「オリックス生命におけるコンタクトセンター業務改革」

特別講演

【講演者】
オリックス生命保険株式会社
お客さまサービス本部 カスタマーサービス部長
渡辺 展正 氏

<会社・センターの概要>

当社はオリックスグループに属し、保有契約件数488万件(2022年3月31日現在)と、中堅規模の生命保険会社だ。新規契約の約8割は募集代理店チャネルであり、保有契約件数は右肩上がりに増加している。コンタクトセンターは約300席体制で、年間約200万件のコンタクトを電話・Webにて応対している。保有契約件数の増加と共に、お客さまや募集代理店からの問合せも増えている状況だ。

コンタクトセンターの最大の課題は、生産年齢人口の減少がもたらすマーケット縮小による競争激化、人材確保困難の深刻化だ。いかにして「サービス」と「生産性」の両者を並行して向上させるかが問われている。

<業務改革の結果>

まず、業務改革内容の前に結果からお話しすると、業務量の増加に対し、人員増・コスト増を抑制することができた。2022年度年の業務量の増加は対2018年比で140%となったが、人員数の増加は105%に抑えることができている。抑制できた主な要因は、コンタクトセンターの複数拠点化、人材育成強化、社内システム刷新、デジタルサービス拡充の4点である。本日はこの中から、社内システム刷新とデジタルサービス拡充についてお話しする。

<社内システム刷新の経緯>

社内システム刷新前は、オペレーターが利用するシステムがサービスや生産性の向上を阻害していた。なぜなら、10種類のシステムを併用して応対する状況で、研修期間や平均処理時間の延伸、それらに伴うオペレーターのストレス増といった悪影響が発生していためで、システムが乱立していたのは他部門のシステムを間借りしたことが原因だ。

加えて、後続部門への連携がフリーフォーマット入力であったことも問題となっており、入力内容のバラつき(個人差)や、後続部門の誤解・入力内容の再確認の頻発を招いた。また、お客さま対する応対もオペレーターによってバラバラになってしまっていた。これらを解消するため、他部門からの間借りではない、コンタクトセンター専用のシステムが必要になったというのが社内システム刷新に至った経緯だ。

<社内システム刷新の対策>

開発検討において、現場の実態を反映することを最重要視した。システム開発要件の取捨選択では、オペレーターの意見を最優先に、利用頻度、AHT(Average Handling Time※1コールあたりの平均処理時間)短縮効果、作業負荷の3項目を軸に対応順位を決定した。システム開発者が受電現場に立ち入り、実際のシステムの「利用方法」を目視で確認した。加えて、画面構成を担当するUX(User Experience)デザイナーがオペレーターの新人研修に参加し、実際に受電応対ができる水準まで業務を理解した。

実際にできた画面は、UXデザインを反映した「オペレーターファースト」な画面構成・操作感となった。画面の左から、代理店情報、顧客情報、契約情報、コンタクト履歴、対応依頼、コンタクト履歴・対応依頼入力の6つの区分で構成している。わかりやすい区分に加え、自然な目線の流れ、目に優しい色合いを採用した。10種類のシステムを1種類に集約し、フリーフォーマットもプルダウンの方式に変更した。現場からは使いやすいシステムだと好評であった。

<社内システム刷新における新たな課題と対策>

しかしシステムの段階的リリースの途中で新たな課題が発生した。コンタクトセンターの生産性が向上する一方で、後続部門の業務量が倍増したのだ。連携される情報量は減少したにもかかわらず、センターと後続部門との協議・認識合わせが不足したためだ。

そこで後続部門との協議、業務の見直しにより全体最適なシステム・運用を構築した。コンタクトセンターから後続部門へ依頼した業務がどのような流れで処理されるのか、フローを可視化し徹底的に質疑することで、センター・後続部門の両者とも互いの業務を理解した。また「不要業務の廃止」「類似業務の集約」を抜本的に実施し、1,400通りあった依頼パターンを120通りまで削減した。

