- 「三菱UFJ銀行におけるデータ利活用推進活動について」
株式会社三菱UFJ銀行 桑島 透 氏 - 「データ活用で金融機関を変える!キーエンス流データ活用術」
株式会社キーエンス 水上 拓也 氏/齋藤 亜蘭 氏/柘植 朋紘 氏 - 「データ分析と製造業ノウハウを活用した新ビジネスへの取り組み」
アルテアエンジニアリング株式会社 片山 健太郎 氏 - 「顧客中心のサービス改善と届け方~金融業界でデータと人を起点にCX(顧客体験)向上のためにできること~」
株式会社プレイド 金田 拓也 氏 - 「DXプロジェクトにおけるデータ連携ノウハウ」
株式会社セゾン情報システムズ 石田 誠司 氏 - 「りそなホールディングスにおけるデータマーケティングの取組みおよび今後のビジネス展望」
株式会社りそなホールディングス 後藤 一朗 氏
「三菱UFJ銀行におけるデータ利活用推進活動について」
- 基調講演
【講演者】 - 株式会社三菱UFJ銀行
経営企画部 経営基盤改革室
調査役
桑島 透 氏
<新システムOCEANのご紹介>
当社にも従来から多数の情報系システムがあったがアーキテクチャが古いままであった。そのためデータの利活用に関して、保管が困難、取得の負担大、分析の負担大といった課題があった。2017年からDX推進について盛んに言及されるようになり、当社も中期経営計画の柱の1つにDXが据えられた。
AIやビッグデータを活用する施策を実現するには、多様かつ大量のデータを使いこなす必要があるが、従来の情報系システムでは対応が難しい。そこで社内のデータをまとめて蓄積し、利活用しやすいようにするための共通のシステムである「OCEAN」の構築に着手し、2019年に稼働を始めた。OCEANはまず社内の情報ソースからデータを取集し、データレイクとして蓄積する。またデータウェアハウスに加工したデータを格納し、BIツールで参照することも可能にしている。
<デジタルレポート施策の立ち上げに向けたアプローチ>
銀行の保有するデータ量は莫大で、集計するのにも手間がかかる。それまで各種レポートは、Excelでの手作業やファイルのやり取りによって作成され、現場で大きな負荷が生じていた。これに対してOCEANによってデータを整形し、分析用データベースの統合版を作成することで、分析作業の早期着手やデータ管理負荷削減が可能となる。さらにBIツールのダッシュボードを構築することで、データ分析・活用の加速および強化、意思決定・アクションの高度化、業務改革の深まりや好事例の横展開などが期待できる。このような意図を持ち、「デジタルレポート施策」として推進することとなった。
デジタルレポート施策については、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチを採用した。トップダウンでは頭取や持株の社長も含めた経営層に対し、実際のデータやBIツールの画面を使ったデモを見せ、OCEANの有効性を訴えた。デモの事例をいくつか挙げると、まず来店客数の増減傾向では、東京・大阪といった地域ごとの増減傾向の違いを、たった30秒の操作で可視化できた。当社を含むメガバンク3行の決算内容を時系列に比較するグラフは、すでに公表されているデータではあるが、多用な見せ方・魅せ方ができ、新たな洞察が得られることを示した。法人の当座預金・普通預金の入金明細から売上高を推定して業種別に集計したグラフにより、業種別の収益状況を可視化することができた。業種をさらにドリルダウンしたり、月別データに展開したりすることも可能だ。たとえば旅行業や映画館などコロナの影響を大きく受けた業種が、その後どれだけ取り戻すことができたのか、推計値で把握できる。
ボトムアップに関しては、日頃から大量のデータを扱う部署をピックアップし、共同で業務を効率化する提案を当部から持ち掛けた。従来こういった状況ではインフラを貸して操作方法を説明する程度であった。しかし今回は具体的な業務内容にまで踏み込んで、当部でBIツールを使って分析し、どの程度の作業時間の削減が見込めるのかまで明らかにした。この取り組みが各部署の共感を得ることに繋がった。このようなトップダウン・ボトムアップ両方のアプローチにより、OCEANのデジタルレポート施策が経営上重要な施策であると認められた。
