保険カスタマーエンゲージメント最適化
~先進事例とそれを支えるSAS AIテクノロジ
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【講演者】
- SAS Institute Japan株式会社
松下 聡 氏
<SAS Institute Japan株式会社>
SAS Instituteは40年間以上データアナリティクス一筋で、ソフトウェアクラウド、コンサルティング、人材育成などデータ活用に関わるサポートをビジネス課題に応じて幅広く提供している。世界75ヵ国で1400以上の保険会社が利用し、FORTUNE Global500の保険会社では90%を占めている。
SASはAIやアナリティクスに関するシステムやソフトウェアのみならず、顧客プロジェクトを通じて得た知見から、ビジネスナレッジやテンプレートをクラウドサービスとして提供している。また、業務フローの視点では、基盤運用サービスも含めデータの取得から活用までをサポートしている。
<保険業界を取り巻く環境と課題>
現在の保険業界は、少子高齢化や若年層の保険離れによる将来の収益の影響が今後の懸念材料となっている。その中で、顧客囲い込みの強化につながる、LTV向上や客単価アップのためのデジタル強化の重要性が増している。
デジタル強化においては、デジタルネイティブ世代の台頭を背景に、消費者のデジタルシフトにスピーディーに対応しなければならない。デジタル強化のためにはデータ収集の仕組みが欠かせないが、保険業においては、代理店などの非ダイレクトチャネルからの顧客情報が集まりにくいという特徴がある。1to1マーケティングの究極形としては、顧客の一人ひとりのその時のニーズを理解した上で、それぞれに最適なモノや情報をパーソナライズして、最適なタイミングで提供することと言える。
これらの実現を目指すには、まず自社と代理店の持つ情報を統合して顧客を360度で把握し、対面・デジタルを問わない最適なコミュニケーションを実行していかなければならない。そのためには、各基盤と連携した1to1のコミュニケーションHubとデータ・サービス・チャネルを横断する統合されたCXプロセスが必要と言える。
<パーソナライズを実現するマーケティングハブ>
パーソナライズ高度化を実現するためには、営業・マーケティングプロセス全体を通して取り組む必要がある。営業・マーケティングプロセスとしては、まず広告や外部パートナーのチャネルから見込客にリーチして、最初のコンタクトのきっかけを作る。さらに保険会社の情報サイトにアクセスしてもらい理解を深めてもらったり、他者の設計や競合商品と比較したり資料請求してもらう。その上で、ダイレクトチャネルでパーソナルな提案を行って、代理店や営業職員と連携して契約に至る。契約後もライフステージがかわるごとに、保証の再設計支援やリスクを抑えるための健康活動支援などを行う。実際はより複雑なプロセスを伴うことが多いが、これらの一連のプロセスを通して顧客の動きを理解していくことがポイントだ。
これらの業務プロセスの軸、データソースからチャネルまでのデータフローの軸、二つの軸を横串で管理するマーケティングハブの機能が、マーケティングのパーソナライズ高度化のために必要となる。
従来のマーケティングハブがない状態で陥りがちな現象として、各業務プロセスでPDCAが分断されることが挙げられる。例えばデジタルチャネル領域の施策強化のためにMAシステムを導入したのち、MA管理対象のデータやチャネル内でシナリオ策定・実行・それらの改善がほぼ完結し、他のデータソースやチャネルでのリアルタイム情報から独立した状態となりやすい。SFAやCRMなどの他業務でも同様のことが言える。
マーケティングハブがあれば、業務を横断したPDCAを通して各チャネルの施策効果を最大化することができるため、リアルタイムでの顧客の動きに応じたコミュニケーションに繋げることができる。また、日進月歩を遂げているAIなどの技術との連携も容易にし、テクノロジーを各プロセスで最大限活用することができる。
保険業界においては、チャネルの領域でSalesforce等のSFAやAdobe等のデジタルチャネルの導入が進められているが、SASはデータを活用してそれらのチャネルを支援する位置付けであり、アナリティクスによる意思決定を含むパーソナライゼーションハブにあたる。顧客に係るあらゆるデータを活用し、詳細なアクション指示レベルのインサイトを導出し、チャネルのインタラクションに意思を込める部分がSASの強みとする領域である。
営業・マーケティングプロセスの司令塔としての役割を導入することで、業務プロセスやSFAやMAツール横断、さらにリアルタイムAIを活用した総合的なカスタマージャーニーを作ることが可能となる。
顧客行動をトリガーとしてSFAが検知して、マーケティングハブのキャンペーン管理機能に連携する。その情報をもとに、顧客のポテンシャル、関心度などをAIが判断し、最適化されたメッセージを届けるといったことができる。仮に最初のアプローチで顧客の反応がなかった場合でも、その結果を学習して、次は「どのようなメッセージが最適か」を判断し、かわりの提案を行うことも可能だ。SASの基盤はオンプレミスやクラウドの外部システムとの連携が可能であるため、既存のシステムの拡張としてCX強化に取り組むことができる。
