金融領域を軸とした中長期的な事業の方向性

本稿の締めくくりとして、金融/非金融領域それぞれでの長期的な事業の方向性について、筆者としての仮説を述べていきたい。

金融領域については、富裕層・マス層の個人、地域内外の法人とセグメントを分けて考えることとする。

まず、個人富裕層に対しては、対顧チャネルを統一したフィナンシャルリテールカンパニーを通じて、銀行商品のみならず、証券・不動産・保険等をワンストップで提供することが重要である。多種多様な顧客のニーズに応えるためには、接点を持つ営業担当者が多彩なソリューションを提供できるのが理想的である。現時点でも、グループ連携を謳い推進する銀行は多いものの、CRM連携や相互の商品理解が不十分である等、真の意味で顧客のニーズドリブンな営業が出来ているとは言い難い。グループ内の営業担当者を前述のカンパニーに集約して販売機能を担わせ、既存の銀行や証券・保険・リース会社は商品の提供主体として開発機能のみを持つような抜本的な組織変革が求められる。また、それぞれの商品は必ずしも自前に拘る必要はなく、地場証券やネット銀行等の外部企業とのオープンな連携も考えられよう。

次に、個人マス層に対しては、その採算性が低いことから、従来の店舗における対面型のビジネスから脱却し、アプリ等のフルデジタル化による非対面型のビジネスを推進することで、収益向上を図るべきである。フルデジタル化に向けては、現状の銀行アプリで散見されるような面白味がなくかつ使いにくいアプリではなく、デザイン思考で考え抜かれたUI/UXと過不足ない機能を持ったアプリを備え、かつ顧客の声に寄り添って継続的にアップデートしていくことが求められる。また、対面型ビジネスからの脱却に伴い、地域顧客の不満を抑えながら店舗を削減する必要があるが、そのための打ち手として、地場に地銀以上のチャネルを持つコンビニや郵便局への業務委託が考えられる。委託できる業務については法規制上の課題をクリアする必要があるものの、一部の地銀で先行する事例も見られ、検討に値するスキームである。

地域内の法人については、シェアの多寡により難易度は異なるものの、地域企業の幅広い経営課題にワンストップで応える法人プラットフォームの展開を目指すべきである。地銀にとって、地元経済を支える地域企業は一蓮托生の存在であり、その経営改革を通じた域内経済の活性化は避けては通れない命題である。昨今、地域中小企業の課題として挙げられる「生産性の低下」「経営人材・後継者の不足」「ゼロカーボン化」に対する打ち手として、「IT・デジタルサービスの導入」「行内人材の派遣とハンズオン支援」「ESG関連ソリューションの提供」を、外部と連携しながら地銀主導で進めることが重要である。また、そうした取組みを通じて地域内のデータを掌握し、当該データを活用して地域企業の経営課題をタイムリーに把握し、法人プラットフォームを介して非対面で効率的に営業を実施するといった流れで、本業収益の向上に活かすことも大いに考えられる。

他方、地域外の法人への越境戦略については、各地域の地元金融機関が既に根を張っていることから、一からリレーションを築くことは簡単ではない。地元金融機関が応えきれていないニーズに対してニッチャーとして入り込んで地位を確立することが重要であり、例えば、LBOやプロジェクトファイナンスに代表されるストラクチャードファイナンスの領域が有望と考える。そのためには、外部から専門人材を獲得して人材育成を進めながら事業を拡大すること、ならびに外部専門家の知見を活用して態勢整備を併せて進め、効率的なオペレーションによる案件結実スピードの向上と適切なリスクコントロールの実現を両立することが重要だ。

最後に、地銀は非金融領域にどのように向き合っていけばよいか。筆者としては、非金融領域への注力は、あくまで金融事業の拡大のためにあるべきで、非金融事業それ自体の収益化に過度な期待を持たない方が良いと考えている。昨今、金融当局による銀行の他業禁止規制の緩和や〝地銀は地域社会の課題解決に積極的な役割を果たすべき〟といった提言、関連するメディア報道もあり、地銀による非金融事業への参入ムードが盛り上がっている。実際に地域商社や農業法人、コンサル会社等の設立に動く地銀もあるが、事業ノウハウの乏しさや競合の存在もあり、話題性はともかく、具体的な収益への寄与を説得力をもって示せている事例は少ない。地方創生のためにやらないよりはやる方がまし、という意見もあろうが、優秀な地銀の人材を活用するのであれば、もっと他の事業が優先されるべきと考える。地方銀行員のポテンシャルを最大限発揮するためには、顧客企業へのエクイティ出資と経営人材としての派遣・ハンズオン支援など、祖業である金融事業の拡大に資するもののみに絞って行うべきであろう。

寄稿
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
銀行・証券ユニット/モニター デロイト 
ディレクター
梅津 翔太 氏
外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。金融業界を中心に、中期・長期経営計画策定、DX戦略策定・実行、新規事業立案、営業戦略立案、デジタル業務改革など、幅広いテーマのプロジェクトに従事。「デジタル起点の金融経営変革」(中央経済社)執筆。
寄稿
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
銀行・証券ユニット/モニター デロイト 
マネジャー
伊東 俊平 氏
メガバンク、中央官庁(出向)を経て現職。地銀をはじめ様々な金融機関に対し、経営計画・営業戦略の立案・遂行、業務プロセス改革やロボティクス導入などを支援。近年は異業種の金融参入といったテーマも手掛ける。「デジタル起点の金融経営変革」(中央経済社)共著。