2023年11月9日(木)開催 INSURANCE FORUM「転換点を迎える保険業務のイノベーション」<アフターレポート>


2023年11月9日(木)セミナーインフォ主催 INSURANCE FORUM「転換点を迎える保険業務のイノベーション」が開催された。日々目まぐるしく変化する情勢の中で、保険業界においても業務の効率化、顧客接点の強化、DX人材の育成など、様々な課題に直面している。このような状況下において、保険会社は課題解決に向けた取り組みとして、RPA、AI等のテクノロジーや高度なプラットフォームを活用し、業務のイノベーションをより一層加速させている。本フォーラムでは、日本生命保険相互会社、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の取り組み事例をはじめ、協賛企業各社によるセッションを通じて、保険業務の最新動向をお届けした。

  1. 日本生命のデジタル戦略
    ~サステナブルなデジタル推進~
    日本生命保険相互会社 前田 泰成 氏
  2. 国内保険会社が次々と高度化に着手するプランニング業務とは
    Anaplanジャパン株式会社 須釜 進司 氏
  3. 高い成果を上げる保険企業から学ぶ未来のオペレーションモデル
    ServiceNow Japan合同会社 内田 瑛一 氏
  4. リアルタイムデータ統合で変革(DX)を実現
    ~データ仮想化手法と保険業界における実例~
    日鉄ソリューションズ株式会社 中谷 祐哉 氏/Denodo Technologies株式会社 三浦 大洋 氏
  5. 保険業界におけるインテリジェントオートメーション・生成AIによる顧客接点業務の改革
    Blue Prism 株式会社 柏原 伸次郎 氏
  6. あいおいニッセイ同和の自律型業務プロセス変革とデジタル人財育成
    あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 中島 太郎 氏
  7. 【ご紹介動画】Denodo Technologies株式会社
目次

日本生命のデジタル戦略
~サステナブルなデジタル推進~

基調講演
【講演者】
日本生命保険相互会社
デジタル推進室 室長
前田 泰成 氏

基盤強化を推進するデジタル5カ年計画

デジタル化の急加速と顧客ニーズの多様化など時代が大きく変化していく中で生命保険会社の役割と期待は一層高まっている。日本生命では、人・サービス・デジタルの3点で顧客と社会の未来を支え続けるグループとなることを目指して、2019年から5カ年計画でデジタル推進を図っている。そして、「業務改革」「事業変革」「データ利活用」「システムインフラの整備」「社内の風土醸成と働き方の変革」という5つの柱を掲げた。

デジタル5カ年計画の最終目標は、全ての取り組みを有機的につなげながらデジタル推進を加速し、顧客数の拡大、グループ成長戦略の遂行と経営基盤の強化を図るために、業務と事業の変革を実現していくことだ。この計画は2023年度で一旦節目を迎えるが、取り組みの軸や全体構図は次年度以降も変えずにさらにブラッシュアップを図る予定だ。IT部門が主導して進めるのではなく、全社活動で取り組むべきだと認識している。

デジタル5カ年計画の5つの柱のうち、データ・アイデア・人材の3テーマは特に注力している。それぞれ、どのように取り組みを進めてきたのかを解説する。

データ戦略を支えるデータ利活用

日本生命のデジタル推進室内にデータ利活用のチームを組成し、本格的なデータ分析に取り組み始めたのが2019年。5年目を迎えた今では社内での認知度も徐々に高まり、各部門のビジネス部門と協業した分析案件を毎年数十件は手掛けている。

データ利活用の基盤となるデータ分析は、大きくデータ探索型と仮説検証型の二つのアプローチに分かれる。膨大なデータから因果関係を見出すデータ探索型は、思いがけない結果を得られる可能性もあるが、結果が出るまでに時間も労力もかかるため研究開発に向いた手法だ。

一方、日本生命が重視しているアプローチは仮説検証型だ。データ分析では、まずはビジネスの施策の効果を定量化し、より良いビジネスの意思決定アクションにつなげることを大切にしている。

例えば、営業職員が顧客とLINEでコミュニケーションをとっている場合、顧客からの問い合わせにすぐに返信する職員とそうでない職員を比較すると、親密になりやすいのは返信の早い方で、保険に至る契約を得る確率も高いことは分析するまでもない。しかし、データ分析をして返信に要した時間や内容、効果性を可視化すれば、何時間以内に、こういう内容で返信すると良いという具体的なアドバイスができ、着実にビジネスに貢献できるだろう。この5年間で取り組んだデータ分析案件は累計73案件に及ぶ。分析対象のデータは幅広く、従来の契約情報に加えて、規約情報や顧客情報、顧客とのLINEのやり取り、メールマガジン開封状況、日本生命アプリの利用状況などのデータも取得している。デジタルマーケティングに活用したり、営業職員の活動の高度化につなげたりしてきた。さらにコーポレート業務や資産運用など、保険業務以外の幅広い領域のデータ活用も始めることで、より高度で正確な判断が実現できるようになりつつある。

