保険業界におけるインテリジェントオートメーション・生成AIによる顧客接点業務の改革

【講演者】
Blue Prism 株式会社
製品戦略本部長
柏原 伸次郎 氏

日本における自動化ソリューションの課題と対策

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)がまとめた「DX白書2023」によれば、日本においてDXに取り組んでいる割合は全体の60%を超え、うち60%弱が成果を上げている。しかし、米国と比較すると大きな違いが見えてくる。米国では、実に8割もの企業がDXに取り組み、うち9割の企業が成果を出している。日本も大きな労力を費やして取り組みを進めているのにも関わらず、この差はどこから生じるのだろうか。

米国では、個人顧客の機密情報に関わるような、セキュリティの厳しい重要業務の範囲にもRPAを積極的に活用し、広範囲の業務自動化を実現させているが、日本では導入されているRPAの多くはデスクトップ型で、手軽に自動化を始められる反面、重要業務では使われず、限られた特定業務内で利用しがちだ。このことが成果の大きな差となって表れているのだろう。

重要業務の自動化を妨げる要因

重要業務でのRPA利用を敬遠しがちな理由は「停止や誤作動・不正のリスク」にある。日本で主流のデスクトップ型RPAは、パソコンの中でロボットが動くため、どのようなプロセスを実行したのか正確な情報が外からでは把握しづらい。IT部門や業務監督者によるセキュリティの徹底ができないため、不正や停止のリスクを許容できる業務にしか適用できないのだ。

一方、先進的な自動化を展開している企業はサーバー型のRPAを導入。IT部門が管理しているサーバー上でロボットが動くので、統制やセキュリティを完全にコントロールできる。全てのプロセス、全ての稼働状況、全ての実行結果は記録が残るので、動作状況を正確に把握できることから、重要業務にも適用することができる仕組みだ。

「メンテナンスコスト」の面でも課題がある。デスクトップ型RPAでは、パソコン内に自動処理の内容が定義されているため、修正が必要になった際には、個々に設定を変更していくことになる。台数が増えれば大きな負担になりかねない。

オブジェクト指向型のRPAであれば、元になっている箇所を直すだけで、参照している全てのプロセスに対して自動的に反映させられ、サーバー上で何か問題が起きた際はリモートで対処できる。デスクトップ型の制限がネックとなってRPAの適用範囲を拡大できないのであれば、見直しを検討してみるのもいいかもしれない。

顧客接点業務を変革するインテリジェントオートメーション

「DX白書2023」によれば、AIという新しいテクノロジーを導入する目的も、日米の回答は大きく異なる。日本が主に生産性の向上やヒューマンエラーの低減、品質の向上を目的としているのに対し、米国は集客効果の向上、既存製品の高度化・付加価値向上、新製品の創出、新サービスの創出などの一段階上のステージに歩を進めている。こうした方針の違いも、DX推進に影響を及ぼしている。

日本でも付加価値向上や新サービス創出を促すためには、一歩進んだ視点が必要になるだろう。例えば、高度な顧客対応、新しい顧客対応チャネル、集客・マーケティング領域でRPAツールを用いて、自動化を図ることはできないだろうか。RPAだけでは臨機応変な対応が求められる顧客対応は難しい。そこで提案したいのが、RPAとビジネスプロセスマネジメント(BPM)を組み合わせた、新しいチャネルでの顧客対応だ。

顧客からの問い合わせをシステムで受け、BPMが処理を定義しRPAが動かすという流れを作り出せば、RPAを介して自動的に対応を返すことが可能になり、付加価値の高い顧客対応ができる。この流れが「Intelligent Automation(インテリジェントオートメーション)」という言葉で、米国で取り入れられている考え方だ。

SS&C Blue Prismでは、これまで自動化ソリューションをたくさん世に出してきたが、今後はオペレーションを統合していく仕組みの必要性を感じている。今後出していく製品は、RPAと組み合わせることを前提としたツールになる。BPMは「コーラス(Chorus)」という製品で、顧客との接点となるインタフェースは「UXビルダ(UX Builder)」だ。