<DXを活かした新しい営業モデル>
顧客視点から営業・マーケティングプロセスをみてみたい。まず顧客は何かしらのライフイベントをきっかけに、万が一に備えて保険加入を検討する。
例えば、顧客の結婚、出産のライフステージの変化においては、住所変更、名字の変更、また出産に関する情報を調べていたことなどのイベントが生じる。
これらの行動を検知してAIがポテンシャルスコアを判断し、さらに保険比較サイトにアクセスしたという情報が入ると、顧客はメールやバナーで最適化された情報の案内を受ける。また、商品サイト内の行動から、疑問点がある/判断に迷っている/対人の相談を受けたい/…などの行動が検知されれば、営業店や代理店からフォローがなされる。
さらにこれらの情報を蓄積・継続活用することによって、顧客は今後の人生の節目においてプランの再設計が必要となるタイミングでも、先回りしてパーソナライズされたサポートを受けられる。
欧州保険会社ではハイブリッド型の営業マーケティングを実現している。たとえば、見込み客が住宅に関する保険を選ぶと、「住宅購入」というライフイベントとして検出される。マーケティング基盤が、年齢、家族構成からリスクを予測し、状況に見合った内容の保険を提案する。対人でのアプローチが必要だと判断された場合は代理店にスコアをつけて連携する。これらの仕組みによって、代理店のリード増と収益増に貢献した。
カナダの保険会社では、AlexaとSASが連携し、アドバイザロボットがフルデジタルで契約者へのサポートを行っている。保険加入した顧客が病院を探しているときにアドバイザロボットに相談すると、症状やロケーション・評判に応じた最適な病院の紹介や、保険適用範囲に関する情報提供を受けることができる。AIが対面対応の必要を判断した場合は、情報提供を受けて保険会社の顧客担当者が対応する。また、フルデジタルでのコミュニケーションを通じて、職員では拾えない顧客ニーズや不満を吸い上げることができることも特徴である。これらの取り組みを通じて、NPSが14%向上し、エンゲージメントが平均50%向上している。
欧州の保険会社では、契約後の事故・請求対応においてCX向上に貢献した事例もある。顧客は自動車保険に加入した後に交通事故で自動車が損傷した際、スマホのカメラで破損部分の画像を撮影し必要情報を入力し、保険会社のアプリで保険金の請求手続きを開始する。保険会社は情報を受けて、契約内容や請求履歴確認・不正チェック・画像解析などを行ったうえで最適な対応をAIが判断し、保険会社の顧客対応スタッフをサポートする。自動車事故後で契約者にとって一番ストレスがある状況の中で、アプリの操作だけでネクストベストアクションのアドバイス(保険適用すべきか/修理or廃車すべきか/どの業者で修理すべきか/…)を受けることができる。この仕組みの恩恵を受けたのは契約者だけではない。保険会社側も対人で顧客対応・ネクストベストアクション判断など1つ1つの事故対応していたところを、アプリとAIのサポートによって省力化することができた。
<SASのソリューション>
SASのプラットフォームは、オムニチャネル・1to1マーケティングを統合する司令塔として、既存システムを繋ぎ、それらを最大活用するための機能を有している。
Webの中でのユーザーの動きを把握できるリアルタイムトラッキング、トラッキング情報を元にAIが一人ひとりの顧客に対応するリアルタイム接客、会員セグメントや状況に応じた理由やメッセージと共に最適なプランを導出するアジャイルなシナリオ設計、打った施策がどういう属性の人に効いたのかをスコアリングした結果を確認できるダッシュボード、などの仕組みをシングルプラットフォームで提供している。
また、SASはシステムを提供するのみではなく、それを活用するためのコンサルティングや海外事例のナレッジ提供を通して、ビジネスの取り組みが効果を出すまで支援している。これまでに、サポートを行った多くの企業のKPI向上に貢献している。
本講演をまとめると次のことが言える。CX強化のためには、顧客育成プロセス軸×データソース~チャネルまでのデータフロー軸の2種の軸で、領域横断の取り組みが必要だ。そのためには、統合的なデータ管理・分析・施策管理を行うための「マーケティングハブ」機能を設け、顧客に対して360°全方位の理解・コミュニケーションを組み立てることが求められる。あわせてビジネス担当者が顧客目線でアジャイルの仮説検証型のサイクルを回していけることも重要となる。SASはソフトウェアやそれらのインプリのみではなく、コンサルティングやナレッジ提供などを通じて、各保険会社様の既存の仕組みに応じた形で取り組みをご支援する。
◆講演企業情報
SAS Institute Japan株式会社:https://www.sas.com/ja_jp/home.html