを感じている。そこで昨年4月に社長直轄のDX推進本部が発足した。

DX推進本部

DX推進本部は社長直轄のクロスファンクショナルな組織で、全社のDXの旗振り役だ。先に述べた様々なDXを、昨年11月に戦略的パートナーシップを締結した日本IBM社と連携しながら実行していく。しかし、人と組織が変わらないかぎり、いくら施策を実行しても一過性のものに終わる。現在の取り組みが社内の当たり前になるように、全員のDXリテラシーの向上を目指す。組織面のソフトにもメスを入れて、持続的変革ができる組織を実現したいと考えている。組織・人材のDXの取り組みにおいては、エンジニアが新技術の知識獲得に共同で取り組む「技術コミュニティ」を立ち上げたり、社内・社会の人材が共に働く共創スペース「KaTaRiーBa」を創設した。DXリテラシー底上げのために全員参加型のDXリテラシー教育を実施。また開発内製化体制を構築するためキャリア採用も強化した。

個人ビジネスのDXに関しては、ニーズが顕在化してサービスを提供するのではなく、個人のライフイベントの上流から寄り添う。たとえば従来は住宅ローンひとつとっても、顧客の家の購入が決まり、業者経由で住宅ローンの申込の話が来て、銀行ははじめて顧客ニーズを知っていた。これからは住宅市場の情報提供から顧客ニーズを喚起して、地域選びや物件選びにも伴走していく。DXは銀行本体だけで進められるものではない。FFGにはいろんな機能を持つ関連会社があり、総力を結集させていく。地域金融機関の強みは店舗を含めたリアルチャネル網と顧客との距離感。デジタルだけでなく、リアルの人と店舗の情報を融合させていく。

<顧客体験価値向上のための開発内製化>

●開発内製化への取り組み
これまでの銀行システムは基本的にベンダーに依存していた。だが、それだと改修の度に外注コストがかさみ、またシステムごとにベンダーが違うため、全体最適が難しかった。そのために変化にスピーディーに対応できなかった。変化が加速している状況においては、ベンダー任せでは顧客ニーズに対応しきれない。「価値あるものをできる限り早く・安く作りたい」。そこで日本IBMの力も借りながら、開発の内製化を加速していくことにした。過去5年間にオンライン口座振替サービス「こうふりネット」やオンライン融資サービス「フィンディ」などを内製開発してきた。この過程で得たノウハウをより多くの顧客に影響があるサービスに活かしていきたい。エンジニアがいれば内製化できる訳ではなく、ビジネス企画自体を内製化することが大事だ。企画側もある程度システムに関する知見を持ち、エンジニア側もビジネスを理解する。お互いに歩み寄ることで、内製化の意義が生まれる。また社内だけでなく、必要に応じて外部のパートナーを活用しなければならない。開発のバリエーションを持ち、外部とのネットワークを持つことが大事だ。時間をかけながら徐々にスタッフを増員するのと同時に、開発環境の整備や専門職用の人事制度、開発プロセスの見直しを同時並行で進めた。構成職種も、開発エンジニアを中心にデザイナーやデータサイエンティストなど職種も増えた。デジタル人材が不足しており、なかなか確保できないという現状もある。キャリア採用と社内育成を両立しながら、人員を拡大していきたい。

DX推進組織設計

「価値あるものをできる限り早く・安く作りたい」というDX推進の目的のために、ビジネス企画や投資案件の意思決定プロセスにもシステム化検討プロセスという新しいルールを整備した。投資案件は全てDX推進本部の事務局で受け付け、システムの二重投資を回避し、システムアーキテクチャとの整合を担保する。DX投資案件と判定された案件は事務局が伴走して、アイデア検討、価値検証、実証実験を経て、商用化というプロセスを踏む。それぞれのフェーズ毎に判定会議を行い、プロセスを通じて顧客価値を提供できる企画であるかを徹底的に検証して取り組んでいる。

<最後に>

FFGは「みんなの銀行」の取り組みがフォーカスされて、金融DXがかなり進んでいると見られがちだ。しかし、銀行本体のDXはまだまだこれからという状況であるのが実情だ。デジタルの力を最大限に活用して、それを前提にし、顧客ニーズを徹底的に掘り下げ、スピーディーに最適なタイミングでソリューションを提供していきたい。そのために、オープンアライアンスで様々なパートナーと手を組んでいきたい。それができる組織に変革ができるか?これが生き残りのポイントだと我々は考えている。

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