金融業界のベストプラクティスRPAと
次世代の業務自動化に向けたインテリジェントオートメーション

【講演者】
Blue Prism 株式会社
製品戦略本部長
柏原 伸次郎 氏

日本におけるDXの現状

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が検索される件数は、2019年頃から急激に増加。現在も高い検索件数を維持し続けていることから、多くの人が関心を寄せていることがわかる。 IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発行した「DX白書2023」によれば、現状では60%以上の企業が何かしらのDX対策に取り組み、58%の企業が成果を出していると回答しているが、米国ではすでに約80%以上の企業が取り組みを始め、89%の企業が成果を出している。DX先進国である米国と比較すると、大きく遅れをとっているといえる。

金融業界における自動化実践事例の紹介

DX化を成功させた米国のユーザーは、どのように自動化を進めたのだろうか。米国にある、投資信託を主力とした世界最大規模の金融機関を例にみてみる。

この企業では、2010年代に自動化を目的としたRPAの導入を開始。147の業務で200台のロボットを利用し始めた。業務処理時間を平均62%削減、監査対象時間を10営業日から24時間に短縮、業務処理エラーの大幅削減などの成果を上げるなど、大幅な改善を達成。1年間でほぼ損益分岐に近いパフォーマンスを実現し、2年目にはそれを上回る成果を上げた。その後、6年目には累計650台のロボットを全世界に展開し、年間数百万ドルの業務削減効果を出し続けている。

米国の金融機関が業務自動化で大きく成果を出した理由

この企業はSS&C Blue Prismが提供するRPA「デジタルワーカー」を利用し、9つのメインフレームと20以上のWebアプリケーションを動かして自動処理を展開した。

成功のポイントは、事務的なデータ管理のみならず、お金のやりとりを含む重要業務でも自動化を進めたことだ。適用の幅を広げることで、成果は格段に飛躍する。

日本国内ではセキュリティレベルの低い業務、事務処理の部分的な効率化にRPAを使うことが多い。それでも成果を出すことはできるが、限られた成果しか享受できないと足踏み状態に陥っている可能性もあるだろう。

日本の自動化促進を阻んできた要因と解決策

重要業務の自動化における阻害要因は、大きく分けて二つある。一つは自動化ツールに対するセキュリティ不安、もう一つが導入や運用のノウハウ不足だ。この二つの要因によって、重要業務の自動化は消極的な対応となり、狭く限られた範囲での運用に終始してしまっていると考えられる。それぞれ、どのような点が阻害要因となっているのか見ていく。

「セキュリティ不安」に対する解決策

日本におけるRPAは、個々のパソコン内でロボットが業務を処理するデスクトップ型が主流だ。導入しやすいが、個別対応が必要になるため、セキュリティ管理を徹底することが難しくなる。プロセス全体を一元監視することができず、どの段階で不具合が生じたか、正確な状況が把握できないからだ。

さらに、デスクトップ型RPAの場合、データの同時読み込み、同時書き込みができないのでいずれかのパソコンが対象データを利用している間は、並列処理ができない。当然、処理に時間が掛かることになる。また機密情報が保存されているかもしれない処理途中のデータをファイルで保管するなど、セキュリティ上の観点からも秘匿性の高いデータの取り扱いには向かないということから、リスクを許容できる限られた業務での運用に留まってしまう傾向にある。

サーバー型RPAを活用することで解決
上述の米国企業の事例では、サーバー型RPAを活用することで、この点をクリアにしている。サーバー型RPAでは、サーバー上でロボットが自動処理を実行する。IT部門が自動処理を統制し、実行状況をリアルタイムでモニタリングすることができ、改ざん防止が担保された全てのログを保持。全プロセスを正確に把握できるため、安定性とセキュリティが求められる重要業務でも十分適用できるのだ。

さらに、SS&C Blue Prismが提供するRPA「デジタルワーカー」はワークキュー(RPA内に存在するデータベース)でデータを暗号化し、順序保障や同時読み取りができる形で保管される。その結果、高いセキュリティを確保したうえで複数のシステムが同時にデータを読み取ることも、同時並行で処理を実行させることも可能だ。

万が一問題が発生しても、全プロセスはログが記録されているので、迅速に原因を把握して対処できるので、これでなら安心してRPAに自動処理を任せられるだろう。

「導入や運用のノウハウ不足」に対する解決策

SS&C Blue Prismは2001年の創業以来、20年以上にわたり世界中の企業の自動化ソリューションに携わってきた。その後はサーバー型のアーキテクチャを開発してリリースしてきた。セキュリティを強化しつつ、開発工数と運用工数を低減するための手法として、2008年にはROM(ロボティック・オペレーティング・モデル)を確立。以降、毎年ブラッシュアップを重ねながら提供を続けている。

