「戦略的DXの効果的な促進とは
 ~部分最適化と全体把握の上下流からの攻略~」

前田 まりこ 氏
【講演者】
ABBYYジャパン株式会社
代表取締役社長
前田 まりこ 氏

日本におけるDX推進の現状と挑戦

DX推進が思うように進まない現状には、以下の2点の課題があると考えられる。
・既存システムが複雑化、ブラックボックス化していて全社横断的なデータ活用ができない
・既存システムの問題を解決すべく、経営者サイドがDXによる経営改革を望んでも、現場サイドの抵抗が大きく実行できない

これが解決できない場合は「2025年の壁」が生じると、平成30年9月に発表された経済産業省の研究会によるDXレポート内で指摘されている。DXが実現できないのみならず、2025年以降に年間最大12兆円、現在の約3倍の経済損失が生じる可能性が高まるのだ。

DX化は3段階のステップで進めていく

DX推進は経営的には多くのメリットが生じる。例えば業務の生産性の向上とコスト削減。古いレガシーシステムから脱却して、従業員の働き方改革が実現され、新たなサービスやビジネスモデルの開発につながる。マーケット市場や消費行動が変化しても柔軟に対応できて、BCP(事業計画継続計画)が充実する。最終的にはシステムによる収益が上がり、利益率が増えてくるだろう。

しかし、大きな変革には大きな抵抗が付きものだ。性急にDX化を図るのではなく、できるところから段階的に進めていけば現場の混乱は少なくなるだろう。具体的には次の3段階のステップだ。

1段階目は「電子化」。紙書類などをPDF化するなど、アナログデータをデジタルデータに変換してペーパーレス化を図ることだ。
2段階目は「デジタル化」。電子化された情報を活用しながら、業務での行動にデジタルを取り入れる。例えば、対面の打ち合わせをオンライン会議に移行するなどして、業務の効率化を図っていく段階だ。
最終段階が「DX」。カスタマーサポートへの問い合わせをAIのチャットボット対応にするなど、顧客や社会のニーズの応えるために、組織の在り方や業務そのものをデジタル仕様に変えていくことだ。

公的制度を利用して自社のDX習熟度を把握

DX化を目指すなら何を着手すればいいのか。そのベンチマークとして、経済産業省が提供している各種の指標(実行機関はIPA)を提案する。

例えば「DX推進指標」。自社内のDXに関する取り組み状況をチェックし、他の提出企業と比較できる自己診断ツールだ。
2020年5月からスタートしている「DX認定」は、国が策定した指針(情報処理システムの運用及び管理に関する指針)を踏まえた優良な取り組みを実施している事業者を、ウェブ申請に基づいて認定してくれる制度だ。審査という形で、自社のDX化の習熟度を客観的に判断してもらえる。
「DX銘柄」は、東京証券取引所の上場企業を対象に、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを構築しデジタル活用の実績を示している企業を業種区分ごとに選定して紹介する取り組み。2022年度は「DXグランプリ2022」に2社、「DX銘柄2022」に33社が選定され、合わせて「DX注目企業」15社が発表された。金融機関からも3社が選出されている。

インテリジェント・オートメーション技術で世界を先導するABBYY

創業33年を迎えた弊社ABBYYは、OCRソフトウェアの提供などでインテリジェント・オートメーションを推進するリーディング・カンパニー。世界15カ国に現地オフィスを構え、1500人を超える社員の半数は開発者と言語学者が占める。400以上の特許や特許申請を持ち、数千の企業と5000万ユーザーを超える顧客を支援。ABBYYジャパンは2014年2月に設立され、日本市場の開拓と顧客支援を担っている。

200以上の国と地域でRPAベンダーやソフトウェアベンダーとタイアップをしながらビジネス拡大。特にテキスト解析と自然言語処理対応の分野での貢献度が高く、すでに主要な複写機メーカーの製品にOEMという形でABBYY技術が採用されている他、国内50社以上のパートナーと提携している。

