「キーエンス流データ活用術
~保険業界のコンタクトセンター事例~」
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【講演者】
- 株式会社キーエンス
データアナリティクス事業グループ
鈴木 辰弥 氏
<高収益を支えるデータドリブンな事業活動>
キーエンスは営業利益率が55.4%と高収益であることで知られている。高い収益率と継続的な成長を支えてきた要因の1つは、データドリブンな事業活動だ。高収益の源泉となったデータ活用ノウハウを、現在様々な業界のお客様に提供している。データ活用により顧客理解を極限に高めることで、顧客体験価値の向上を実現し、結果的に収益向上につながっている。当社が提供する分析ソリューションは「KIプラットフォーム」と「カスタマーサクセス」で、データドリブンな組織の実現に伴走する。
<コンタクトセンターにデータ活用が求められる背景>
顧客接点の多様化、様々なチャネルのデータ蓄積で、コンタクトセンターの環境は変化している。データを有効活用した、提案型の組織への転換が求められている。従来は顧客視点のサービス提供が中心であったが、これからの時代は顧客起点のサービス提供だ。顧客ニーズや課題はデータに現れ、データは変化するため、現場がいかに早く変化を捉えるかは非常に重要だ。データの有効活用により顧客理解が深耕し、アウトバウンド戦略における顧客体験価値、収益向上に繋がる。
そのためには組織の上層部だけでなく、現場も含めた全員がデータに基づいた意思決定を行うことが理想だ。顧客と接するコンタクトセンターこそ、データ活用の民主化が求められる。
<データ活用民主化の3つの壁とは?>
3つの壁の1つ目は分析環境で、組織にはデータに馴染みのない方も多いため、気軽に扱えるデジタルツールが必要だ。AIを活用しても、解釈・説明性が必須だ。当社ツールのKIプラットフォームは、データの前処理・要因分析・機械学習を1つのプラットフォーム内で完結する。データ整備・拡充の試行を実施し、分析環境を整備するのに最適だ。
2つ目の壁は人材育成で、データを解釈して意思決定へと繋げるスキルを保有する人材を育てる必要がある。キーエンス流の人材育成プログラムは、インプットと実データでのアウトプットを繰り返し、施策懸賞から業務プロセス変革までのやり方を伴走する。
3つ目の壁は文化醸成で、分析環境の整備と人材育成が進んだら、当たり前の文化として定着させることが重要だ。当社のノウハウや数百社の成功/失敗経験を基に「Data Driven Scrum」を改良した。日本企業のデータ民主化向けに改良したフレームワークであり、各業務部門が意思決定まで繋げることに重点を置いている。
<保険ビジネスプロセスにおけるデータ活用例>
データ活用例のなかで、今回はファーストコンタクトと見積・契約に焦点を絞ってお話しする。ファーストコンタクトではチャネルの多様化や非対面営業が重要で、Web履歴、電話履歴、営業活動データ等を使う。見積・契約ではコンタクトセンター・募集人・代理店によるコンサルティングを行うため、来店・訪問履歴、電話履歴、見積データ、既契約データなどを活用する。
ここからKIプラットフォームのデモンストレーションをお見せする。今回の分析テーマは、保険契約率の最大化で、顧客マスタ、保険の契約履歴、カレンダーマスタの3つのデータを使って分析する。分析するデータをセットしたら「リレーション」の画面で、顧客IDなど各データの共通項目を設定するだけでデータ結合が完了する。今回はマトリックス分析と要因ツリーを選択する。マトリックス分析は現状を把握するのに役立つ分析で、見たい項目を行や列に自在に入れて帳票を作成することができる。要因ツリーは、例えば前年より売上が増加した要因・減少した要因を探ることができ、チャネル・商品カテゴリ・住居形態など、データの深堀をしていける。
次に保険契約率最大化のため、機械学習によって保険を契約している人・していない人の違いの分析を紹介する。面談の間隔、配偶者の有無、商品問い合わせの数など、成約に至ったお客様の特徴が表示される。条件に該当するお客様に絞り込んでリストを作成することもでき、コンタクトセンターのアウトバウンドに活用可能だ。
<データ活用>
データ活用のロードマップとして3つのフェーズごとに紹介する。まず第一フェーズではアップセルターゲティング(単価向上)や成約顧客ターゲティング(新規加入増加)といったテーマがある。様々な項目軸を使い、アップセルをしやすいお客様の特徴をデータから捉え、スコアが高い層へ集中してアプローチを取ることができる。
第二フェーズでは、契約者貸付ターゲティング(将来保険金削減)や解約分析(中途解約率減少)などがテーマだ。解約分析については、過去に解約をしたお客様の行動や属性で分析を行い、解約確率の高いお客様に集中してアクションを取ることで解約率減少に繋がる。なお解約に関する共通傾向として、複数商品を契約している人は解約率が低い。顧客ごとにどの商品に興味を持つかをリスト化することができるため、興味を持ちそうな商品を複数提案することで機会損失を防ぐ。
第三フェーズでは、営業員パフォーマンス分析(営業効率化)や保険金支払業務アサイン改善(業務効率化)といった分析テーマがある。
<データ活用人材をどう育てるか?>
データ活用民主化にとって重要な「PDCA人材」とは、自らが分析PDCAを回せる人材のことだ。具体的には分析結果の解釈・仮説検証・再分析のサイクルを回せる、データ分析結果からビジネス価値に繋がる施策を検討できる人材を意味する。そのような人材に必要なスキルは分析スキルというよりも、業務知識などのビジネススキル、デザイン思考・アジャイル思考など思考スキルである。分析スキルはKIプラットフォーム等の活用により、今後は徐々に難易度が下がり、標準化が進むと考えられるからだ。ビジネススキルや思考スキルをどのように習得するかが鍵となる。
当社の人材育成プログラムでは、インプットとアウトプットを繰り返しながら、施策検証や業務プロセスの変革までのやり方を伴走支援する。例えばインプットではeラーニングのコンテンツを数十本用意しており、データ活用プロジェクトマネジメントコース、データサイエンティスト育成コースなどがある。アウトプットに関してはテーマのレビューシートを用意している。分析PDCAの各フェーズにおいて実データ・実テーマでの検討を行っていただき、分析/ビジネス/思考スキルを実践型で習得できる。プログラムの展開イメージとしては複数部署並列で、または1部署ずつプログラムを実施する。分析PDCAを定常化することで継続的にビジネス成果を積み上げ、データドリブン文化の醸成を行う。最終的に目指すのはデータ活用人材育成に関して、お客様が自走できる状態だ。
<まとめ>
KIとカスタマーサクセスプログラムが提供する価値は、今あるデータを使いながら既存データの価値を発見し、正しいデータ活用スキルを身につけて施策化していくことだ。さらに将来活用するデータの蓄積方法や、自社データの課題等を検討しながら、データの価値を高めていただく。
無料データ活用セミナーも開催しており、「キーエンスのデータ活用の試行錯誤の歴史」、「ターゲティング術」、百五銀行様に「データ人材の育て方」についてお話しいただいたセミナーなど、各種開催している。無料でご参加いただけるので、「キーエンス データ活用 セミナー」で検索いただき、ぜひご参加いただきたい。
◆講演企業情報
株式会社キーエンス:https://analytics.keyence.com/ja/