第五の問い われわれの計画は何か
あげるべき成果が決まったら、次に行うことは、「計画を立てること」です。計画を立てるために具体的な仕事を教えてくれているのが、ドラッカー5つの質問「第五の問い われわれの計画は何か」です。
これまで、「われわれの使命は何か」、「われわれの顧客は誰か」、「顧客の価値は何か」、「われわれの成果は何か」という取り組みを通して、事業の中身を明らかにしてきました。
「われわれの計画は何か」にまで辿り着くのに、どれくらいの時間がかかるかと言いますと、私の経験上、最短で進めた企業様でも5ヶ月かけられています。ドラッカー5つの質問は1日にして成らず、ですね。
計画は「使命に向かい主体的に進むための旗印」
これまで決めてきたことが、社員さん一人ひとりの日常の仕事になっていなければ、決めたことは実行されることのない善き意図で終わってしまいます。決めたことを日々の仕事に落とし込み、確実に成果をあげるために計画を立てていきましょう。
計画は、「社員さん一人ひとりの行動を強制するもの」ではありません。計画は「社員さん一人ひとりのエネルギーを総動員するためのもの」です。
したがって、社員さん一人ひとりが、使命の実現のために打ち立てた旗印に向かって、主体的にどんな仕事をしていけばいいのかを考えることができるものでなければなりません。
主体的とは、「何をやるべきか決まっていなくても、自ら何をやるべきかを自ら考えることができ、自ら行動を起こせる状態のこと」です。
計画を立てるということは、「事業を底上げするための目標を立てる」ということです。目標とはわが社が目指すべき旗印です。
目標達成していくための目標の立て方
では、どうやって目標を立てていけばいいのでしょうか。目標設定のポイントは、社員さん一人ひとりの目標達成が部門の目標達成につながっていて、それぞれの部門目標の達成が、会社全体の目標達成につながっているようにすることです。
会社全体の目標と各部門の目標、各部門の目標と一人ひとりの目標の内容が、それぞれつながっていないと、個人間でそれぞれの都合が衝突したり、部門間に争いが起こってしまいます。こうなってしまうと、たとえ目標を達成できる力があったとしても、目標は達成されずじまいとなってしまいます。
あとほんの少しで目標達成できないという状態が何年も続いている会社は、組織内部で個人間の衝突や部門間の争いが頻繁に起こっています。経営者はもちろんのこと部門の責任者は、組織内部の問題解決に労力が引っ張られています。
そんな会社に共通していることは、議論すべきことを避けて、決定すべきことを常に先延ばしにする傾向があります。立てた目標が達成されないのは、目標達成する力がないのではなく、目標を達成する運営に至っていないためです。ただそれだけのことです。
逆に、立てた目標を着実に達成している会社は、面倒な議論を避けることなく正面から議論を戦わせています。そして、決定すべきことは先延ばしにせずに勇気ある決定を行っています。目標を達成しているのは目標を達成する運営に至っているからです。私自身、仕事を通して、成果をあげるためには面倒を避けてはいけないということを現実から学びました。
計画を立てる時期
目標を立てて、計画をつくることは大仕事です。会社全体の計画は、新しい期を迎える3ヶ月前から取り組むことをお勧めします。あなたはいま、3ヶ月!?と目を丸くして驚かれたかもしれません。会社全体の計画は、それくらいの時間と労力を要するのです。
経営者が決めた方向へ会社全体が進んでいくということは、社員さん一人ひとりの仕事が、その方向へ向けられるということです。社員さん一人ひとりの働き方と時間の使い方を決めてしまうのですから、それくらい時間と労力をかけてもおかしくありませんし、それくらいの時間と労力をかけるべきです。
「8つの領域」の目標を立てる
「うちの経営計画は売上だけですよ」。経営者からそうお聞きすることがあります。それでは経営者=営業部門の責任者になってしまいます。経営の仕事は、「事業全体を見渡して、喜んでもらう人を増やすための意思決定をすること」です。
事業全体を見渡すということはいったいどういうことでしょうか。ドラッカーはこう言っています。
事業は、顧客を創造することができなければならない。したがって、マーケティングについて目標が必要である。
事業は、イノベーションすることができなければならない。さもなければ、誰かに陳腐化させられる。したがって、イノベーションについての目標が必要である。
あらゆる事業が経済学でいう3つの生産要素、人、金、物に依存している。したがって、それらのものの獲得と利用についての目標が必要である。
事業が発展を続けるには、生産性を向上させていかなければならない。したがって、生産性の目標が必要である。
さらには、事業が社会の中に存在する以上、社会的責任を果たさなければならない。したがって、社会的責任についての目標が必要である。
そして最後に利益が必要である。
事業全体を見渡すということは、「8つの領域すべてにおいて目標を立てる」ということです。それが、「事業全体を見渡して、喜んでもらう人を増やすための意思決定をする」ということです。
8つの領域を整理すると次のようになります。すべてが事業の存続と繁栄に関わるもので、重要でないものは1つもありません。喜んでもらう人を増やすために、8つの領域すべて目標を決めてまいりましょう。
事業が成果をあげる2大機能
- マーケティング
- イノベーション
事業を進めるのに必要な3大資源
- 人
- 金
- 物
事業の成長に必要な3大条件
- 生産性
- 社会的責任
- 利益
ドラッカー ~5つの質問~
ドラッカー5つの質問を通して創り出されたわが社の考えは、こうして最終的に1つの大きなエネルギーとなって社会に放出され、喜んでもらう人を増やしていくことに至ります。第1章でお伝えしたドラッカーの言葉をいま一度、思い返してみてください。
「これら5つの質問は、正面から答えていくならば、必ずや、各位のスキルと能力とコミットを深化させ、あるいは向上させていくはずである。ビジョンを高め、自らの手で未来を築いていくことを可能にするはずである」。
御社は、これら5つの質問を、正面から答えていったことによって、各位のスキルと能力とコミットを深化させ、そして向上させたはずです。ビジョンが高まり、自らの手で未来を築いていくことが可能になったはずです。
最後になりますが、本稿が読者の皆様のお役に立ち、価値あるビジネスの創造の一助となれば幸いです。
- 寄稿
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トップマネジメント株式会社山下 淳一郎 氏
ドラッカー専門のコンサルタント