ひろぎんグループのDX/デジタル戦略
~データ利活用の高度化を中心に~
- 特別講演
【講演者】
- 株式会社ひろぎんホールディングス
- デジタルイノベーション部
- デジタル戦略グループ DX戦略・データ利活用統括担当調査役
- (株式会社広島銀行 総合企画部 企画室 兼務)
大江 拓真 氏
<ひろぎんホールディングス誕生の背景>
銀行を中心とした従来の体制から、持株会社体制へと舵を切り、2020年10月に設立されたひろぎんホールディングス。地域の発展に積極的にコミットし、地元密着で取引先の資金を含めたあらゆるニーズに一気通貫で対応すべく、地域総合サービスグループを目指している。
<ひろぎんグループのDX/デジタル戦略>
ひろぎんグループが本格的にDXに取り組んだのは2016年8月から。現在に至るまでの期間は試行錯誤の連続で、新たな組織の組成、部門の統合、体制の移行、部門の分離などの変遷を重ねながら、DX推進に向けて体制を整えてきた。
2022年度からは新デジタル戦略として改めて戦略を見直し、取締役会議での合意を得て、取り組みを明確化。DX認定制度の認定も取得した。新中期経営計画が策定される2024年度からは、現在のデジタル戦略を踏襲した上で、さらなる強化・発展を図り、取引先企業や地域のDX化支援にも取り組む「次期デジタル戦略」のスタートが予定されている。
●ひろぎんグループ「新デジタル戦略」の全体像
新デジタル戦略では、DXを「経営理念(経営ビジョン)やビジネスモデルを実現するために、必須となる重点取組事項」と改めて位置づけ、「あらゆる業務・施策へのDX活用」および「グループ全社・全員の主体的取組と意識変革」をDXビジョンとして掲げた。
その中で、ひろぎんグループとして取り組むべき3つの領域(デジタルイノベーション、デジタライゼーション、デジタイゼーション)と、基盤整理を必要とする4つの項目(DX推進・ガバナンス管理体制の整備、DX人財、DXシステム基盤整備、データ利活用高度化)を定義した。
この中から、今回はデータ利活用高度化の取り組みを中心に紹介する。
<データ利活用の高度化>
データ利活用を高度化する取り組みは、先行投資的なインフラ対応になるので、総論賛成各論反対という状況に陥りやすい。強力なトップダウンによる全社的推進がなされるか、ボトムアップで具体的なユースケースを起点にスモールスタートして、少しずつ実績を積み上げながら、経営層や各事業部門の理解を得ながら横展開していくことが現実的だろう。
●ひろぎんグループにおけるデータ利活用への取組みポイントとアプローチ
ひろぎんでは、基本的に後者のアプローチで進めてきた。データ利活用の高度化に向けたポイントとアプローチを分類すると、次の3点になる。
■より高度に:「AI」にアプローチ
AIなどの高度な分析手法を活用して大量のデータを解析。グループ内に知見を蓄積し、コアコンピタンス化も図る。スピーディーかつ高頻度、低コストでの試行錯誤を繰り返して実効性を向上させることで、従来得られなかったような知見を得るのが狙いだ。
2021年4月よりAIデータ分析の内製化体制を構築のうえ実運用を開始したが、高度で専門的な知識とスキルが必要になるので、育成したデータサイエンティストをDX部門内に配置し、CoE組織として運営している。
■より広範囲に:「BI(ビジネス・インテリジェンス)」にアプローチ
DX戦略には、各部署がそれぞれで蓄積しているデータを収集・蓄積・分析し、スピーディーな意志決定を支援する「BI(ビジネス・インテリジェンス)」の考え方が欠かせない。実現に向けては全社的にリテラシーを底上げし、専門家でなくても、業務担当者が業務の延長線上で実施できるようにすることが重要になる。
データ利活用範囲を拡大(データの民主化)と、意思決定への活用の強化(データドリブン経営)を図れるようにアプローチしていく。
■全体最適かつ強力に:「統括」
DX戦略では軽視される傾向があるが、全体最適で進めていくガバナンス観点も欠かせない。どれだけAIやBIのツールの利用を促進しても、全体最適性がなければ、結局使われないものになってしまう懸念があるため、DX部門が統括機能を働かせる必要がある。
いわば、中央集権での統括と、全体最適を目指して民主化を進める、ハイブリッドなアプローチでDX戦略を進めることが、現時点での最適解だと考えている。
●データ利活用全社推進/意志決定へのデータ利活用強化
BI領域のアプローチとなるデータドリブン経営とデータ利活用の民主化領域については、2023年度内の本格始動が予定され、現状では顕在化している課題を認識し、その根本原因を探ることで、解決を図ろうとしている。
具体的な施策としては「新BIツール導入・一元化」「ダッシュボード機能の導入」などのシステム整備と、「テンプレート開発内製化」「リテラシー向上・育成」「DB管理強化」などの運用整備が想定されている。BI領域における、ひろぎんグループでのあるべき姿として、計画的に進めていく予定だ。
<現場での実務イメージ(関係者インタビュー)>
データ利活用高度化に向けて、現場ではどのような対応がとられているのか。各部門の担当者の声をお届けする。
①営業企画部門(広島銀行 営業企画部 営業企画室 担当課長代理)
Q:現状で顕在化している課題は?