その経験と実績を生かし、導入にあたっては、戦略、ワークフォース、計画、開発、オペレーションという5つのカテゴリーにおいて、自動化の考え方と詳細なガイダンスを提供。企業ごとの環境や処理プロセスに応じて、最適なモデルを構築している。運用にあたっても、細かいステップを提示しながら、実働に至るまでサポートする構えだ。

このため、RPAに関するノウハウのない企業でも、不安なく処理の自動化を実現させ、大きな成果を享受できるサポートができると考えている。

導入済みのPRAとサーバー型RPAを連携して運用

SS&C Blue Prism が提供するサーバー型RPAは、デスクトップ型のPRAを導入した環境でも併用して運用できる。既存のツールをそのまま生かしながら、これまで対処ができなかった機密情報や基幹業務を自動化するといった具合に、自動化の処理を使い分けることも可能だ。

千葉銀行の導入事例

千葉銀行では、2018年に本部の管理業務を自動化するために、デスクトップ型RPAを導入。導入後1年で効果を実感し、業務量が大きい顧客データの登録・更新などでも自動化を図ろうと考えた。ただし、デスクトップ型RPAで顧客情報を取り扱うことにリスクを感じ、2019年にデスクトップ型PRAと、SS&C Blue Prismのデジタルワーカーの併用を決定した。

採用の利用としては、ロボット動作を集中管理できる点、動作状況が完全に記録され、人の指示を必要としない点、将来規模が大きくなってもメンテナンスしやすい点などが考慮され、今では70の業務で300のプロセスを実行、年間25万時間分の業務削減に成功している。

サーバー型はオブジェクト指向で作られているため、一つのオブジェクトを変更すると、関連する全てのプロセスに適用される。メンテナンス作業が大幅に削減され、少数精鋭のチームで内製化できるようになった。

DX推進に対する目的意識の違い

DXの本質的な目的は、業務効率化ではなく、業務効率化によって生じた時間や人材などのリソースを有効活用して、新製品やサービスを拡充し、企業の価値を上げることだ。

すでにDXを推進している米国に対して、日本ではまだ多くの企業が業務の効率化にとどまっている。特に差が顕著なのは金融・保険業界で、米国はすでに54.5%の企業が「新製品・サービス創出」に向けた取り組みを進めているのに対し、日本で同様の取り組みを進めている10.8%に過ぎない。 AI(人工知能)の導入目的に関しても、日本では「生産性向上」や「ヒューマンエラーの低減」「品質向上」を目指しているのに対して、米国では「集客効果向上」「既存商品の高度化、付加価値向上」「新製品の創出」「新サービスの創出」を目指し、意識の違いが浮き彫りになっている。

今後注目される顧客接点業務における業務自動化とは

近い将来、日本も付加価値向上、新サービス創出に注力するための自動化を図ることになるだろう。そこで必要になるのが、顧客からのアクションに即時対応するような、双方向のコミュニケーションを自動化できる仕組みだ。

業務プロセスを変革し人と相互に連携できる自動化の流れをつくり出すためにはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)の活用が有効だ。RPAとBPMを併用し、依頼内容をBPMが一旦受け付けてから、必要なRPAを起動することで、業務を適切に処理できるようになる。

統合型プラットフォームの構築が求められる

プロセス構築、業務の高速化が実現されたことで、これからは人とシステム接点の変革が求められるようになるだろう。最終的には、データ連携、プロセスの融合、パフォーマンスの最適化を実現する、統合型のプラットフォームのニーズが高まると考えられる。

SS&C Blue Prismでもポートフォリオを大きく変更し、「UX Builder」という顧客対応のためのインタフェース作成ツールの開発に取り組んでいる。RRAにデータ連携するためのウェブアプリや入力フォームをノーコード・ローコードで作成が可能になる。日本では2023年中のリリースを予定している。

このツールを活用すると、自由に入力フォームを設計できる。たとえば、UX Builderで作成した入力フォームと、適切な業務を振り分けるBPM、自動処理を実行するRPAを連携させれば、新規の口座開設に際しても、ほぼ全自動で処理を行うことが可能になる。

SS&C Blue Prismの「インテリジェントオートメーション」は、高度なセキュリティ要求にも耐え得るRPAによってこれまで自動化が困難であった重要業務でも業務効率化が可能だ。さらに人とのコミュニケーションを自動化する様々な機能の拡充により、顧客接点業務への展開など自動化活用の幅が広げられる。このようなオートメーションの進化を通して、現在企業が抱えるさまざまな経営課題を解決に導き、真のDX実現を目指すお手伝いをしていきたい。

◆講演企業情報
Blue Prism 株式会社:https://www.blueprism.com/japan/