2023年6月22日(木)開催 INSURANCE FORUM「保険業界におけるデジタルトランスフォーメーション最前線」<アフターレポート>


2023年6月22日(木)セミナーインフォ主催INSURANCE FORUM「保険業界におけるデジタルトランスフォーメーション最前線」が開催された。顧客ニーズの多様化やIT技術の進化により、保険業界を取り巻く環境は大きく変化している。顧客の利便性や顧客満足度の向上に向けて、生損保各社のDXはどのように進めるべきなのか。本フォーラムでは、株式会社かんぽ生命保険、東京海上日動火災保険株式会社より自社のDX戦略の狙いや最新事例をご紹介いただくとともに、協賛企業各社より、保険業界の潮流とデジタルトランスフォーメーションの取り組みについて有益な情報をお届けした。

目次

スマートインシュアランスが織りなすインシュアランス5.0の世界

【講演者】
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EY Japan 金融サービス・コンサルティングリーダー/保険コンサルティングセクターリーダー
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー
青木 計憲 氏

<Insurance 5.0のシナリオ>

DXの最前線を見ていきながら、保険業界の5年、10年先にどのような変化が起き、どのような対策を行うべきか論じていきたい。あくまでもEYが現時点で立てた未来予測なので、仮説や推測が多くなるが、先を見るヒントになれば幸いである。COVID-19後の時代を迎え、保険業界は急速に変化する社会・人口動態、テクノロジー、政治・経済の変化を捉えた経営が求められる。

まず、保険会社に与える影響の第一は少子高齢化で、マーケットが縮小する要素である。コロナにより顧客の価値観が変わり、社会貢献する企業を選ぶ傾向になっている。プラットフォームが充実し、スマホが普及しネットのスピードも向上した。オープンバンキングとなった上に、フィンテックでテクノロジーと金融サービスが結びついた。Amazonやネット銀行など、分かりやすいインターフェイスでものをやり取りすることに、高齢者でさえも慣れてきている。それに対して保険会社がCXに追いついているだろうか?かなりギャップがあると言わざるを得ない。様々なアンケートの全業種のCX満足度では金融業界がいつも最下位となり、とりわけ保険業界のスコアが一番低い。保険業界のCXが低い理由は、他業種と違いユーザーとの接触が少ないためでもある。しかし、CXの高いプラットフォームにユーザーが移行する事態を招いているのも事実だ。

テクノロジーの進化が一番大きく、特にここ3、5年で気にしなければならないのが、ChatGPTをはじめとするGenerative AIが、どこまでこれまでの保険のオペレーションや顧客接点にとって替わるかだ。OPEN AIが進んで、これまではコストがかかった異業種との連結も容易に行えるようになり、イネーブラー(支援者)がたくさん出てきて、他業種が保険を扱う可能性が出てくる。例えばTESLAの自動車を購入したら、即TESLAの勧める損保に加入すれば手間いらずになる。顧客がそれに慣れてしまうと、保険代理店で契約するのを面倒に感じるようになる。このようにテクノロジーが進むと、顧客の期待値も上がり、保険会社もそれに対応しなければならない。

法規制の変化に関してはやはりオープンインシュランスだ。2000年代にオープンバンキングがEUで起きたように、オープンインシュアランスの波が起ころうとしている。今後の金融庁と経済産業省の動きによってかわるが、大きなインパクトになるのは間違いない。

EYは、DXとオープンイノベーションが行われた一連の流れを「insurance4.0」とするならば、オープンインシュアランスによるAPIエコノミーの勃興が起こるこれからの流れを「insurance5.0」と定義した。保険会社は顧客が望めばそれまでの顧客情報を隣接する企業に解放する義務がある。

insurance4.0まではあくまでも保険業界の中だけのデジタル化だったが、insurance5.0になると物販のカスタマージャーニーの中に保険の見積や購買のプロセスが組み込まれる。既に組み込み型保険はヨーロッパでは2025年までに3割になると言われている。

Amazonなど顧客接点が高いプラットフォームが保険の窓口売り、保険会社はプラットフォームから指示された保険商品を開発提供するだけのメーカーになるのか?それとも保険会社もCXを向上させ、顧客を握ってオーナーシップをとるのか?ビジネスモデルの変革の只中にいる。2015年頃から「次の破壊は保険業界の内側ではなく外側で起きる」と言われてきたが、いよいよ現実味を帯びるようになった。

短期で起きる可能性が一番高いのはAIによるアンダーライティングである。ChatGPTに関しては、回答の根拠がブラックボックスなので、これをそのまま使っていいのかという議論があるが、AIによる瞬間的査定は可能になるだろう。2番目はCXが高い異業種の顧客の移動だ。異業種と組んで取り組むのか、それとも今まで通りやるのか選択に迫られる。3つ目はWAM(Wellness Asset Management)だ。これからは多くの人が定年を過ぎても資産を持ったまま長生きすることになる。その人達が興味を持つのは、Wellnessと資産運用だ。保険商品は保証する商品から、Wellness系や資産運用系のものにシフトしていかなければならない。競合が銀行となり、組み込み型の資産運用が進展している。

