あいおいニッセイ同和の自律型業務プロセス変革とデジタル人財育成

特別講演
【講演者】
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
業務プロセス改革部 企画グループ長
中島 太郎 氏

デジタル変革プロジェクトで既存ビジネス効率化を目指す

あいおいニッセイ同和損害保険(以下、あいおいニッセイ同和)は、デジタル・データ活用などにより保険事業を新たな価値にシフトすることで、お客さま・地域・社会とともに、社会・地域課題の解決を目指す「CSV×DX」を掲げており、その一環として、「デジタル変革プロジェクト」で既存ビジネスの生産性・品質向上を推進している。

当プロジェクトでは、本社主導型の業務フローの抜本的な見直しとデジタルツールの導入により、2016年度から2020年度までの5年間で、全社合計で約900人相当の業務量削減を実現した。

見直し可能な大規模な業務改革が一巡した2021年度以降は方向性を大きく転換して、社員一人ひとりが自身の自律的に業務効率化を行う基盤作りに取り組む。マイクロソフト社が提供する市民開発型のRPAツール「Power Automate」を導入。開発難易度が低く、専門的なIT知識がなくても利用可能なツールを全社員に公開することで、2023年9月末までに全社員の約30%が活用を進め、累計85,000時間の自動化を実現させている。

デジタル人財育成とプロセス改革

Power Automateで効果を創出するには、ツールを効果的に活用できるデジタル人財の育成が欠かせない。Power Automateは基本的に誰でも開発可能と言えるほど、開発難易度が低いツールだが、本格的な取り組みを始める前は、職場環境に課題が山積していた。

大きく三つの課題があり、第一にデジタルに対する意識と能力が低い「低リテラシー層」が存在することで、デジタル適性のある社員がチャレンジする意欲を削いでしまう点。第二に、高スキルの社員でも、デジタル活用が自身の評価に繋がらない点。第三に、管理職層は目先の業績に捉われ、管轄下の社員のデジタルスキル向上にまで目を向けられない点である。こうした課題に対して、人事部などと連携しながら、Power Automateを有効活用できるデジタル人財を育成することを目指した。

具体的には、全ての管理職に、部下のデジタルスキル向上は自身の責務だと認識してもらうこと、全社員のデジタルリテラシーを底上げして最低限のデジタルスキルを確保させること、ポテンシャルのある人にはさらにスキルを磨いてもらうことの3点の強化を目指した。

デジタル人財育成に関する取組概要

全社員のデジタルリテラシーを引き上げ、デジタルリーダーになれそうな人財を発掘しながら、業務をデジタル化する土壌形成を目指した。目標値として、職場に1人はデジタルスキルを持つ人財が配置できるよう、2023年度中に800人、2024年度内には2400人を育成する予定だ。実現できれば、全国のどの組織にもデジタル人財がいることになるので、機動的にDX施策を実行できると期待している。

デジタル人財育成に関する制度

デジタルリーダー人財の認定条件として、「知識」と「実績・スキル」を定義した。社員1人1人が自律的にプロセス改革を実現するためには、スキルとモチベーションの両方がそろっていることが望ましいからだ。どちらも低ければ効果は上がらないだろう。

認定取得が一種のステータスとなるよう、認定条件はあえて厳しくして、必須スキル確認テスト合格(知識)に加えて、Power Automateの活用実績の達成(実績スキル)という二つの条件を両方クリアした人のみを合格とする仕組みを設けた。知識もスキルもしっかりと身に付けてほしいので、確認テストを受験できるのは原則年1回のみ、再受講不可とした。一時的な勉強に留まらず、将来的に使いこなせるように、しっかりと学習してレベルアップを促す枠組みを作ることを目指した。「実績・スキル」の認定条件は、現状ではPower Automateの活用実績のみだが、今後はデータ分析など他のスキルも拡充していく予定だ。

自律的なプロセス改革の取組

人財育成の仕組みを整備しても、社員が自分でツールを作成しないと効率化が実現できない。社員が主体的な開発を行うためには、「スキル」と「モチベーション」が必要であり、両面での取り組みを進めている。

「モチベーション」を高めるための具体的な実施策としては「好事例の共有」「開発者コミュニティの相互扶助」「評価される仕組み」の3点がある。中でも、力を入れて取り組んでいるのが「好事例の共有」だ。社内で好事例を見付けたら、インタビューして紹介する。掲載許可が取ることができれば、インタビュー動画も公開している。頑張っている人がクローズアップされる仕組みを作ることで評価されていることを実感し、励みにしてほしい。好事例を参考にして自分でも開発にチャレンジしてみてほしいという思いがあるので、今後も好事例の数は続々と増やしていく予定だ。

好事例の紹介

すでに、自分にとって身近な業務を効率化するような好事例がいくつも集まっている。これまでに取り上げた事例をいくつか紹介する。

経営企画部員の事例は、部長会などの会議を運営するにあたって、議題の一覧表を作成したいというニーズを解決したものだ。本社各部の担当者からメールで受け付けた情報をExcelに集約していたが、個別に返信が必要になることもあり、手間がかかる。課題解決のためにFormsで専用フォームを作成し、自動的に議題一覧ができあがる仕組みを作り上げた。

金融法人営業部員の事例は、代理店の問い合わせ対応業務を効率化させたものだ。従来、照会事項は電話で受け付けていたが、Formsで専用フォームを作成し、デジタル化した。担当者の負担軽減と迅速な回答を両立させた。

人事部企画グループにいる社員の例は、月次申請締め切り遅延件数の削減を実現させたものだ。締め切りまでの期間が短く、締め切り遅延が多数発生するので、締め切り当日に人事部がメールや電話で個別に督促する必要があった。締め切り前日から自動通知で督促メールを繰り返し自動送信する仕組みにしたことで、業務時間を短縮。締め切りの遅延も激減した。

Power Automateによる自動化の効果を実感したことで、人事部では部員の意欲が高まり、自発的に他の取り組みも進めているという。このように、業務プロセス改革部が強制しなくても、業務改善につながる取り組みが各部署で自律的に進むような風土づくりを目指している。

スキル向上のための取組

「スキル」強化の観点では、勉強を始めた人がつまずかないように、コンテンツの充実やナレッジ展開、コミュニティの作成、サポートなどの教育支援を展開している。コミュニティは開発者同士の交流と相互扶助を目的としたTeamsのチームで、現在903人が参加。参加者同士が自由に質問や相談をし合うことで、お互いに刺激を受けながら交流できる場所となっている。オープンな交流が苦手な人向けに個別の相談を受け付けるサポート窓口も設置。小さなつまずきで意欲を失わないように、業務プロセス改革部で専門知識のある人間が、手厚くサポートしている。

自発的なプロセス改革取組の効果

Power Automateを導入してからの2年間で利用率は右肩上がりに推移している。全社員1万2000人中の4000人以上、全社員の約30%が実際にツールを活用した業務自動化を体感。この数は今後も増加が見込まれる。Power Automateによる業務量削減効果は2023年9月の時点で9465時間。2022年2月の導入時からの1年7ヵ月で累計85000時間に及ぶ。この取り組みは、これからも加速していく。