顧客対応のためのインタフェース作成ツール - UX Builder

UXビルダは、いわゆるローコード/ノーコードで顧客からの問い合わせフォームを自由に作れるインタフェース作成ツールだ。BPMとRPAの仕組みが結合したツールだと考えると分かりやすいだろう。

顧客からの問い合わせはUXビルダで受け付け、内容に応じてBPMやRPAを動かせれば、結果を即時にフィードバックできる。米国ですでにリリースされているBPM製品(コーラス)は、金融業界を中心に好評で、グローバルトップ25の金融機関のうち24社、保険業界でも25社中18社が導入を果たしている。日本へ進出した際は、この分野はかなり注目されるのではないかとにらんでいる。

生成AIによって加速するオートメーションの未来

インテリジェントオートメーションの将来展望として、生成AIとの組み合わせでどのような使い方が可能なのかを考えてみる。

生成AIはテキストや画像、音声などのコンテンツを自動作成できる革新的なAIツールだが、2023年5月にNRIが実施した「AIの導入に関するアンケート」調査によれば、職場で生成AIを導入している企業は3%のみ。トライアル中や検討中を含めても20%弱に過ぎない。今は個人完結型業務での利用が主流で、業務での本格利用には至っていないようだが、今後の活用が期待されているツールなだけに、一連の業務プロセスの中で使うことを検討する動きも出てくるだろう。

例えば、社内Knowledgeへの問い合わせの事例を考えてみよう。新入社員がシステムにログインしようとしたがエラーが出て入ることができない。このようなときには自然な言語でトラブルの状況を入力して生成AIに流すと、文章が構造化される。このデータを元にRPAが社内の様々なシステムから情報を検索し、生成AIがそれらの情報をもとに適切な解決策を生成、そしてRPAに必要なアクションを自動実行させたりできる。RPAを組み合わせるからこそ、コンテンツナレッジを表示して終わりではなく、ナレッジに基づいてその後の処理が自動実行されていく仕組みを構築できるのだ。

さまざまなシステムからリアルタイムの情報を抽出して提供できるRPAと組み合わせることで、顧客からの問い合わせに対して生成AIがコミュニケーションしながら対応する体制も構築できる。直接回答できないような問い合わせであれば、さまざまな社内システムから入手した情報を基にコンテンツを作って回答できる。

インテリジェントオートメーションの併用により生成AIのリスクを低減

生成AIをビジネス活用するためには、解決しなければならない課題もある。自分の業務負荷を多少軽減させるような小規模な使い方なら問題はないが、大規模に生成AIを使おうとするとトランザクション量が増えてしまうのだ。生成AIから出てきた情報に基づいて業務処理をするのであれば、前提として生成AIに的確な情報を提供する必要があり、そのためのデータの用意、アウトプットされた成果物の正誤チェックなど、人間が行う定型作業が増えてしまう。それでは負荷が増えて本末転倒という結果になりかねない。

その解決策となるのが、RPAなどの自動化ソリューションとの組み合わせだ。生成AIとBlue PrismのRPAを連携させ、情報の提供や成果物チェックなどの人間が手を掛けてきた煩雑な作業はRPAに任せる仕組みを構築する。そうすることで生成AIのポテンシャルを最大限に引き出しながら自動化が進み、人間は重要な判断に集中して対応できるようになる。

また、生成AIのアウトプットは必ずしも正しいとは限らず、情報漏洩や虚偽誤報などのリスク対応も必要だ。利用記録を管理することで透明性を確保し、生成AIを使用する人を限定したり、成果物をきちんとチェックしたりするなどの対策を講じないとビジネスでは使えない。システムによる対応と体制による対応の両面で考えていく必要があるだろう。

精度を上げる手段の一つが、インテリジェントオートメーションの併用だ。インテリジェントオートメーションというプラットフォームの中で活用すると、より高度で正確なプロセスで実行することができるので、将来的にはこうした形が主流になると予想している。

Blue PrismはRPAの生みの親のような会社ゆえ、どのようなプロセスを作ればうまくアウトプットをチェックできるのか、体制面のアドバイスも可能だ。ソリューションを提供だけでなく、アドバイスしながら一緒に進む心構えで、これからもDXや自動化の拡張に貢献できれば幸いだ。

◆講演企業情報
Blue Prism 株式会社:https://www.blueprism.com/japan/