中期で起こるのは先ほど述べたオープンインシュアランスだ。まだ規制ができてないので仮説に過ぎないが、オープンバンキングも実施される前から動いた金融機関がイニシアティブを取っているので、規制ができてから動いていたのでは遅いだろう。さらに保険会社のアルゴリズム化はChatGPTの深層学習によって、「ステージが上がった」と言われている。またスマートインシュアランスによって、今までのブロックチェーンやAIを使った保険の新しい取り組みも進むだろう。どこまで進むか未知数だが、起きる前提で動いていかなければならない。

このような未来に備えて、真っ先に取り組むべきなのは顧客対応だ。異業種の台頭にどう対応していくか戦略を決める必要がある。またAPI戦略を取るのなら、テクノロジーと人材を整えることも不可欠だ。

< Insurance5.0における新しいビジネスモデルの潮流>

コロナ禍以降の保険業界では新たなニーズを持つ顧客ニーズを9つ選定したが、年齢や性別では区切れないセグメントになった。その中でも圧倒的に「組み込み型志向」の人が増えていることが分かる。資産や家族が増えるとともに保険の数が増えてしまった定年を過ぎた高齢者に多く見られるのが、保険を1つにまとめたいという「カスタマイズ志向」である。またデータを提出するので自分に最適な保険を作ってほしいという「データ資本主義者」も増えており、オープンインシュアランスになればさらに顕著になるだろう。保険料とブランドで選択していたのが、パーソナライズ、カスタマイズした保険が求められており、先進の保険会社や異業種は既にこれらに対応している。

EYが行った消費者アンケートによると、オンラインによる加入の可能性は新興国と先進国共に過半数以上となっている。また保険を選ぶ基準に関して、ブランドだけでなく、その企業の社会貢献度も問われるようになってきている。

<保険会社が取り組むべきテーマ>

以上の未来予測を踏まえて、保険会社が今後取り組むべきことをまとめると、第一が、顧客との在り方を見直すこと。第二に異業種を含めたイネーブラーと組んでバリューチェーンのポジションを取る戦略とそれを実行するためのシステムを考えること。第三に収入源を確保する新しいビジネス領域を創出すること。オープンインシュアランスが実現した場合に、保険会社の持つデータや代理店網・営業職員網を活かした新規事業を起こすことも視野に入れていくべきだ。

<Embedded Insurance(組み込み型保険)の台頭>

Embedded Insuranceは2030年には全体の25%になると予測されている。非金融企業の取引の中でものを買ったエンドユーザーをカスタマージャーニーに組み込んで保険を自動的に買えるようにする仕組みだ。保険会社がそれに対応するならば、簡単にメニューに組み込む技術、エンドユーザーが保険会社のアプリで簡単に保険を契約できる技術が必要だ。これを保険会社ができない場合は、イネーブラーに任せることになる。日本の保険会社でもイネーブラーと組んで協業する動きもある。例えばTOYOTAはGRABと協業し、GRABの全車両に対する走行車両連動型自動車保険を提供している。TOYOTAとGRABが顧客と仕組みをコントロールしており、保険会社は言われた保険を提供しているだけである。Zhong Anでは旅行会社、チケット、飛行機、ヘルスケアなどにアリババは保険を提供している。国内でもANAやヤフオク!・ZホールディングスなどがEmbedded Insuranceの事例として挙げられる。

保険会社はレガシーを残しながら、顧客と繋がる新しいプラットフォームを構築する動きがある。

かつてのAIは人間が教えないと成長しなかったが、ChatGPTを代表とするジェネレーティブAIは自分でネットで調べてデータを集め、自分で作れるように進化した。保険業界では、保険金支払いやマーケティング、アンダーライティング、商品開発などに活用できそうだ。各社がどこまで実際に使えるか試行錯誤している段階だろう。世界的な先進企業が注目しており、EYとしても引き続き関心を持っていきたい。

今まではGAFAがWeb上に君臨して、利益も情報も全て中央集権的に支配し、使っている個人には利益はなかった。ブロックチェーン技術を主体としたWeb3.0では、GAFAのような中央集権的な管理者がいない、個人で透明性のある取引ができる仕組みである。海外の保険会社では既にWeb3.0が活用され、保険業務の効率化や信頼性の担保に利用されている。しかし、Web3.0が他社で活用されると保険会社が受けとる保険料が下がることになり課題となる。また地球温暖化や環境変化は無視できない問題ではあるが、直接大きな影響を受けるものではない。ただ取引のペーパーレス化や火災保険の契約時に環境に配慮して取り組む企業にプレミアを与えるなどの配慮も必要になる。

以上、実際に起こると保証はできないが、起こる可能性が高い未来予測を紹介した。参考にしていただけたら幸いだ。

◆講演企業情報
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社:https://www.ey.com/ja_jp/insurance

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