損保ジャパンにおける「AI」と「人」が融合したコンタクトセンターの実現に向けた取組
- 特別講演
【講演者】
- 損害保険ジャパン株式会社
- カスタマーコミュニケーション企画部 企画グループ
- 課長代理
福田 晋太郎 氏
<損保ジャパンと営業系コンタクトセンターの概要>
当社は日本初の火災保険会社として創業し、これまで130年超の歴史の中で、損害保険に関連する商品やサービスを開発し、全国の代理店を通じて提供してきた。現在は、保険に留まらず自動運転事業やシェアリングサービスなども手掛けている。西新宿の本社に併設された美術館では、ゴッホの「ひまわり」を常設展示していることでも知られている。主に2つの業務があり、保険契約関連全般を取り扱う営業部門、保険金をお支払いする保険金サービス部門だ。
営業系コンタクトセンターでは、保険商品に関する問合せ対応、契約変更手続きなどを行っている。全国に5つの拠点があり、BCPの観点で距離的に分散させている。年間の入電数は約125万件だ。ノンボイス化の推進や人口減少等により入電数の推移は徐々に減少しているが、依然として多くの電話を受け付けている。受付内容で多いものは補償内容の問い合わせ、住所変更、解約などだ。
<コンタクトセンターのデジタルシフトの検討経緯>
人材確保難、多様化するお客さまニーズへの対応、業務効率化、応対品質の向上などを背景に、2015年度から導入検討を開始した。当時のスタンスとして、AIを活用してどう無人化するか、どうWEBメニューを増やすかに主眼を置いていた。しかしAIの育成は進まず基幹システム側の改修もできず、無人化は程遠い状態となってしまった。
2020年度から方針転換を図り、デジタル技術によって、よりお客様に「簡単」「便利」を提供し、ヒトによって「感動」「信頼」を価値提供するための業務設計が肝要という発想に至った。コロナ禍を契機にノンボイス化のニーズが加速し、オペレーターはインバウンド業務のみならず、デジタル活用・AIの育成等への「ミッションシフト」が求められている。デジタルとヒトの融合を最適化するスタンスで取り組んだ。
<各デジタル機能>
WEB導線で入ってこられたお客さまに最初に提示するのがビジュアルIVRで、分かりやすくシンプルな選択肢からご用件を選択いただく「WEBメニュー画面」を提供している。最近はスマホから接続する方が大半のため、小さな画面でもわかりやすいシンプルなメニュー構成としている。ビジュアルIVRの導入によって入電が約15%程度減少し、WEB利用者が従来の2倍以上に増加した。
AIチャットボットは、お客さまがWEB上でテキスト入力した質問に対して自動的に返答する機能だ。自然文やあいまい検索が可能で、お客さま側での回答の絞り込みもできる。従来のFAQより検索精度が高く、お客さまに直感的にご利用いただけるのが特徴だ。年間のアクセス数も150万件近くで、それなりの数のお客さまに受け入れられている。入電量削減もさることながら、自己解決促進や営業時間外の対応により、お客様の利便性向上に寄与した。
AIチャットボットで解決しなかった場合、有人チャットで応対を実施する。ボットが出した回答にお客さまが満足しなかったと意思表示をいただくと、オペレーターに接続してチャットでやり取りをすることが可能だ。有人チャットは電話に比べ、同時に複数名のお客さま対応ができる。在宅勤務にも有効で、働き方改革にも繋がる機能だ。
WEB変更手続きフォームは、各種変更手続きのお申し出をWEBで受付するフォームだ。WEB受付後の後続対応が必要な場合、お客さまとLINEチャットにより完結する。従来はオペレーターによる折り返しのアウトバウンドが必要だったケースもオンラインで完結し、応対時間の短縮、営業時間外カバーといった利点がある。
<ボイスボットの導入状況>
当社には依然として多くの電話問い合わせがあり、オペレーターの安定稼働がボトルネックとなっていた。これを解消するためAIを搭載したボイスボットの本格導入に至った。2020年4月に比較的小規模な自賠責保険の手続き窓口で導入し、以降は順調に稼働している。2021年4月より主力商品である自動車・火災保険の大規模手続き窓口での導入を開始し、現在は月1万件超をボイスボットで受電している。導入製品は伊藤忠テクノソリューションズ様が提供する「CTC-AICON」で、カスタマイズで開発した。
お客さまがご希望の手続きをプッシュ選択すると、AI(自動音声)がご用件をヒアリングする。自動対応が可能な場合はボイスボットでそのまま必要な情報を確認し、受付完了となる。ヒトによる対応が適切な場合はオペレーターに転送する。オペレーターが即座にバックアップ対応できる体制となっているのが特徴だ。
<ボイスボットの運用フロー・状況>
定型的なヒアリングで受付可能な各種手続きで、自動受付を実施している。具体的には「解約」「証券再発行」「住所・電話番号変更」「口座・クレカ変更」等だ。
自動車保険の手続きデスクにおいて、ボイスボット入電量100件とした場合、40件はオペレーターに振り分けられる。60件はAIボットに振り分けられ、そのうち10件はオペレーターに途中転送され、50件は自動完了している状況だ。AIに振り分けられた要件の約80%は自動受付完了する。オペレーターに途中転送された入電についても、オペレーターの確認項目が削減されるなど、業務効率化に寄与している。
<ボイスボットに対するお客さまの反応>
自動受付したお客さまに対して実施したアンケート結果によると、音声のスピードや分かりやすさについて、ほとんどの方に許容いただいている。フリーコメントでは主に利便性について高い評価をいただいている一方、「受付されたか不安」「質問ができない」などの不満の声もいただいた。こういった声に対してガイダンスの改善等でしのぐと同時に、AIボットについてのお客様のリテラシーや信頼性を高めていくことが、今後の普及の鍵になると思われる。
<ボイスボットの開発スケジュール>
自動車・火災保険の窓口での開発は、2020年8月から着手し、業務要件定義やシステム設計・開発を行った。稼働直前のテストを挟み、2021年4月にスモールスタートでトライアル展開し、チューニングなども行いながら本格稼働に至った。開発に約7カ月程度かかり、チューニングなども含めて本格稼働までは約10カ月だ。当社はシステムを作り込んだため、それなりの時間を要した。
業務要件定義やチューニングでは、オペレーターが検討に参画するなど、現場の知見を活用したのも大きなポイントだ。お客さまの動向を最も熟知しているオペレーターのサポートは貴重で、お客さま・現場の双方にとって使い勝手の良いシステムにするために不可欠だ。また、機能改善(AI育成を含む)にあたって、改善サイクルのルール化も重要となる。
<ボイスボットが目指すサービス像>
ボイスボットの効果として、呼量削減による「接続品質の向上」や、自動化による「電話応対負荷の軽減」「後処理負荷の軽減」などが挙げられ、同機能に着信増加させることで、さらなる効果出現が期待できる。目指すサービス像は、AIは簡易業務に集中して「簡単・便利」を提供し、ヒトは付加価値の高いサービスにシフトすることだ。デジタルの便利さとヒトによる感動・信頼を掛け合わせることで、さらにCXが高まる。
当社ではボイスボットの他、「WEB受付」「チャットボット」等のデジタル機能の稼働率を高めることで、将来的に全コールのうち約半分の自動解決を目標に掲げている。今後、オペレーターは受電業務からの「ミッションシフト」を図り、「ヒト」と「デジタル」が効果的に融合したサービスを提供することで、さらなるCX向上を実現させていく。