「戦略的なAI活用で金融業界を変える~AI導入の実情と事例~」

新井 恒希 氏
【講演者】
株式会社シナモン
Business Development Manager
新井 恒希 氏

シナモンの紹介

2016年に設立したシナモンは、機械学習やディープラーニングを活用した人工知能(AI)に関連するプロダクトを提供する企業。「AIで世界の進化を加速させる」ことをミッションとして、ベトナムと台湾に最先端のAI研究ラボを保有。このラボには現在100名以上の「AIリサーチャー」とよばれる研究メンバーが所属している。ラボで開発されたプロダクトの提案や支援を日本メンバーが担っている。

金融業界におけるAI活用の実情

金融業界ではAI導入に対する取り組みが早く、2社に1社がAI化の検討を開始している。AIは金融業界が抱える課題をどのように解決するのか。いくつかのAI活用事例を紹介する。

事例1:就活生からの問合せを自動回答

就活生は将来への不安や疑問などから、抱えている悩みが多い。真摯に対応したくても、問い合わせ数を考えたら、就活生一人ひとりの対応に長い時間は掛けられない。
一方、コロナ禍以降、就活生との接点はオンラインが中心であり、会社の魅力を伝えられる場面が減少している。問い合わせへの対応がおざなりであったり、選考過程において不採用となった場合は、就活生から不興を買いやすい。

AIを導入しチャットボットを活用することで、人的負担を大きく減らすことができた。AIは就活生からの質問(投稿内容)を分析して、適切な回答を自動生成する。結果的に、就活生の不安や悩みに寄り添った回答を返していける。AIに回答できない場合は人間が対応することになるが、その内容を蓄積することで、新たなQA生成も可能になる。

事例2:経営層への報告レポートを自動化

消費者金融での活用事例。代理店窓口からの問い合わせで入電された内容は対応履歴として全て登録。重要度や受け付け内容を人力でタグ付けした後、経営層へ報告していた。人力を介することが多い分、問い合わせ傾向の分析に時間を要するという課題があった。

AI導入後は、テキスト内容からタグ分類や重要度の指定をAIが実施。最終的に人が確認することで品質を均一化した。さらに問い合わせ内容の傾向や過去に類似の問い合わせがないかを、AIが自動分析して報告レポートを作成。データドリブンの経営判断が実現可能になった。

事例3:QA生成を自動化し、FAQサイトの質を向上

新商品をリリースしたり、商品内容が変更する度に、サポートのために新たなQA作成が必要になる。QA生成時には質問の項目を増やし、回答率を上げることも検討された。ただ、QA担当者と商品担当者が異なる場合は商品理解に時間がかかるため、1商品のQA作成に約50時間を費やす場合もあった。

AI導入後は、業務マニュアルを基にAIが構文構造を分析して内容を把握し、複数のQAを自動生成。そのQAを確認および修正を行うことで、FAQサイトへの公開までに要する時間を20%短縮、さらに項目数を10%増加。QA生成だけでなく、チャットボットでのサポートも視野に入れられるようになった。

事例4:コールセンターでの回答率や成約率の向上を実現

あるコールセンターでは、全国の取引先から週に6000~10000の質問や声を受領、 内容を精査して担当部署で週に60件ほど回答を実施していた。人的対応となることから、問い合わせ増加数と比例して対応工数も増加するため、対策を考えていた。

AI導入後は、過去のFAQからパターン分析し、適切な回答をレコメンドすることで担当部署の回答数を50%に削減。重要な問い合わせに注力できるようになり成約率が20%向上、既存環境とAPIで連携することで、最小限のシステム改修のみでの対応を実現した。

事例5:振込依頼書の処理をAI-OCRを活用して自動化

銀行窓口で受付する振込依頼書にOCRシステムを活用し自動化を実施。定型のOCR帳票以外に非定型の帳票があり、完全な自動処理は難しい。

ユニークな対応として、2つのAI-OCRモデルを利用。両方が同じ箇所を読み取り、結果が一致した帳票はヒトの確認工程は不要と判断すると全体の80%はAI-OCRのみで処理が可能になり効率化を実現できた。

事例6:検索機能を実装することで契約に関する業務を効率化

契約書は締結前と契約後の処理管理が必要。担当者ごとに確認項目が異なる可能性があり、人的チェックが必要。法改定で確認するべき該当契約書の検索には時間を要していた。さらに締結済の契約書管理も、内容が正しいか判断しかねていた。

