国内保険会社が次々と高度化に着手するプランニング業務とは

【講演者】
Anaplanジャパン株式会社
リージョナルバイスプレジデント
須釜 進司 氏

プランニング業務のPDCA

プランニング業務は「内外環境変化に応じた機動的な対応が必要であり可変性が非常に高い」「人の意思が介在する」「部署・担当者をまたいで調整が連鎖していく」という特性があり、従来はシステム化が難しかった領域だ。

プランニング業務の内容をひもとくと「計画策定・目標設定」「予実管理」「見込み・シミュレーション」「計画修正」の4つの段階がある。

1段階目の「計画策定・目標設定」は年度が始まる前や中期計画の策定期間など、計画を立てる段階。2段階目の「予実管理」は、計画と実績の差異の把握やその原因を分析する段階。3段階目の「見込み・シミュレーション」は外部環境の変化などを踏まえて、将来の着地がどうなるのか予測を立てる段階。その結果に応じて、4段階目の「計画の修正」を機動的に実施する必要性がある。

高度化のニーズが高まるプランニング業務

保険会社をはじめ金融機関各社において、自然災害リスクや為替・金利変動リスクなどのリスク要因の変化や、カーボンニュートラル、生産労働人口の減少、人的資本経営といった社会課題対応の必要性などを受けて、プランニング業務の高度化のニーズが急速に高まっている。

プランニング業務を煩雑にする一因が「エクセルのバケツリレー」だ。業務と業務の間、担当者間のやりとりにExcelファイルが介在することで、極めて煩雑な作業に時間が費されている。データと業務プロセスが連動しづらいことから、各組織間で分断が起きてしまいやすい。

一つのプラットフォーム上でプランニング業務プロセスを可視化しながらデータが連携できれば、部門ごとに作成したデータも活用しやすくなる。それまで煩雑な作業に追われていた企画担当者の時間を、分析や周囲とのディスカッションなどの有意義な作業に費やせるようになるので、より高付加価値の業務にシフトしていくことができるだろう。

プランニング業務を高度化することで得られるものは多い。まず計画や目標を立てる期間が短縮されることで、直近の状況を踏まえて計画を策定できるようになる。期中の予実管理段階では、粒度の細かいデータを活用することで現場実態を正しく把握し、精度の高い見込を迅速に報告することで、解像度・確信度の高い経営判断を行うことができる。その結果、対策の立案や実行のスピードも早めることができる。

環境の変化が起こったときは、計画の見直しや修正など機動的な対応が必要だ。そのためには、現場で何が行われているのか、見込みはどうなのかに関するリアルタイムのデータの把握が必要だ。プランニング業務を高度化しておけば、PDCAが回りやすくなる。

副次的な効果としてセキュリティレベルが向上する。Excelでファイルを管理し、メールに添付して送る体制では情報管理が甘くなる。誤った担当者に秘匿性の高い情報を送ってしまう人的ミスが発生する可能性は否定できず、外部への流出リスクも高まる。さらにバージョン管理が難しいため、誰がどのデータを修正したのか、見える化することも難しい。プランニング業務の高度化により、こうした懸念は解消される。

そして一番のメリットは、企業文化を変革し、企業価値を向上できることだ。コミュニケーションコストを削減することで担当者・部署間のコラボレーションを加速し、企画担当者の業務を将来展望のディスカッションなど付加価値の高い業務にシフトさせることで従業員満足度は向上する。顧客や外部への対応スピードも上がり、新サービスの提供や軌道修正に尽力できるようになって顧客満足度も相乗的に上がることから、イノベーションを育む企業文化に変革し、企業価値が高まっていくことも期待できる。

Anaplanを活用したコネクテッドプランニング

Anaplanは、あらゆるプランニング業務を幅広くサポートするプラットフォームソリューションだ。プランニングに必要な機能が備わっているだけでなく、ゼロベースから個社に見合った業務をフルカスタマイズして組み上げられるのが特徴だ。企業の各部門で発生するプランニング業務を一つ一つアジャイルで作り上げ、それらを連携して活用する「コネクテッドプランニング」を提唱している。