<社内システム刷新の取組結果>

社内システム刷新により、保留・後処理時間は268秒/1件から154秒/1件へと43%削減され、当初の目標を上回る成果となった。想定よりも効果が早く出たのも、現場の意見を多く取り入れたからだと考えている。オペレーターの負荷軽減による応対向上も実現し、サービスと生産性の両者を並行して向上させることができた。

<デジタルサービス拡充➀ ウェブ給付金請求サービス>

デジタルサービス拡充については3つご紹介する。まずは入院・手術をした際の給付金請求をウェブで行えるサービスだ。2019年10月のリリース以降、利用者は右肩上がりに増加し、利用累計件数は19万件を突破した(2022年6月時点)。特に新型コロナウイルス感染症関連は約50%が本サービスを利用して請求された。

本サービスの利用促進のため、複数の取組みを実施した。まず、徹底した使いやすさを追求するため、IDやパスワードを必要とするマイページ経由にせず、マニュアルがなくても手続きを終えられるシンプルな操作感、ご家族・代理店が代わりに手続きをする代行入力を可能とした。そして、全方位から誘導するため、ホームページに目立つ誘導バナーを設置することに加え、オペレーターからお客さまへの入電時のサービス案内や営業部門からの代理店へのサービス案内も行った。また、お客さまの声や苦情、オペレーターの声から、画面改修や機能追加・改善を繰り返すなど改善サイクルも回している。

<デジタルサービス拡充➁チャットサービス>

2つ目は、お問合せをテキストのやり取りにて行えるサービスで、ボットと有人対応の両方を用意している。頻出するお問合せはボットにて回答のFAQまで誘導し、ボットにて解決しない場合や有人対応を希望される場合は、お客さまの選択により有人対応に切り替えることが可能だ。

コンタクト全体のうちチャットが占める割合は6%程度と高くはないが、利用件数は着実に伸展している。チャットならではのサービス提供により、お客さまの満足度は電話より高いのも特徴だ。当社のお客さま満足度調査で「とても満足した」または「満足した」と回答した割合は、電話が82%、チャットサービス(有人対応)が92%となった。

チャットは呼量削減だけでなく、お客さま満足度を高めるサービス・機能として有益だ。電話にないバリューとして、「電話が苦手」や「テキストを好む」といった方に適しており、家事の合間や移動中などの「ながら」に対応可能で、入院中など声が出しにくい事情への配慮も可能だ。FAQとの連携もしやすく、FAQは適度な情報量に留め、チャットでお客さまの背中を押す形式が理想と考えている。お客さまの声を分析する際にも、電話データと異なり、お客さまからの意見・要望がテキスト化されているため、クイックな確認・分析・対策検討が可能だ。


<デジタルサービス拡充③ボイスボット>

3つ目は、書類発送や変更手続きをAIによる自動応答にて申出できるサービスだ。音声ガイダンスに沿って「契約者名」「生年月日」等をお客さまが口頭で回答することで、AI が内容を認識し、手続きを受付する。2021年10月からの「住所変更」を皮切りに、「コロナ給付金請求」、「保険証券再発行」の機能を実装した。2022年10月からは「控除証明書再発行」機能を拡充する予定だ。

こうした取組みの中で、お客さまの自動応答に対応する認知、AIの認識精度に一定の手ごたえはあると感じている。「住所変更」でお客さまが自動応答を選択する率は58%、自動応答を開始したお客さまが離脱せず要件を終える率は、「住所変更」で66%、「コロナ給付金請求」で87%だ。認識精度向上等の課題は残るが、将来的に、本サービスの利用拡大が期待できる。

<デジタルサービス拡充の取組結果>

人による電話応対以外の「デジタル」の割合は、7%だった2019年から2022年には26%に増加するなど、この3年で約4倍に拡大し、サービスと生産性の両者を並行して向上させることができた。