【連載】証券会社のビジネスモデルの将来像


連載企画「金融機関のビジネスモデル変革」の第七弾では、証券会社のビジネスモデルを展望する。証券会社の本質的な役割と存在価値を改めて認識し、近年STO/NFT等によるデジタル証券への注目が高まってきているなかで、今後の証券業の変化と高度化に向けて解説する。

目次

これからの10年の変化

ではこれからの10年は何が変化のドライバーになるだろうか。証券会社としての本質は依然変わらないが、1)ビジネスの根幹を支える資金の流動性の変化への対応、2)規制の緩和等により更に加速する異業種との連携、及び3)更なるテクノロジーとデータの活用によるコスト最適化と処理・分析の高度化がドライバーとなると考える。

資金フローのグローバル化への対応

日本の直接金融に関わる資金のフローは既にクロスボーダー化しているが、そのトレンドは更に加速するだろう。

プライマリービジネスのM&Aビジネスにおいては、日本国内の企業同士の合併である「IN-IN」案件だけでなく、日本企業が海外企業を買収する「IN-OUT」案件や、海外企業が国内企業を買収する「OUT-IN」案件に積極的に取り組むべきである。現に昨年の日本企業のM&A助言業務ランキング上位は軒並み外資系投資銀行が占めている。その理由は、クロスボーダーのM&Aが増加する中で大型の「IN-OUT」「OUT-IN」案件に外資系投資銀行が食い込んでいるからだ。

セカンダリービジネスについはこの20年間の国内金融市場へ海外投資家の参入に加えて、今後成長の見込まれる、米国、中国、インド、東南アジアといった地域への、日本の余剰資金のフローに着目すべきである。既に個人投資家の投資性向も、日本株だけでなく米国株等の海外商品へのシフト、投資信託も国内投資から海外投資へシフトしている。

証券会社の本質に立ち返り、資金調達、M&A、投資・資金運用のニーズが国内循環型からよりグローバルな循環に変化していることを踏まえ、証券会社はビジネスモデルをよるグローバルな方向にシフトする必要がある。

繋がることによる付加価値の拡大

「壁の崩壊」の崩壊に加え、テクノロジーの進化やAPIの標準化・汎用化は更に進み、銀証連携は当たり前で、証券会社は多数の非証券業とのデータ連携兼ね備えたエコシステムを形成しているだろう。プラットフォーマー、金融商品仲介業者、IFAや各種フィンテックとの連携も強くなっているだろう。また資産形成の流れとして、「貯蓄から投資」を加速させる為に必要な投資教育の為の教育業との連携もあるだろう。更なる少子高齢化に伴い、介護や医療業との連携もあるだろう。証券会社各社が莫大な投資をしている本人確認/KYC/反社チェック等の顧客デューデリジェンスについても、警察庁、財務省や信用会社との連携により、よりリアルタイムで網羅性のある審査が出来るだろう。繋がることにより価値提供やメリットを考える必要がある。

また、規制の観点では、ファイアーウォール規制の更なる緩和と金融サービス仲介法の施行は、これまで縦割りであった銀行と証券の垣根を取り払うだけでなく、保険業との連携も含めた、より包括的な金融サービスを形成するだろう。証券業だけでビジネスモデルを考えるのではなく、証券業を中心とした社会や顧客に必要とされるエコシステムを目指す必要がある。

テクノロジーやデータの活用による更なる業務の合理化・高度化

既に装置産業化している証券会社の事業は、テクノロジーとデータの活用が10年後の生き残りを大きく左右する。

インフラについては、その業務や処理の特性に合わせ、クラウド、ブロックチェーンが中心になり、一部の特殊要件への対応が重要なもののみがオンプレミスに残るだろう。常に日本の一歩先を行く海外の金融機関を見てもそれは明らかだ。例えば海外の大手金融機関の数社では、既にインターバンクの為替の決済がブロックチェーンベースのDLT(Digital Ledger Technology)に置き換わっている。これにより業務の合理化や高速化が実現している。

データについては、リテール領域においては、前述の証券以外の事業との連携が加速した結果、証券会社の事業環境は、現在以上に膨大なデータに取り囲まれることになる。銀行、証券、保険、カード、その他の非金融事業のデータをリアルタイムで分析し、顧客の課題やニーズを的確にタイムリーに捉え、正しいタイミングで適切なアドバイスが出来ることが競争優位性の源泉となる。

アプリケーションの開発については、従来のプログラマーによる各種開発言語による開発手法は、ノーコード・ローコードといった開発手法に変る。業務担当者が要件定義書を書き起こし、それをベースに開発担当者が設計書を書き起こし、その後開発作業やテストを経てアプリケーションをリリースするといった、いわゆるウォーターフォール型の開発手法は生産性の観点からは必ずしも効率的ではない。業務担当者と開発担当者が一体となり、パワーポイントのようなキャンバスに各プロセスを並べ、業務のフローを定義し、プロセス毎の業務処理を定義し、テスト・修正をリアルタイムで繰り返しながら、アプリケーションの開発を進めるアジャイルな手法が多くのアプリケーション開発の現場において一般的になるだろう(下記イメージ参照)。

自社の競争優位性、差別化また業務・コストの合理化にテクノロジーをどのように活用するか、中長期的な目線で捉え計画し、実行をリードする必要がある。

寄稿
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
銀行・証券ユニット
ディレクター 証券事業担当
上原 隆太郎 氏
外資系大手証券会社、日系大手証券会社、香港の資産運用向け銀行証券会社び外資系コンサルティング会社を経て現職。証券会社の経営・事業戦略、テクノロジー、オペレーション、コンプライアンス、ガバナンス等に関わる幅広い経験と知見を有する。
1 2 3
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次