ABBYYが注力する二つのソリューション

業務上、現場での人的負担が大きいのは紙ベースでの管理作業だろう。人的ミスの発生、紙の保管にまつわる諸問題、データベース化への障害などの懸念事項も多い。それに加えて多角化企業であれば、多種類の帳票や多言語対応などの課題も挙げられる。

さらに、経営的判断でDXを推進するのなら、一つ一つの業務を改善する部分最適ではなく、会社全体の業務プロセスを俯瞰して、事業のスリム化と最適化の実現を図ることが重要だ。

こうした課題を解決すべく、ABBYYではAI機能を搭載したOCR「Vantage(ヴァンテージ)」と業務を可視化するプロセス・マイニング・ツール「TimeLine(タイムライン)」という二つのソリューションに注力し、ビジネスの自動化を支援している。それぞれのツールの概要をみてみよう。

紙処理業務DXには:次世代AI OCR「Vantage」

先述したように、デジタル化を最速で実現するには、「紙からの脱却」が第一段階。多くの企業では、業務プロセスの80%はドキュメント主体。請求書、申請書、申込書、AML/KYC(Know Your Customer)業務、本人確認業務など多様なドキュメントを、突合させながらチェックしている現状があるという。

次世代AI OCR「Vantage」は、デジタルのテクノロジーを活用してドキュメントに記載された情報の自動読み取りを実現。手書き文字や複雑な画像の処理も可能で、機械学習機能により繰り返し使うほどに精度が向上する。本人確認書類や公共料金の請求書などの利用頻度の高い帳票はスキルとしてセットされているので、スキルを選ぶだけで半自動的に文書の読み取りを実行。専門知識がなくても簡単操作でドキュメントのデータ化を実現するので、人的資源や時間を大幅に節約できる。

さらに、主要なRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション/AIによる自動化)ベンダーやBPM(ビジネスプロセス管理)ソフトウェア、ECM(エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント・システム/高性能な文書管理システム)などとシームレスにつながるコネクタが用意され、読み取ったデータを利用中のソフトウェアにシームレスに展開して活用できる使い勝手の良さも特徴的だ。

独自仕様の帳票はカスタマイズスキルを用意して提供可能。電帳法への対応、自動読み込み技術の搭載。日本語はもちろん、英語や中国語など多言語に対応した読み取り精度も高めている。

会社業務プロセスDXには:プロセス・マイニング「Timeline」

業務を改善するには、正しく現状を把握することが不可欠だ。ただ、組織が大きくなるほどに関係者が多くなり、業務は複雑化する。全ての業務フローを洗い出して整理するだけでも費やす時間と手間は少なくないだろう。

こうした作業を簡素化、効率化してくれるのが、プロセス・マイニング・ツールだ。弊社が提供するプロセス・マイニング「TimeLine」は、会社全体の業務プロセスを俯瞰し、非効率な業務の無駄やボトルネック、不適切な例外処理など、業務の改善すべき問題箇所を抽出して可視化できる。業務の分析や整理に掛かる作業が大幅に短縮され、DX化の工数が抑えられる。

予測分析・効果分析の機能を備えているので、改善を実施すると期待できる効果なども見通すことができる。さらに、常にリアルタイムデータを収集して分析解析するので、プロセスを継続的にモニタニングしてコンプライアンス違反を監視したり、自動応答処理を実行して顧客満足度向上につなげることも期待できる。

金融関連業界は、特に業務内に紙のオペレーションが多く、人的負担が大きい業務で複雑化していることが多いため、DX化に取り組むと大きな環境改善につながりやすい。手始めに、OCRツールでドキュメントを電子化したり、プロセス・マイニング・ツールで業務を分析するところから始めてみてはいかがだろうか。

◆講演企業情報
ABBYYジャパン株式会社:https://www.abbyy.com/ja/