2023年6月22日(木)開催 INSURANCE FORUM「保険業界におけるデジタルトランスフォーメーション最前線」<アフターレポート>


2023年6月22日(木)セミナーインフォ主催INSURANCE FORUM「保険業界におけるデジタルトランスフォーメーション最前線」が開催された。顧客ニーズの多様化やIT技術の進化により、保険業界を取り巻く環境は大きく変化している。顧客の利便性や顧客満足度の向上に向けて、生損保各社のDXはどのように進めるべきなのか。本フォーラムでは、株式会社かんぽ生命保険、東京海上日動火災保険株式会社より自社のDX戦略の狙いや最新事例をご紹介いただくとともに、協賛企業各社より、保険業界の潮流とデジタルトランスフォーメーションの取り組みについて有益な情報をお届けした。

目次

THE保険の先にあるもの
~DXという維新に挑む“しなやかでたくましい会社”東京海上~

特別講演
 
【講演者】
東京海上日動火災保険株式会社
理事 IT企画部 部長
兼 東京海上日動システムズ株式会社
エグゼクティブオフィサー デジタルイノベーション本部長
村野 剛太 氏

<東京海上グループ及び東京海上日動と東京海上日動システムズの紹介>

現在の東京海上グループは既に海外事業の利益が国内より上回っている。同じモデルを横展開するというよりも、むしろリスクが被らないような世界展開を行っている。世界中でバラバラのリスクを引き受ける保険事業で構成されている。1つの国で起こった事態でグループ自体が沈まない形になっている。国内損害保険事業、国内生命保険事業や海外保険事業だけでなく金融一般事業も行っている。

そのうち東京海上日動火災保険(以下、東京海上日動)では損害保険を扱っており、1879年に設立された日本の中で最も古い株式会社の1つで、従業員が17,000名いる。また東京海上日動システムズは1,500人の従業員でグループのITに関するほぼ全てを担っている。

<東京海上日動が目指す姿>

2021年から「お客様や地域社会の“いざ”をお守りするという当社のパーパスを実現し、社会課題の解決に貢献しながら持続的な成長を目指す」という中期経営計画をスタートさせた。

計画の中心に「DXによる価値創造」を打ち出しており、変化する社会課題を解決して、会社自体も成長することを目指している。ではDXとは何なのか?

経済産業省「DX推進ガイドライン」には「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とある。デジタル活用はあくまで手段の一部であって、ビジネスモデルや企業文化や風土を変えるという大きな取り組みだ。私はそこに「維新」という言葉を当てはめてみた。維新とは「全てが改まって、新しくなること」である。代表的な例が大化の改新と明治維新だ。つまり、これまでの常識が全て変わるということである。

<ビジネスの変革>

現代の維新に必要なキーワードは4つあり、まずはABCDのB(ビジネス)から説明する。かつてはビジネスの一部に付随するだけだったITが、だんだんとビジネスの中にITが入り込むようになった。ITなしではビジネスができない時代を経て、現代ではITの上でビジネスがあるように進化した。気がつけば、環境全体がデジタル化され、そこから様々なビジネスが生まれている。まず「ビジネス自体が変わってきている」ことに気がつくことが大前提だ。「ITの中でどうビジネスを成立させるか?」という観点が必要になってくる。こういう状況になって保険会社の活動領域も拡大している。横軸で言えば、「いざというとき」だけではなくて「いつも支える」商品やサービスが生まれている。「いつも支える」商品は従来の保険よりも資本負荷の軽いフィービジネスになるが、広がる範囲は従来の保険の常識を超えてどんどん広がっている。ヘルスケアやモビリティ領域でも、「いかに病気や事故を起こさないか」また起きた場合でも、「事後をいかに早く復旧するか」という領域にビジネスを展開していかなければならない。縦軸で言うとサイバー領域や、中小企業の事業継続など保険の対象領域が広がっている。このように保険会社のビジネス領域はどんどん広がっている。

東京海上日動では従来の保険業務にDXをうまく融合させ、人とデジタルのベストミックスを重視している。さらに商品のDX化も進めている。データやテクノロジーを活用して、今まで困難だったリスクに対しても引受けやソリューション開発を強化していく。

<DXを進めるためのAgile>

こういった変革を行うために必要なのがスピードである。何をやるのかという判断・決定するスピード、またITを使って形にするスピードも必要だ。さらに作ったものが良かったのか悪かったのか結果を早く知るスピードが重要になる。では、最初から結果が分かっていれば、自ずとスピードは早まる。ビジネスの仮説検証のサイクルを速く回転させることでビジネスプロセスを変えられるのではないかと考えている。このビジネス背景を捉えるために出てきた単語がAgileである。東京海上日動では「結果を知るスピード」を重視した開発手法としてアジャイルを取り入れた。

