ドラッカー ~5つの質問~【第2回】われわれの使命は何か


ドラッカーが問いかける「使命」とは何なのか。どのような概念で、なぜそれが不可欠なのか。本稿は、ドラッカー専門コンサルタントの山下淳一郎氏の説明のもと、ドラッカーの5つの質問を通してマネジメントを読み解く、全6回の連載の第2回目。企業の存続・成長に欠かせない「使命」に迫る。

  1. 第一の問い われわれの使命は何か
  2. 何をもって社会の役に立つ会社なのか
  3. 自分たちのメリットや都合は使命ではない
  4. 使命が何をすべきかを教えてくれる
  5. 使命は働く人に意欲をもたらす
  6. 使命を明確にするということ
目次

第一の問い われわれの使命は何か

「顧客を創造する」ために一番はじめに行うことは、「自分たちの使命を決めること」です。自分たちの使命を決めるための具体的な仕事を教えてくれているのが、ドラッカー5つの質問「第一の問い われわれの使命は何か」です。

あなたは、経営理念、使命、ビジョンといった言葉を聞いて混乱したことはありませんか? まずは、それらの言葉を整理したうえでお話しを進めていきます。

経営理念は「わが社の社会に対する根本的な考え方を言い表したもの」です。使命は「わが社が社会で実現したいことを言い表したもの」です。ビジョンは「わが社の使命が実現した時の状態を言い表したもの」です。

ここでは、使命についてお話いたします。「第一の問い われわれの使命は何か」における、あなたのゴールは「わが社が社会で実現したいことを言い表すこと」です。

何をもって社会の役に立つ会社なのか

何をもって社会の役に立つ会社なのか

それでは、喜んでもらう人を増やすための第一歩を踏み出しましょう。会社は、物を買うことも所有することもできます。そして、場所を借りることもできます。会社は法律によって人と同じ権利を与えられています。だから「法人」と言うのです。

会社が社会に存在することを許されているのは、事業を通じて社会の役に立つからです。登記さえ済ませば、あとは勝手に儲けていいですよ、ということではないのです。

学校は人をつくる目的をもち、病院は患者さんの病気を治すことによって、社会の役に立っています。あらゆる組織は、何らかの形でお客様に喜んでもらえるからこそ存在することができています。会社もそれぞれの事業を通してお客様のために存在しています。

では、御社は具体的に何をもって社会の役に立つ会社なのでしょうか? それを問いただすのが「第一の問い われわれの使命は何か」です。

自分たちのメリットや都合は使命ではない

自分たちのメリットや都合は使命ではない

私は仕事上、使命を決めることのお手伝いをさせていただくことが多くあります。その時、こんな言葉が出てくる場合があります。それは、「もっと知名度を上げる」とか、「業界で一番有名になる」とか、「売上何億円にする」というものです。それは使命ではありません。

使命とは「社会のお役に立てる具体的な何か」です。わが社は「何をもって喜んでもらう人を増やそうとしているのか」、「社会は何を求めているか」を理解し、自分たちが得意とするものを知るところから、使命を確立することができます。確立するということは明確な言葉で特定するということです。

三人のレンガ職人の話はきっとあなたもご存じのことと思います。一人は給与をもらうために仕事をしている。二人目は優れた職人になりたいと思って仕事をしている。三人目は「人々の心を癒す空間を造って喜んでもらおう」と思って仕事をしている。

三人目の職人の思いこそが使命です。使命を考える時は、自分たちのメリット、自分たちの都合、自分たちにとっての希望は考えない、ということです。

使命が何をすべきかを教えてくれる

使命が何をすべきかを教えてくれる

多くの会社が経営理念や使命を掲げながら、売上や会社の規模を大きくしていくことに頭を持っていかれてしまい、使命はただの飾り物になっています。使命はあると言いつつも、そこで働く一人ひとりの仕事は、使命と完全にかけ離れたものになっています。

使命をはっきりさせ、使命が働く一人ひとりの仕事となって、実行されていなければ何をやってもうまくいきません。たとえ一時的にうまくいくことがあっても長く続きません。使命が組織で共有されていなければ、一人ひとりの力はバラバラになってしまいますし、会社は本来持つ力を発揮することができません。やがて行き詰ることは必然です。

使命は自分たちに何をすべきかを教えてくれます。

会社は仕事の効率を高めるため、多くの仕事をルーチン化していきます。仕事をルーチン化すること自体は、組織全体の生産性が高まるので良いことです。

その一方で、いったん仕事がルーチン化されてしまうと、改善すべきことが見えなくなることがあります。ルーチン化は大きなメリットがあると同時に、そのようなデメリットが隠れ潜んでいます。

どんなデメリットがあるかというと、効果的だったやり方であっても状況が変わって効果的でなくなったにも関わらず改善の必要性に気づかずその仕事を続けてしまうということです。これは、組織で仕事を運営している以上、致し方なく起こることです。

使命があることによって、仕事を改善する必要性に気づきにくい状況であっても、いま自分たちが行っていることは使命に向けてどうなのか、そんな視点をもつことができます。自分たちの使命が自分たちを導き、自分たちの今日を教えてくれるのです。

使命は働く人に意欲をもたらす

使命は働く人に意欲をもたらす

使命は働く人に働くエネルギーを与えてくれます。仕事の価値を決定づけるものは、仕事の内容ではなく仕事の目的です。何のための事業なのか。使命の内容が働く人に意欲をもたらしてくれます。使命は、なんとなくこなすのではなく、最善を尽くそうとするエネルギーを与えてくれます。

あなたは何のために働いていますか? 御社の社員さんにこう尋ねたら、なんて答えるでしょうか? 私たち人間は、お金以外に頑張る理由が必要です。価値ある使命があるからこそ、その仕事に価値を共感する優秀な人材を獲得することができます。

言うまでもありませんが、仕事はいいことばかりではありません。むしろ辛く苦しいことの方が多いと言ってもいいでしょう。会社が大きいからとか、会社が有名だからとか、社長にあこがれたからとか、条件がいいからといった理由だけで入社した人は、仕事が大変になると他の会社に目がいってしまい、力を発揮してくれません。

使命に共感して仕事をしてくれているからこそ、たとえ辛い時があっても、使命に向けて自らの意思で全力を尽くしてくれます

使命を明確にするということ

使命を明確にするということ

われわれの使命は何かというこの問いは、いざ日頃一緒に仕事をしている仲間と話し合ってみると、お互いの考えに違いがあることが明るみになります。ともに働き、理解し合えていると思っていた人たちとわれわれの使命は何かというこの問いを共有すると、お互いの考えに違いがあることを知って愕然とされるはずです。

組織で仕事をしている以上、行動のもととなる考えに食い違いがあれば、仕事はうまくいきません。そうなってしまえば、喜んでもらえる人を増やせなくなってしまいます。喜んでもらえる人を増やせなくなるということは、事業の存続に危険が及ぶということです。

そうです。使命とは事業の存続に関わる重要なものなのです。喜んでもらえる人を増やしていくためにも、事業の繁栄のためにも仕事をしてくれている社員さんのためにも、「われわれの使命は何か」という問いを共有し、共通の考えを確定させてください

山下 淳一郎 氏
寄稿
トップマネジメント株式会社
ドラッカー専門のコンサルタント
山下 淳一郎 氏
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