「あおぞら銀行におけるデジタル人材育成に向けた取り組み」

楠田 佳嗣 氏
特別講演
【講演者】
株式会社あおぞら銀行
CTO副担当兼デジタル企画部長
楠田 佳嗣 氏

あおぞら銀行の紹介

あおぞら銀行は、全国に約20の支店、海外拠点として現地法人と駐在員事務所を各3つずつ構え、本店は上智大学構内のソフィアタワー内にあるというユニークな銀行だ。

2018年頃からデジタル人材の育成を意識し始め、2021年からは本格的デジタル人材育成プログラムを始動。約2000人の従業員のスキルアップ図っている。その狙いは何か。あおぞら銀行がデジタル人材育成を企画するに至った背景を紹介する。

デジタル人材育成企画の立案経緯

2018年頃、経営層から与えられたミッションは「リテールビジネスの構造改革」だった。
前身の日本債券信用銀行を経て、あおぞら銀行のリテールビジネスは、高齢層の顧客をターゲットに資産運用や資産継承の相談を受けることに特化していた。この方針や商品戦略は変わらずとも、Webやデジタル技術の進化により、将来的には顧客の行動変容が著しくなると見込まれた。この点を想定したビジネスモデルが急務だという問題意識により、「チャネル戦略の再構築」に取り組むことになったのだ。

リテールビジネスの構造改革

最初に取り組んだ施策は自行ATMの廃止、すなわち業務の断捨離だ。さらに、非対面ながらも顧客との接点は強化するという観点からオンラインビジネスを強化。それまでのインターネット支店をリニューアルする形でバンク支店を設立させ、スマホアプリでのサービス提供を始動。同時に、商品やサービスの徹底した合理化に取り組んでいくと、必然的に店舗業務の合理化、効率化が大きな課題になった。
手続きの簡素化を図る意味でも、ペーパーレス化、押印レス化の取り組みも進められた。2022年に入ってからは、店舗での現金の取り扱いも廃止している。

本店移転を契機とした働き方改革の推進

業務改革と同時に行われていた大きな動きが、本社移転だ。それまで九段下に位置していた本店を、現在地に移転することを機に、改めて「働き方改革」が意識された。
まずは、紙書類の大幅削減に取り組み、保存を要するものは、社内で内製化して作った電子文書管理システムを活用してデータ化。さらに在宅勤務やモバイル勤務の制度を設けてフリーアドレスを導入。IP電話、VDI環境、仮想デスクトップなどのインフラ整備は2012年頃から進めていたため、大きな混乱もなく実現された。

デジタル人材育成をどうすべきか

業務のデジタル化や働き方改革が進む中で、デジタル人材育成の必要性が高まりをみせた。求めているのはIT操作ができる人材ではない。既存事業、既存業務の延長線上にはない、イノベーションや新規事業を創出できる人材だ。そうした人材の育成を図るには、思考プロセスを大きく変える必要があった。

従来の業務プロセスを見直し、解決すべき課題を洗い出しながら、未来理想図を描く。最終的には、誰もが自身のキャリアプランや将来像を見据えながら、強化すべき知識やスキルを自分で見定めて取り組んでいく。そうした企業風土につなげることを目指した。

あおぞら銀行のデジタル人材育成プログラム

最初に取り組んだことは、全役職員を対象にした「デジタルリテラシーについてのアセスメント」。客観的に自分の立ち位置を知ることが大切なので、外部事業者のサービスを使って、事前に告知をしないまま実施。問い合わせは殺到したが、それぞれの現状を把握したところで、2021年4月から全体的にデジタル人材教育プログラムが始動した。

デジタル人材育成プログラムの概要

あおぞら銀行のデジタル人材育成プログラムは自己啓発型だ。自分に必要だと思う講座を選んで受講するカフェテリア方式のメニューになっている。
ブログラム内容は「スタンダードコース」「集中人材育成プログラム」「マネジメントコース」の3コースあり、それぞれに対象者を分けている。

