「金融業界におけるAIトレンドと最新のAI活用事例」

家田 佳明 氏
【講演者】
株式会社シナモン
取締役副社長
家田 佳明 氏
林 弘樹 氏
【講演者】
Business Development Manager
林 弘樹 氏

金融業界のAI活用トレンド

2016年頃から、金融業界でのAIの検討やPoCの実施が増加し、現在ではフロントオフィス・ミドルオフィス・バックオフィスにおいて多くの活用事例が見られる。単なる業務効率化やコストダウンの観点からだけではなく、お客様の体験価値向上を目的としたAI導入がトレンドとなっている。海外の大手金融会社では、自前主義でシステムを作り込む従来のスタイルから脱却し、スタートアップ企業と協業してイノベーションを推進するケースが増えてきた。

インシュアテックの現状

2017年頃から注目度が高まってきたインシュアテックは成長ステージに達した。インシュアテックによるインシュアテックの買収、インシュアテック企業のさらなる拡張といった事象が起きている。

引受・申請におけるインシュアテックの活用は今後も継続する。カスタマーエクスペリエンスの向上、アンダーライティング&保険金申請におけるアナリティクスとワークフロー活用のトレンドは今後も続く。キーポイントは2つあり、まず消費者ニーズは継続的に多様化しており、オムニチャネル化とパーソナライゼーションが求められる。次に請求書・契約書などの非構造化データをいかに活用できるかが重要だ。

米国の保険業界ではニッチ領域のプレーヤーが成長してきている。「CyberFortness」はeコマースサイトのダウンタイムによる売上損失を保証する新しいパラメトリック保険商品だ。2,000以上の特徴からリスクモデルを統合してリスクをセグメント化し、価格を設定している。「Zesty.ai」はAIを活用して、山火事や洪水などの自然災害による建物の被災リスクを精密に予測するサービスを提供している。世界各地で気候変動が原因とみられる自然災害が増える中、同社のサービスへの需要は高まっている。

成長戦略としてのAI

当社の堀田による「ダブルハーベスト」は、戦略構築のフレームワークについて解説した書籍だ。その中で触れている「ハーベストループ」は当社が提唱するフレームワークだ。複数の構成要素の中で最も重要なのがエンドバリューで、AI活用によるお客さまへの提供価値である。エンドバリューにより顧客体験が改善し、そのデータを蓄積して再学習することでAIの機能が強化され、エンドバリューも強化されるというループ構造だ。

自動運転のループ構造の例では、事故予測AIの機能がドライバーにアラートを出すことで、エンドバリューとして事故リスクが減少し、より安全な運転が顧客体験としてもたらされる。そのためにユーザーはドライブレコーダーなどのデータを提供し、蓄積されたデータから事故予測AIが強化され、さらに事故リスクが減るループ構造となっている。道路情報に加えドライバーの運転情報等もデータ要素に加えることで、ループを二重・三重にすることも可能だ。

金融領域におけるハーベストループ事例1. Shift Technology

査定業務における不正検出を行っている会社で、膨大な申請情報のデータをAIで活用して査定プロセスの自動化ソリューションを提供している。1件ずつ人が審査すると誤検知や検知漏れが多いが、AIは膨大なデータを基に自動的に発見できる。

同社のハーベストループ構造におけるエンドバリューは不正リスク低減やUX向上で、スピーディーな支払い処理の実行が顧客体験だ。不正事例データや人間によるフィードバックによって、AI機能である自然言語処理による情報理解・不正検知が強化される。

金融領域におけるハーベストループ事例2. Zelros

保険会社向けに音声やドキュメントなどの構造化・非構造化データを活用し、保険に特化したAIビジネスプラットフォーム(CRM)を提供している会社だ。顧客単位で契約内容や情報を管理し、営業担当者やカスタマーサービス担当者に対して、推奨アクションをリアルタイムでアドバイスする。

こちらのハーベストループ構造のAI機能は、OCRによる各種定型帳票の写真からの読み取りや、顧客との応答の音声認識と自然言語処理だ。情報抽出のスピードアップ・担当者へのアクションレコメンドがなされ、UX向上がエンドバリューとなる。スムーズな保険体験を実現し、顧客の反応データや人間によるフィードバックによりAIが強化される構造だ。

シナモンが提供するAIソリューション

当社は設立から5年目の会社で、パーパスは「誰もが新しい未来を描こうと思える、創造あふれる世界を、AIと共に」としている。当社の特徴はAIリサーチャーを獲得できる強固な採用基盤を保有していることだ。ベトナム・台湾のトップクラスの大学から選抜した優秀な人材をAIリサーチャーに育成している。優れたAIリサーチャーを安定的かつ低コストで確保できるのが強みだ。AI導入検討からAIによる成長戦略まで、DX変遷の様々なフェーズを一貫してサポートする。

当社のAIの特徴は主に3つで、パーパスに基づいたDX戦略の構築、非構造化データを幅広く活用する技術力、高度なAI人材を獲得・育成するエコシステムだ。3つの強みで企業の成長力強化を推進する。またDX人材育成のため、AI戦略に関するワークショップを提供している。

シナモンAIのAI導入事例

金融業界の実業務におけるAIの活用シーンとして、顧客満足度の向上、他社商品比較、営業活動の標準化を目的に、様々なアルゴリズムを組み合わせたモデルを構築している。福岡銀行様との協業例では、銀行窓口で受け付けた振込依頼書について「AI-OCR」を活用した自動読み取りを実現した。振込依頼書を2つ以上のOCEエンジンで認識し、AIを活用した自動補正を行うことで、全体の80%の帳票の自動認識処理、ヒトの補正時間の極小化が可能となった。

AI-OCRは保険会社様でもご活用頂いている。健康診断書等の膨大のパーソナル情報を含む非定型帳票を、お客様が撮影したカメラ画像を用いて高速かつ大量に構造化することで、査定業務迅速化と共に新商品開発のためのデータベース構築に繋げる。査定処理の迅速化によるCX向上、未活用のパーソナル情報をもとにした商品開発の実現、人力での構造化に伴う処理コストを削減などの効果が生まれた。

続いての事例は自然言語処理を用いた調査業務支援AIだ。以前は過去の対応結果がデータ化されていない、またはデータ化されていても検索すると膨大な量がヒットし、活用することができていなかったことが課題だった。また社内の高コスト人材(ベテラン層等)へのQAが繰り返し発生し、リソースが逼迫して別業務が遅延することもあった。そこでこのプロジェクトでは、過去案件の処理内容の重要事項を抽出し、過去案件を構造化した。新規案件の発生時に類似案件をレコメンドし、過去処理内容を活用した迅速かつ標準化された案件処理を実現した。類似案件の処理速度高速化、 案件対応時の対応品質の標準化、社内高コスト人材の確認作業工数減少が導入効果だ。

次に紹介するのは、コールセンター向けに開発した音声認識AIによる不適切発言の検知だ。不適切発言は1件でも発生すれば事業運営に重大な影響が出るが、リソースの問題で全数確認が困難で、不適切発言は文脈を加味しなければ検知漏れが発生する。そこでお客様とオペレーターの会話内容を、音声認識AIと自然言語処理を用いた文章補正AIを組み合わせることにより高精度で書き起こし、文脈を加味した上で不適切な発言の有無を不正検知AIにて判定。その結果、一定の基準で全会話を網羅的にスクリーニング可能にした。またAIによる全数検査の導入によって、不適切発言の発生自体を抑制した。

◆講演企業情報
株式会社シナモン:https://cinnamon.ai/