- 第二の問い われわれの顧客は誰か
- お客様を明確にすることの重要性
- ソニーのテープレコーダーから学ぶこと
- 本当に喜んでほしい人たちは誰か
- お客様を明確にすると事業の成功率が高まる
- 組織を正しい方向に導くための道しるべ
第二の問い われわれの顧客は誰か
使命が決まったら、次に行うことは、「対象とするお客様を決めること」です。対象とするお客様を決めるために必要な仕事を教えてくれているのが、ドラッカー5つの質問「第二の問い われわれの顧客は誰か」です。
前回でお伝えした「われわれの使命は何か」とは、詰まるところ、自分たちの事業は何かを明らにするということです。
ありとあらゆる人にありとあらゆることを提供し、ありとあらゆる満足を提供できる会社はこの世にありません。しかし、特定の人に特定のことを提供し、特定の満足を提供することは可能です。
ここでいう、特定の人が対象とするお客様のことで、特定のことが事業にあたります。
お客様を明確にすることの重要性
たとえ、これはすごいと思える商品を開発しても、素晴らしいと信じ切れるサービスを創り出したとしても、その商品やサービスをいいと思って、使ってくれるお客様がいなければ、その商品、サービスは、単なる自己満足になってしまいます。そこに費やした時間、労力は意味のないものになってしまいます。
そんなことは百も承知だ、と思っている会社ですら、日々仕事をしているうちに、どうしても組織内部の都合や問題に目がいってしまい、お客様第一と言いながらも、ふと気が付くと組織内部の都合で事業が進められ、お客様に喜んでもらえる事業でなくなってしまった会社をこの目で見てきました。それはほんとうに残念なことです。
対象とするお客様を間違えてしまうと、成果があがるものであっても、成果があがらなくなってしまいます。
ソニーのテープレコーダーから学ぶこと
ソニーは、1950年に日本初のテープレコーダーを発表しました。重さは35キロ、価格は17万円でした。当時の大学の初任給が1万円程度ですからかなりの高額品です。
ソニーの創業者の一人である盛田昭夫さんは、当時テープレコーダーを売るため、あちらこちらへデモに奔走したそうです。友人知人の声をその場で録音しては、録音したその事をその場で聞かせていきました。生まれて初めて目にする機械から聞こえてくる自分の声に、多くの人が驚き、多くの人が気に入ってくれました。
ところが、気に入っているにも関わらず買ってくれる人は誰一人としていませんでした。誰もがみんな口を揃えて「おもちゃにしては高すぎるよ」という声でした。どんなにテープレコーダーの良さを説明しても一台も売れませんでした。
戦後間もない当時の日本は、専門分野の教育に遅れをとっていました。遅れの一つは「速記」でした。裁判所では速記の人手が足りず、速記の方はみんな過重労働に苦しんでいました。
盛田昭夫さんはテープレコーダーを売り込むために、裁判所に訪問しました。まったく売れなかったテープレコーダーが一瞬にして20台売れました。裁判所にとってテープレコーダーは「おもちゃ」ではなく、「仕事の効率を高めてくれる貴重なもの」でした。
どんないい性能であっても、どんなにいい製品であっても、お客様が価値ありと認めなければお客様に必要性を感じてもらうことはできません。
自分たちの商品、サービスを必要とするお客様はどんなお客様なのか。そのお客様はいったい何処にいるのか。そのお客様が望んでいるものは何か。日本を発展させてきた名経営者は、そんな問いについて考え抜く重要性を教えてくれています。
本当に喜んでほしい人たちは誰か
対象となるお客様は、わが社が心から喜んでもらいたいと思える方です。本当に役立ちたいと思えるお客様を対象にしなければ、使命に対する情熱もいつの間にか薄れてしまいます。それでは、事業の方向性を見失い、社会に変化に振り回されて事業は右往左往してしまいます。
この対象とするお客様を徹底的に考え、それを明らかにしないまま仕事を進めてしまえば、お客様と関係のないところで仕事を行ってしまうことになります。これが、頑張っているのに喜んでもらう人が増えていない、という構図です。
頑張っている分、喜んでもらう人が増えているという状態にするためにも、ドラッカー5つの質問「第二の問い われわれの顧客は誰か」を取り組んでまいりましょう。
お客様を明確にすると事業の成功率が高まる
何から何まですべての決定権を持っているのはお客様です。決定権とは、物事において自分で決められるその範囲のことです。お客様は間違いなく、買うか買わないかすべてにおいて決定権を持っています。お客様に認めてもらわなければ事業は成り立ちません。
ということは、事業を一から十まで決めるのはお客様です。そうです。事業を決めるのはお客様なのです。どのような人を事業の対象とするかで、何から何までやるべきことが決まってしまいます。
ゆえに、対象とするお客様をはっきりさせればさせるほど事業の成功確率が高まります。対象とするお客様をはっきりさせれば何をやるべきで、何をやるべきでないのか、何をどのように行うべきかが、それらがいやがおうにもが浮き彫りになるからです。
ここでいう成功はもちろん「売上」のことではありません。事業の成功とは、「喜ぶ人が増えること」です。
組織を正しい方向に導くための道しるべ
お客様は日々刻々と変化していきます。ゆえに、事業は常にお客様を中心に考え、お客様を中心に進めていくようにしなければなりません。誰のための事業なのか? お客様のための事業だからです。
ここで心の持ち方や心掛けをお伝えしているのではありません。ここでお伝えしているのは、お客様を中心に進められる事業の運営を確立することは具体的な仕事である、ということです。
組織は、進もうとする方向とは違う方向に進んで行ってしまう弱点を持っています。それは、ほんとうに恐ろしいことです。誰もが、その方向に進めようとは思っていないにも関わらず、組織は意図しない方向へ進んでしまうことがあるのです。組織とはそのようなものだと思って、事業の運営を確立していかなければなりません。
ゆえに、会社の外に目を向けざるを得ない工夫、お客様に関心を注がざるを得ない取り組み、商品やサービスを提供する側の目線から離れたところから、お客様のための事業を確立していきましょう。
- 寄稿
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トップマネジメント株式会社山下 淳一郎 氏
ドラッカー専門のコンサルタント