1.スタンダードコース(役職者全員が対象)
メニューを自由に選べる「eラーニング」、ウェビナー形式で講義を受ける社内大学「あおぞらユニバーシティ」などで構成された、自己啓発メニュー。受講者共通の目標としてITパスボート資格取得を推奨している。

2.集中人材育成コース(公募)
チームビルディングから経営層へのプレゼンテーションまで、DX戦略の立案や推進に必要な一連のノウハウとスキル習得を目指す「ビジネスストラテジスト」、自社サービスを、社内外に向けて分かりやすくデザインしていくための「サービスデザイナー」、業務上の課題を分析、立証することができるためのデータ分析を学ぶ「データサイエンス」という、3コースを用意。実践的な演習を取り入れて、システム内製化で重要になるスキルを学ぶ。

3.マネジメントコース(役員、グループ会社社長)
自社開発のシステムに対するコストや、システムの詳細を理解、認識するための知識を学ぶ他、外部有識者を招聘してのディスカッションなどを実施している。

育成プログラムで学んだことを実践する場づくり

学んだことを実践に生かせるように、新たな場づくりも立ち上がっている。

「ビジネス・ラボ」ではビジネスアイデアを社内から幅広く募集。きちんとした企画の形でなくても、何かを思いついたら目安箱に入れるスタイルで受け付けている。
いいビジネスアイデアは「経営陣との公開ディスカッション」を経て社内に共有。社長、副社長、外部の有識者と語り合いながら、アイデアをブラッシュアップさせていく。
さらに、銀行が抱えている課題に関することをテーマに異業種の取引先と協力して「ワークショップ」を開催するなど、さらなる向上心を刺激している。

またベンチャー企業と取り組むDX支援というコンセプトで、独立系のベンチャーキャピタルと共同出資で合弁会社「B Spark」を設立。社内外のステークホルダーに対してDXを支援し、DXによる地域オープンイノベーションの促進を図っている。

集中人材育成プログラムの受講者に対しても、人事上のジョブサポート制度を用意。期間限定で、デジタルマーケティングや支店の移転プロジェクトなど、業務外のプロジェクトに参画することで実務経験を重ねている。

2022年スタートの新企画

2022年から始まった新企画をいくつか紹介する。

若手行員対象のワークショップ

ワークショップ開催時は慣例的に若手社員が議事録を担当する傾向があり、スキルが偏在化する恐れがあった。そこで若手行員だけのワークショップを開催し、シニアの存在を気にすることなく、アイデアの探索やチームビルディングなどに取り組んだ。

役員・管理職対象のワークショップ

ノーコードアプリの開発を疑似体験してもらうために、プライベートの課題をアルゴリズム思考で解決することに挑戦。副次的な効果として、新たなシステムを開発する際、理解不足からのコミュニケーションロスに至る事態を減らすことを狙いとしている。

AI活用人材育成コースの新設

2022年度から新設したeラーニング。初心者から上級者まで自分のペースでAI活用の知識を身に付けられる。AIができることを理解した上で、銀行内でどのようにAI活用できるかPOCを実施している。

未来のデジタル人材像

あおぞら銀行では、「デジタル人材の育成」を人的資本の重要課題として掲げている。
デジタル人材の特徴的なキーワードは「コ・ワーク(Co-Work)」だと考えている。イノベーションの創出に重要なのは横に連携したつながりだ。そのためには、社外とのコミュニケーションはいい刺激になるだろう。
コロナ禍の効用として社会的にデジタル環境が広がって国内外問わずにウェビナーの参加が柔軟に対応できるようになり、外部とのコミュニケーション量を増やしやすい今は好機だ。

これまでの経験を生かし、次に何やるかを考えるのではなく、将来の目標から逆算して明日やるべきことをバックキャストしていく。こうした思考プロセスが自然とできるデジタル人材の育成に勤しみたい。