- SMBCグループにおけるAI・データ利活用の取り組み
株式会社三井住友銀行 前田 寿満 氏 - 新時代のカスタマー36Oを作るデータ分析
株式会社セールスフォース・ジャパン 嶋 ピーター 氏 - 与信プロセスの高度化
金融サービスを取り巻く状況と主要トピック
SAS Institute Japan株式会社 奈良原 洋一 氏 - データ活用で考える顧客体験(CX)の事業価値
~米国銀行事例に見る、10年先を生き抜くデジタル戦略~
Pendo.io Japan株式会社 吉田 進之介 氏 - ひろぎんグループのDX/デジタル戦略
~データ利活用の高度化を中心に~
株式会社ひろぎんホールディングス 大江 拓真 氏
SMBCグループにおけるAI・データ利活用の取り組み
- 基調講演
【講演者】
- 株式会社三井住友銀行
- データマネジメント部
- シニアデータサイエンティスト
前田 寿満 氏
<SMBCグループにおけるデータ利活用領域>
SMBCグループでのデータ利活用領域は幅広い。マーケティングや営業プロセスの高度化に加え、近年では非金融の領域もカバーし、データの利活用の幅を広げている。データの適切な整備や活用の重要性が高まったことから、2016年に設立されたのがSMFG/BC データマネジメント部だ。
データマネジメント部では、①データ起点のビジネス課題を発見するところからはじまり、②データ分析案件の企画立案をサポート、③課題を解決するためのデータ分析を経て、④効果検証や導入支援に取り組んでいる。
①~④までの一連のプロセスを行内および各グループ会社と協働して推進している。
<SMFG/BC データマネジメント部の4つのミッション>
SMFG/BC データマネジメント部は、グループベースの経営管理高度化に向けたデータの整備やデータ利活用推進を担い、次の4つのミッションに取り組んでいる。
■データ利活用
データに基づいた経営課題の発見と要因把握、AIや機械学習を活用したデータ分析による業務効率化・高度化
■システム企画
適切にデータが蓄積・整備されるように、データの利活用を見据えたシステム企画
■データガバナンス
データ分析に必要なデータを安心して使えるようにするため、データ整備の戦略を策定、データ品質の維持管理
■データ人材育成
グループ全体のデータ分析人材を育成するために、各々のデータ分析スキルに合わせた研修の企画運営
<金融領域におけるデータの利活用事例>
SMBCグループが取り組んできたデータの利活用事例をいくつか紹介する。
●顧客データを活用した法人営業の効率化
財務データや企業情報等の属性データ、入出金を初めとした取引データ、さらに契約情報をまとめて分析することにより、お客さまの状況に応じて、営業担当者向けのレコメンドをタイムリーに配信。分析結果はダッシュボードで確認することもできるため、より実態に即した効率的な営業活動の推進を行うことができる。
●可視化ツールTableauを活用した経営管理の高度化
各部署から収集・分析した行内データは、Tableauダッシュボードで可視化。ドリルダウン機能を活用することで、より細かい状況まで確認が可能になる。複数の領域にまたがる内容を一つのダッシュボードにまとめることで、これまで部門単位の報告になっていた項目を一度に把握することが可能に。表示されるデータの鮮度を高めることで、タイムリーな状況把握が可能となり、データドリブンな経営につながっている。
●Tableauを活用した営業推進施策
Tableauを活用すると、行内データのみならず外部データも集約し、可視化できる。その結果、情報収集および近隣のマーケット情報を把握するところから、お客さまへの提案資料を作成するところまで一貫して取り組めるようになった。これまで取引がなかったお客さまに対しても効率的なアプローチが可能となっている。
●グループ・グローバルベースでの計数管理高度化
グローバルベースでのデータ整備も進めている。これまで、地域によってお客さまの案件の管理内容や粒度にばらつきがあり、グローバルにビジネスを展開しているお客さまや、各地域のグループ会社の計数を把握するのは負担が大きい状況だった。
データを一元集約することにより、お客さまの情報・状況の把握が容易になり、ビジネスライン別の採算管理の高度化にもつながっている。
また、グループ共通の会計システムを導入し、グループ会社毎に異なっていた事務手続きを集約、データも合わせてシステムで一元管理する取り組みを促進。どの仕入れ先から何をいくらで購入しているのか等をグループベースで分析できるプラットフォームを導入することにより、将来的なコスト削減施策への活用も展望。