Anaplanの根幹を成す技術は特許を取得した「Hyperblock Technology」だ。多次元のデータベース(OLAP)と構造化クエリを、Excel関数のようにノーコードで扱える柔軟性と汎用性を兼ね備えた技術を用いており、データが入力されると関係する箇所のみがリアルタイムに計算される。

既存の業務システムや基幹システム内に蓄積されている実績データをAnaplanと連携・活用しながらプランニング業務を進めるというイメージだ。

保険会社におけるプランニング業務高度化の事例・検討課題

保険業界にも、プランニング業務の高度化の波が広がっている。一例として、Anaplanに寄せられた相談から、自然災害に対するリスク量を適時把握し、シミュレーションしたいというニーズを持つ損害保険会社の事例を紹介する。

グローバルに事業を展開する会社なので、年に1度は各拠点から集めたデータをExcelにまとめて集計し、シミュレーションする作業を実施していた。そのデータ数は膨大で数十万件に及ぶため、Excelへの負荷は大きく、データを新たに1行追加して再計算するだけでも数分かかるなど、処理スピードはあきらかに低下していた。当然ながらバージョン管理や時系列管理がしづらく、データの取り回しができないという課題を抱えていた。

Anaplanで処理するようになった後は、各国からの報告データは集計する際に自動的に構造化されて蓄積されるため、地域、顧客、商品サービスのタイプなど、さまざまな角度から多次元多軸の分析ができるようになった。為替など、新たな変数を与えた際も、リアルタイムなシミュレーションを実施できるなど業務の高度化を果たした。

グローバルの自然災害リスク量がどういう形で存在するかは投資家にとって興味深い情報となるため、多軸の分析を行ったり、分析のサイクルを短くしたりできることの価値は大きい。

業務負荷の高いExcelデータをAnaplanに置き換えた結果、統合リスク量の計測や将来のキャッシュフローの計算、ESR(経済価値ベースのソルベンシーレシオ)計測が飛躍的に高度化した事例もある。それらのデータは事業計画や予算案の作成などに活用を拡げている。

社費や事業費管理のデータ処理に遅れが出ると、経費の妥当性を検証する時間などが削られ、他の政策に再分配できるはずの予算が余るなど、予算効率が悪くなる。

自動化できるところを自動化しながら、現場との対話を増やせば、メリハリのある予算が策定できるようになる。どうすれば間接コストを抑えられるのかを検討する際も、配賦するコストを可視化し、トレーサビリティを担保できれば、現場の事業部門のコスト意識が醸成され、合理的かつ実行可能なコスト削減案を立案することができるだろう。

スモールスタートからグループ展開へ

企業内には全社的な経営企画から、営業、人事、経理、総務、システムなど、さまざまな部門があり、それぞれが所管するプランニング業務が行われている。それらのデータ・業務プロセスを連携し、結果的に事業の成長に資するのかどうかを判断しながら、人・モノ・カネのリソースを配分していくことが理想だ。

Anaplanが提唱するコネクテッドプランニングでは、複数部門をまたいで業務プロセスとデータをコネクトできるという強みがある。ただし、1足飛びに企業内全てのプランニング業務の高度化に着手するよりも、特定領域からスモールスタートするアプローチを推奨している。前例実績をつくったところで関連する部門を巻き込みながら連携を広げて、やがては社内全部門に展開させていく構想を持ち、着手を始めた企業が国内でも複数出てきている。

最終的にはグループ全体でのプランニング業務高度化を図りグループガバナンス強化を進めたいところだが、各事業会社の事業内容やビジネスモデルは異なるため、画一的なテンプレートに当てはめることは難しい。Anaplanでは各個社別にプランニングの基盤を構築・運用できるので、個社の事業の特性に合わせながらプランニングを高度化していくことができる。それも、Anaplanの大きな特徴だ。

プランニング業務の高度化により得られるメリットは幅広く、特にコラボレーションの加速と意思決定スピードの向上により企業文化の変革をもたらし、イノベーションを促進することに寄与すると確信している。

◆講演企業情報
Anaplanジャパン株式会社:https://jp.anaplan.com/industries/insurance/