「ふくおかFGでのRPA、AI-OCRによる業務効率化」

野田 享弘 氏
特別講演
【講演者】
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
事務統括部 副部長
野田 享弘 氏

ふくおかフィナンシャルグループの概要

当社は九州全域にネットワークを持つ、広域展開型地域金融グループだ。子銀行として、福岡銀行・熊本銀行・十八親和銀行・みんなの銀行を有している。熊本銀行の経営統合を契機に、2007年にふくおかフィナンシャルグループを設立、2021年5月からみんなの銀行のサービスを開始した。総資産残高・貸出金残高は地方銀行で1位である。

RPAやAI-OCRの推進体制・年表

事務統括部内に「RPA事務局」を配置しており、現在は6名体制だ。システム面でIT部門との連携をスムーズに行えるよう、2名はIT統括部と兼務している。RPA開発はすべて、FFGグループシステム子会社である「FFGコンピューターサービス(FCS)」が担う『内製化方式』を採用した。各種RPA化案件について、事務局とFCSメンバーがチームとなり、所管部へのヒアリングから開発、完成、運用までの工程を担う。

2017年6月に「blueprism」を導入し、ガイドラインの制定や本部業務への適用を行った。2018年11月にはAI-OCRを導入し、まずは大量の給与振込処理に適用。完全認識率は95%以上となり、業務効率化に大きく寄与した。またこの年にRPAを切り口とした工程の分析・改善も本格的に開始した。2019年3月に為替OCRヘのAI-OCRを適用し、組織単位の効率化と徹底的なRPA化にも取り組んだ。2020年10月~12月の主なトピックは、十八銀行・親和銀行の合併に向けた対応だ。振込不能処理や各種データ移行へRPAを適用して大きな成果が生まれた。2021年9月には為替OCRのAI-OCRを改善。単記式帳票のオペ工程の見直しにより8割の帳票についてAI-OCRの適用が可能となった。

ツールの特徴

blueprismはサーバー型のRPAで、正常稼働率が99.9%と高いのが特徴で、複雑な業務へ適用可能だ。スケジュール実行が可能で、夜間や早朝も稼働でき、処理スピードが速いのも特徴だ。デスクトップ型RPAのWinActorは自由度の高さが大きな特徴だ。サーバー型RPAより製造が容易かつローコストで、研修次第でユーザー製造も可能だ。ユーザー製造ができれば低採算性業務にもRPA適用が検討可能となる。行内LANに未接続の業務用PCにもインストール可能だ。

当社が導入したAI-OCRの3つの特徴は、AIとRPAの組み合わせによる完全自動化率の大幅向上、得意分野が異なる複数のAI-OCRエンジンの活用、辞書機能の実装・拡充だ。このAI-OCRに関してビジネスモデル特許を取得した。為替OCRで用いるAI-OCRはシナモン社のフラックス・スキャナーを採用している。フラックス・スキャナーは文字認識だけでなくレイアウト認識にも優れており、今後さらなる機能アップが期待される。

本部業務へのRPA適用

ここでお話しする本部とは、本部①(総合企画、営業統括等)、本部②(投資信託、総務等)を指す。本部①は企画・管理がメインで、定例業務はあるが短時間だ。よってRPAの適用は限定的であり、時間削減効果はわずかなため、ユーザー製造を推進するのが最も合理的だ。本部②の定例業務は、現業担当者が数多く抱えている。複数名で行っている現業業務について工程分析を行い、最適化を考えることでRPAによる効率化が実現できる。当社では特定部署について徹底的なBPRとRPA化に取り組んだ。

RPA導入当初、RPA化を希望する案件を募ったところ1,275件が上がってきた。内容を分析したところblueprismの損益分岐点を上回る案件は全体の23%しかなかった。そこで残りの約80%に関してはユーザー製造で対応する方針とした。また全体の73%が上位5部署に集中していることも明らかになったため、上位5部署にRPA推進部所が入り込み、集中的な効率化にチャレンジした。

本部におけるユーザー製造

WinActorによるユーザー製造を推進しており、定期的な研修、FCS-RPAチームの出張サポートを実施している。ユーザーによるRPA製造は順調に進んでいるものの、1つの業務あたりの時間削減効果は、日次0.1時間、週次0.5時間など小さい。一方で本部担当者におけるRPAへの理解の深化、さらに業務工程のRPA化の検討という思考プロセスの獲得など、副次的な効果もあった。

本部における部署別集中開発

投信事務グループに対し、徹底的な効率化を推進した。以前は19名で271作業をこなし、年間の作業時間は24,796時間 に達しており、ヒューマンエラーによる事務事故が課題であった。RPA推進事務局が投信事務グループに入り、すべての工程について業務分析を行った。84ロボットの投入と業務のBPRを行ったところ、人員数9名、年間作業時間8,086時間に縮小することができた。

事務センター業務へのRPA適用

事務センター業務の特徴とRPA適用の可能性を踏まえ、2つの基本方針を定めた。システム化が見送られていた部分や単なる勘定系オペレーションへのRPA適用、AI-OCRで紙をデータ化したうえでRPAでの業務効率化の検討だ。3つの適用事例について説明する。

まずATM決済業務は他行、コンビ二、ゆうちょ銀行のATM利用について、センター還元資料に基づき、決済オペレーションを行う業務だ。1日当たりの事務時間は220分であった。 これに対してセンター還元資料のデータ化、当該データを利用したオペレーションの自動化により、1日あたりの事務時間は125時間となり、95分削減できた。

外部文書照会は、市町村・警察・弁護士等の外部からの照会に対し、対象者の預金残高を調査し、回答する業務だ。調査依頼データを、pipitLINQを経由して運用し、照会受付、調査回答を自動化した。

差押集中化に関してはヒトによる作業を前提とするため、1日の処理件数に限界があった。そのため地公体ごとに差押日と最大受付件数を設定せざるを得ず、中途半端な集中化となっていた。そこで差押日当日のほとんどの工程をAPIとRPAで自動化し、高速処理が可能になり、1日の処理件数の上限を撤廃し、完全な集中化を実現することができた。

営業店業務へのRPA適用

店頭業務へもRPA適用の余地はある。正しく製造し、ヒトが手順を守ればロボットが暴走することはない。ヒトの手数を減らすことで効率化し、RPAが複雑な事務工程を正しく処理することが可能だ。さらに紙からデータに変更することによる顧客の現物のハンドリング負担の軽減、RPAの正確なオペレーションにより、顧客満足度向上にも繋がる。

勘定系端末へのRPA導入状況は、福岡銀行63ヵ店、熊本銀行9ヵ店、十八親和銀行28ヵ店で合計100ヵ店となっている。主な活用事例は、融資特殊貸出金の回収オペレーション、社会福祉法人の小口支払オペレーション、法人大量持込の入払オペレーション等だ。

AI-OCRの導入

2018年に給与振込で導入、2019年に為替OCR(連記式)に拡大、2020年には口座振替依頼書登録や財務諸表登録に拡大した。2021年にはオペレーション工程、ユーザーインターフェースの改善により、為替OCR(単記式)にも導入した。給与振込に関しては、毎月行っている処理(約2,500件)を、AI-OCRとRPAで省力化した。それまで3,090分かかっていた処理時間が300分となり、事務量を90%削減した。