●先端技術の業務への適用
2023年4月に、生成系AI、いわゆるGPTモデルの業務適用に向けた実証実験を開始。SMBCグループの専用領域にGPTエンジンを導入することで、情報漏えいのリスクの低減を図っている。
現在は、社内規程や手続き等の検索の高速化や文章の作成、情報収集の支援などへの活用を検討。今後、社内の情報をモデルと効率的に組み合わせることで、特定の業務への応用も視野に入れている。AIのリスクやセキュリティにも十分考慮して、先端技術の業務への活用に積極的に取り組む予定だ。
<非金融領域におけるデータ利活用事例>
非金融領域においても、データの利活用事例が増えている。
●サステナブルビジネス
SMBCでは社会的価値の最大化に向けて、CO2排出量を算定して可視化するクラウドサービス 「Sustana」などのサステナブルビジネスを推進。
将来的には、Sustanaから得られるデータを分析して、CO2排出量削減のための施策をレコメンドする機能を追加したり、トランジションのためのファイナンス支援、お客さまのサプライチェーン全体に関する支援なども視野に入れている。
●情報銀行の取り組み
SMBCグループはプラスメディ社と共同で情報銀行(医療データ)の取り組みを促進。
情報銀行とは、個人との契約に基づき、個人のためにパーソナルデータを管理して利活用する取り組み。例えば、情報銀行(医療データ)のアカウントを開設した個人のお客さまが医療機関を受診すると、本人の同意に基づいて、電子カルテの情報がアカウントに連携され、自身の医療データの閲覧管理ができる。
2022年12月には、お客さまの医療データ管理と医療機関の業務効率化を支援するアプリ「wellcne」をリリース。SMBCグループの強みであるセキュリティと決済機能を生かし、お客さまと医療機関の両方にメリットのあるサービスの展開を図っている。
●データ分析支援サービス(三井住友カード・Custella)
三井住友カードのキャッシュレスデータを収集し、お客さまの属性や購買実績等をもとに分析・可視化を実施。分析した結果をもとに、様々なソリューションを提供し、企業マーケティングを支援する「Custella Promotion」を展開。お客さまが抱える課題の可視化や、課題解決のための提案につなげている。
<データ人材育成施策>
SMBCではデータ利活用人材を、「データリテラシー」、「ビジネスデータプランナー」、「データサイエンティスト」の3区分に分け、各区分に応じた様々な育成施策を実施している。
●データ利活用人材の育成方針
「データリテラシー」の区分は、全従業員を対象に基礎的なデータ利活用が行えるようにすることを目的にしている。仮説検証の考え方や、エクセルレベルの基礎スキルの習得などを目指す。
「ビジネスデータプランナー」の区分は、業務や商品企画部署の従業員を対象に、データ分析の基本スキルを習得し、データ利活用によるビジネス企画の推進を目指している。ビジネスデータプランナーは、企画系の人材とデータサイエンティストの橋渡しを行う人材として、全社的なデータ利活用の成功の鍵となるだけに、育成には力を入れている。
「データサイエンティスト」の区分は、当部をはじめとしたデータ利活用の専門部署に属する社員を対象にしており、高度なデータ分析のスキルを活かした業務高度化や付加価値の創出を期待している。
人材確保の施策として、新卒採用におけるデータサイエンティストコースを新設した他、キャリア採用も強化する等、積極的に人材確保に取り組んでいる。他にもデータ分析スキルの高い人材の発掘やグループ従業員全体の意識醸成を目的としたグループ横断の分析コンテストも開催している。
「D-1グランプリ」と名付けたデータ分析コンテストは、共通のテーマに対して分析の精度を競うコンペティションであり、これまでに3回開催している。未経験者でも参加しやすいように事前学習のコンテンツを用意しており、2022年度に参加した500人弱の約半数は未経験者。コンテスト期間中は参加者同士のコミュニティが設けられ、情報を共有することで参加者全体のデータサイエンス力の向上につなげている。
<すべての従業員のデータリテラシー向上のために>
財務には表れないデータも、企業にとっては貴重な資源になり得る。SMBCとしては、データ資源を徹底的に活用することで、社会的・経済的価値を創造していきたいと考えている。一方、経営基盤を強化していくためには、守りのためのデータガバナンスも同時に求められるだろう。
この実現には、全従業員のデータリテラシーを向上させ、会社全体でデータドリブンにビジネスを進めていく姿勢が重要だ。そのために意識や文化の醸成に取り組んでいく。