A:一つ目は、「本部の営業関連計数の集約と経営報告」。現在はマンパワーで必要なデータを集約しているため、精度とスピード、柔軟性に欠けるのが懸念事項。経営判断に必要となる各種情報を簡単かつスピーディーに抽出し、どこからでもシミュレーションができる仕組みを整えていくことが望ましいが、まずはリテラシーの底上げや風土文化の変革に取り組む必要があるだろう。
次に「支店の業績評価の廃止や独自経営」では、「業績評価」という本部からの画一的な施策を一掃し、地点行動計画を軸に各マーケットの実態に見合った営業活動の実施を目指している。
各支店が独自にマーケット環境の変化に合わせた適切な情報を収集し、スピード感を持ってシミュレーションしていくことが理想だが、現時点では仕組みが整備できておらず、支店から随時必要な情報を要請し、本部が抽出したものをエクセルの固定データとして還元しているのが実情だ。
②デジタルマーケティング部門(ひろぎんホールディングス グループ営業戦略部 営業統括グループ 営業戦略室 デジタルマーケティング担当)
Q:デジタルマーケティングの観点では、データ利活用はどのように位置づけられるか。
A:デジタルマーケティングの大前提は、正しく管理された鮮度の良いデータを使いたいときに使える状態にしていくこと。具体的にはチャネルの動きをタイムリーに捉えて、お客様が今どういう状態にあるのか、潜在的なニーズは何かを捉えることだ。その上で、施策のPDCAを繰り返せば、最適なコミュニケーションが実現されるだろう。銀行目線の商品ありきで提案するのではなく、顧客目線で今欲しい情報を届けるというスタンスが重要だ。
③決済サービス企画部門(広島銀行 営業企画部 決済サービス室 担当課長代理)
Q:当行での決済データの活用には、どのような領域を想定しているか。
A:ターゲティングの精緻化による収益機会の創出、コストカット、スピーディーな意思決定の3点が考えられる。顧客ニーズに適合したサービスを効率よくタイムリーに提供することが必要。重要な要素はターゲティングで、いかにピンポイントに顧客ニーズをキャッチし、ニーズに適合する営業接点を用意できるかが鍵になる。
法人向けなら、リアルタイムでのキャッシュフロー動向把握や信用評価、非金融ビジネスとのターゲティングなどが考えられる。財務諸表ベースでの過去データに加えて、預金決済データの分析を組み合わせることで、タイムリーな運転資金ニーズのデリバティブな商品や運用商品、非金融部門のニーズ把握なども可能になるだろう。
個人向けでは、おおよその年収や消費傾向が推測できるので、収支分析による一定の信用評価も可能となる。決済データを分析し、ライフサイクル上の重要イベント発生サインを捉えることができれば、ローン、運用、保険や各種商品のターゲティング活用も見込める。決済データを属性情報と組み合わせることによって傾向を分析し、ニーズの把握、ターゲティングなどが可能になる。工夫次第で可能性は大きく広がる。
④データ統括部門(ひろぎんホールディングス デジタルイノベーション部 デジタル戦略グループ データ利活用統括・企画担当)
Q:大学院で学び、情報学修士を取得した知見から、データ利活用の全社推進、意思決定へのデータ利活用を強化するポイントはどこにあると考えるか。
A:データ利活用を全社的に推進するには、データガバナンスを含めた運用面も一体で検討する必要がある。体制を整備してダッシュボードを内製化し、リテラシー教育、データ管理の3つの要素を整備することが重要だ。全てを一度に手掛けるのは不可能なので、プライオリティの高いユースケースから進め、最低限必要な運用に絞ってスモールスタートさせていく。そこから少しずつ拡張するのが現実的だろう。
こうした現場の声に耳を傾け、現実的な対応を図りながら、DX戦略を進めていきたい。