AI導入後は、レビューに必要な項目を定義して自動的に確認項目を抽出することで、契約レビューを2営業日短縮。さらに検索AIと組み合わせて文書一元管理すると、契約棚卸業務の時間短縮にもつながった。

シナモンAIの提供ソリューション

AI導入を検討する現場には多くの課題が存在している。AI活用でどのように課題を解決できるのか、対象業務の選定、精度の検証、連携システムの構築というフローで対応を図る。

「対象業務の選定」とは、どういう業務にAIを活用するべきか、導入効果が得られるのか検討することだ。既存のシステムとの連携の必要性も検討事項になる。昨今は様々なSaaSが存在しているので、特定業務の課題解決に適しているSaaSがあるか、選定や検討に多くの時間や手間がかかるというのが現状だろう。

「精度の検証」はAIで抽出した情報の正誤チェックだ。精度が低い場合は、改善する方法があるのか、肝心の課題解決ができるのか。また、正しく読み取ることができても、自社独自のルールに変換されていないと業務には使えない。精度の検証には、そうした点も踏まえることが必要だ。

「連携システム構築」は、例えばSaaSで処理した後続の処理はどうするのか、人が対応するか、RPAを使って自動化するか、APIで連携させるのかなど、検討すべき事柄は多い。処理時間の早さも見逃せない視点だろう。多くの金融機関では自社サービスの環境で動かしたい要望が多く、SaaSでは提供しきれないことも多いと感じている。

AI-OCRソリューション「FLAX SCANNER(フラックススキャナー)」

請求書や口座振替依頼書などの帳票は数多く存在する中で、取得したい項目は共通でありながらフォーマットが異なるために自動化が難しくなる。

シナモンのAI-OCR「フラックススキャナー」は非定型帳票に対応。専用AIを独自に開発するので、異なるフォーマットから特定の項目を取得できる。

音声認識ソリューション「Rossa Voice(ロッサボイス)」

音声認識ソリューション「Rossa Voice」は、音声をテキストにするだけではなく、専門用語や独自ルールの学習が可能。さらに自然言語処理技術と組み合わせることで、議事録内の発言者を識別したり、感情分析も含めることができる。顧客の問い合わせ内容を音声認識する際も、質問なのかクレームなのかを自動判別させることができる。

自動言語処理ソリューション「Aurora Clipper(オーロラクリッパー)」

自動言語処理ソリューション「Aurora Clipper」は、単語ごとに項目を判断するだけではなく、文脈で内容を判断する技術を備えている。

事例3で紹介したQA自動生成は、Aurora Clipperの機能を活用している。業務マニュアルを読み取る際に、Aurora ClipperのAIは見出しは重要な用語、その後に続く内容は説明文など、構成を分析して理解。内容を自動的に抽出してデータベース化。後続処理で質問の内容とマッチングしている内容を抽出することで、適切な回答を表示させることができる仕組みだ。フレキシブルな処理ができる自然言語処理の活用シーンは幅広いと考えている。

AI導入成功のために抑えるべきポイント

AI導入には検討・設計、開発、運用の3段階のステップがあるが、各ステップでボトルネックが存在する。

検討・設計時の判断には、現場のオペレーション理解とAIの知識が必要だ。その両方を兼ね備えている人材が望ましいが、該当する人材を獲得するのは難しい。
開発中のAI精度を高めるには、一定数のデータを収集して学習させることが必要だ。AIを必要とする現場ほどデータ量が膨大で、かつ整理されていないことが多く、有効データの入手が難しい。どのデータを取得すべきかが不明瞭なこともある。
運用面での問題は、AIへの理解だ。AIの精度をどれだけ上げても100%にすることは不可能なので、最終的には人的チェックを必要とする。それを見込んだオペレーション構築が重要だ。この議論が十分になされないまま導入に向けて開発が進んでしまうと、望ましい結果が得られなくなる。

こうしたボトルネックを把握した上で、「自社データの把握」「対象データのデジタル化」「デジタル化されたデータの構造化と分析」という段階を踏んでAI導入することが成功の秘訣だ。シナモンでは、データの把握から最終的な構造化やソリューション提案まで一気通貫で支援できる体制を整え、顧客に寄り添いながらAI導入を成功に導くお手伝いをしていく。

◆講演企業情報
株式会社シナモン:https://cinnamon.ai/