<アウトプットの例>
多数のレポートがBIツールによって効率化された。その中でも単に効率化しただけでなく、新しい付加価値の付与に成功した事例を中心にいくつかご紹介する。1つ目は法人のお客様の情報を一元化するダッシュボードだ。従来は商品別にバラバラだった情報を一画面で把握可能にした。担当者の作業時間を削減し、より前向きな営業活動に専念する時間を確保できるようになった。
2つ目は製造業のサプライヤー分析だ。製造業は多段階の下請け構造があり、完成品メーカーから見ると、直接の委託先の状況は分かるが二次・三次の委託先については分からない状況だった。そこで振込明細から委託関係を推測し、製造業から製造業への入出金をピックアップした。商流の流れをデータ化し、部品のカテゴリー別に集計したものだ。このレポートにより、完成品メーカーを起点とした部品ごとのメーカーの信用状況が上向きなのか下向きなのかを把握できるようになった。
3つ目はごく最近できたもので、ロシア・ウクライナ等との外為取引の状況だ。当社のお客様でも現地法人を持っていたり、取引に関わっていたりしている会社が多数あり、ロシアのウクライナ侵攻は最大の関心事である。外国送金データなど関連する取引を集計し、全体像をすぐ把握できるようにするために作成したダッシュボードだ。このダッシュボードは侵攻から2週間足らずでリリースし、当社のスピード感もかなり上がっている。
デジタルレポート施策は社内でも認められており、結果として私の所属部署の立ち位置も変わった。3月までは経営情報統括部という専門部署の一つに位置づけられていたが、4月からは会社の中枢である経営企画部の中の経営基盤改革室へと組織改編された。会社全体としてデータの利活用を推進するという強い意志が表れている。
<デジタルレポート施策の成功要因>
最初に、どんな会社にも有効な「銀の弾丸」はなく、あくまで当社の事例であることをお断りしておく。その上で成功要因を挙げると、まず先ほども触れた、トップダウンとボトムアップの両面作戦だ。部署一丸となって双方に働きかけることで、全社的な重要施策として認知される。
2つ目はクラウド技術の活用で、OCEANはクラウド上に構築している。スケールアップ・スケールアウトが容易なのもメリットだが、それ以上にビッグデータ規模のデータに対応していることのメリットが大きい。20億件のデータをコピーするなど、やや荒い使い方をしても数十秒で結果が返ってくる。この性能のおかげで試行錯誤が気楽にでき、新しいことにどんどんチャレンジできるようになった。
3つ目はセルフサービス化で、従来のエンタープライズ型のBIツールよりも、利用部署の自由度が上がる。求められるスキルも高まるが、データリテラシーの向上やデータスキルを持つ人材の育成につながり、更なる利活用を生み出す好循環になる。
4つ目はアジャイル開発とユーザーの巻き込みだ。OCEANには、業務部門自らが簡単な開発ができる機能を付けてあり、これが現場のメンバーを巻き込むのに成功したと考えている。エンドユーザーと対話して可能な範囲でプロトタイプを作成し、プロトタイプを見せることで更なる具体的な要件を引き出す。短いサイクルで繰り返すことで、短期間で満足度の高い成果物を作成できる。
5つ目は実物を使ったデモで、実際にアプリが動くところをLIVEで見せることでインパクトが増す。また業務で使っている本物のデータを使うことで、ユーザーの興味関心を引くことも重要だ。
<今後の展望>
適用業務の拡大に関して、カーボンニュートラルを検討している。サプライヤー分析を使い、二次・三次の委託先も含めた全体の排出量を把握したい。利用データの拡大については、名刺のデータを取り込み、他のデータと組み合わせることでより効率的な提案に繋げる。利用ユーザーの拡大では、各営業店や海外拠点にまで拡大していきたい。
BIツールを徹底活用することにより、全社的なデータリテラシーを向上させたい。その次の段階はデータ利活用の深化であり、AIや機械学習など先端的な技術の活用を深められると考えている。