東京海上日動は、外部の専門家と共に経営者も巻き込んで、2019年10月からアジャイルの文化を広める為の活動を始めた。同時に、アジャイルでビジネスを開発するための体制も作った。当初は変革を進めるにしても予算を取得する仕組みが整っていないことが課題だったが、経営レベルから話を進めたこともあり、2022年4月には、イノベーション枠が新設された。何をどの程度やるかがあらかじめ決まっていなくても、アジャイルでビジネスを作ることのできる予算枠が生まれたのである。この枠が生まれたことで、約3~4ヵ月に1つは新案件が進められ、新しいビジネスが生まれてきた。

アジャイル開発を進めるためには、人材の成長・企業文化の変革が不可欠だ。 経営層・ビジネス部門・IT部門全てのステークホルダーに、アジャイル研修を実施した。開発者も2019年に外部の協力会社を含めて50名規模でスタートし、2022年10月時点で400名程度まで増員された。ビジネス部門・DX部門100名が加わりアジャイル開発に従事している。日本中の会社と共創するために21年4月には銀座にイノベーション拠点「G/D Lab」を設立させた。

2019年までは、今考えれば「なんちゃってアジャイル」という形で進めていたが、顧客接点システムで本格的なアジャイルに取り組み、2020年4月からは損保6ラインでのイノベーション枠を開始し、4ヵ月毎に新規開発を行った。その成果を受けて2021年2月からは生保の2ラインのイノベーション枠もスタートする。さらにその2ヵ月後には東京海上ディーアールも3ラインでイノベーション枠が始まった。

素早くかつ容易に行動し方向転換するカルチャーが実現しつつある。アジャイルは2021年からは営業部門のトレーニング、グループ会社に横展開され、さらに役員、ビジネス企画部門など、グループ全体に広がっている。会社全体の風土を変えたとまではまだ断言できないが、DXを行う1つの手段になると考えている。

また、ビジネス部門とシステム開発部門が一体となって開発を進めていく。各チームに外部の専門家にコーチしてもらい、スクラムマスターやデザイナーなど開発部門専門の役割を作り、成長させながらアジャイルを進める体制を構築している。

DXの手段として進めたように見えるアジャイルだが、一方では「しなやか」という意味もある。東京海上日動が目指す姿の中に「しなやかでたくましい会社」と書かれており、実は既に目標の中に掲げられていた。アジャイルが会社の文化になるのは必然だったといえる。

<DXを進めるためのCloud>

DXを進めるにあたってクラウドは不可欠である。クラウドがなければ3ヶ月でプロジェクトを進めることはできないし、世界が繋がっていることを実感できない。SOE=顧客接点、SOR=基幹系、SOI=データ統合/活用の3つを有機的に繋げていく。顧客接点は社内で内製化し、素早く構築して、フィードバックを通じて修正し、ダメなら引っ込めることを繰り返している。

データもクラウド中心で基盤を構築し、外部連携・API・内製など様々な方法で分析・活用する。データは多ければいいというワケではない。必要なデータを必要な形で整理してクラウドに持っていく。クラウドに持っていけば、そこからは社内のリソースと関係なく解析できる。セキュアにすることで外部の専門家も分析に参加できるようになる。最終的には基幹系にもクラウドの考え方を入れていく。クラウドは手段ではなく、もはや環境である。クラウド環境をいかにうまく使いこなすかがDXを進めるポイントになっている。

<DXを進めるためのDataとDigital>

重要なのはデータをとるだけでなく、活用を考えることだ。活用を考えれば、どんなデータを取得するかという観点に変わっていく。データの取得と活用を行う上で大切なのはガバナンス体制だ。データドリブンカルチャーの取り組みのためにできたのが東京海上ディーアールだ。データ、デザイン、デジタルを使って世の中を変えて、新たな価値を提供するために設立された。ディーアールではデータテクノロジーを活用した保険商品「dRIVEN」を展開している。グループ各社から様々な保険商品が生まれている。この取り組みが世の中を変える形になれば幸いだが、マーケットの支持がなければフィードバックを受けて改善を行う、または撤退する、といった形で商品もどんどん変えていきたい。

<DX人材とは>

維新と名づけた理由には2つある。維新ではあらゆることを変えなければならない。誰か一人ができるものではない。西郷隆盛を始め、明治維新に取り組んだ人達はみんな30代だった。DXも一人の英雄ではなく、DXを学んだ若い人達が進めていくことが必要だ。これがDX人材だと考えている。

DX人材を育成するために、プロジェクトリクエスト制度を作った。これは自律的なキャリア形成をサポートする制度で、社内の副業を認める仕組みである。またデータリテラシーを上げるために研修・育成プログラムを作成し、実施している。東京海上日動システムズはグループ全体のITデジタルを戦略のプロフェッショナルとして支えるために、我々から率先して変わっていく。システムズの中でも新たに高度専門職群を定義して、新しい採用を始めている。

以上のような取り組みで、全体ではないにしても、大きなことが変わってきた。今後、成功する施策もあるだろうし、新たなビジネスも生まれるのではないか。講演のタイトルとした「THE保険の先にあるもの」の答えはまだ分からない。ABCDを使いながら、維新の心で進めていけば、必ず結果が出ると信じているし、その準備が整ってきていると考えている。

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