デジタル推進の風土を醸成し、アイデア出しを活性化

日本生命ではデジタル5カ年計画をスタートさせる以前から、デジタル化による業務変革と事業変革を進めてきた。2015年からFinTech活用に向けた取り組みを進め、2018年からデジタルハッカソンの運営を開始した。並行して、デジタル技術を使った新しい事業の立ち上げや既存ビジネスモデルの変革などの事業変革を図り、2020年にはオープンイノベーション推進のための組織「Nippon Life X」を組成した。社内起業プロジェクト「AXEL(アクセル)」も開始。社外の様々な機関やスタートアップ企業などとコラボレーションして新たなビジネスの創造を図っている。

「Nippon Life X」は「日本生命でなければできないけれども日本生命だけではできないこと」をコンセプトに、新たな事業価値の創出と社会課題の解決を目指す取り組みだ。「ヘルスケア」「子育て・教育」「働き方・ダイバーシティ」「資産形成」をテーマに、東京・シリコンバレー・ロンドン・シンガポールのグローバルの4極体制で、事業開発活動を展開。協業各社と実証実験を進めている。

社内の取り組みとしては、デジタルハッカソンの運営を活性化している。将来的な可能性を感じられる技術やソリューションに対しては、デジタル推進室と担当ビジネス部門が積極的に関与しながら、PoC(新たなサービスや製品のアイデアや技術が実現可能かを確認する一連の検証作業)の機会を提供する構えだ。このことにより、新しい技術を積極的に活用していこうというマインドが醸成されることを期待している。

5年間でのPoCの実績は累計55案件。むやみに案件数を増やすよりも、着実に本番化を果たせるようにPoCを進めた結果、22件を業務本番に移行している。

昨今話題のChatGPTは、日本生命では「N-Chat」という名称で全社に導入研修を実施している。セキュアで個社の専用環境を構築した上で、汎用的な活用検証を行うフェーズ1と、社内ナレッジに基づいた回答を得られるような仕組みを作って、専門的な業務で活用検証を行うフェーズ2に分けて、検証を進めている。最終的にはユーザーが回答の正誤を判断する必要があるため、現状では社内利用のみで順守事項を設けながら検証を進めている。

継続的に利用している層から評判の良かった使い方は、論点の具体化、骨子からの文章生成、翻訳、要約、誤字のチェックなど。こうした文章を整理する作業の効率化には優位がある一方で、社内の情報を学習させて社内ナレッジを構築するフェーズは考慮すべき要素が多すぎるため慎重な判断が必要だとの見方が強い。効果的な活用方法を模索しながらチューニングと検証を進めているのが現状だ。

グループ一体での人材育成

日本生命でITデジタルの企画や開発運用などを専門的に担っている人材は、グループ会社も含めると約3000人にのぼる。そこで、グループ一体で人材育成の取り組みを高度化し、各社が抱える課題を踏まえた実効的な育成を実現している。

具体的には、日本生命とニッセイ情報テクノロジーがグループ全体の人材育成を主導し、「TREASURE SQUARE(トレジャースクエア)」と命名したITデジタル人材専用の研修施設で、100コース以上の研修を実施。

異なる会社の受講生が同じ研修に集うケースも多いので、オープンなラウンジやカフェラボなどを設け、会社や部署の垣根を越えて人が集まりたくなるような仕掛けを施しているため、人脈形成にいい影響を生んでいる。

研修の目的は、デジタルビジネスを企画するスキルとデジタルを活用するスキルの向上だ。研修を実施するにあたっては全社員を対象に参加希望を募り、ITデジタル部門以外の人たちにも積極的に門戸を開いている。2022年度には32名が受講し、案件化の検討に至ったものが9件、PoCまで至ったものが8件で、研修効果は着実に進んでいる。 高度な人材育成として、希望者には専門スキル習得のための社外研修なども推奨している。合わせて、入社3年以内の初期教育の段階でデータ分析や統計などの研修を必修化して、全社のリテラシーを底上げしている。必要なスキルを定義した研修スキームは構築できたので、今後は研修の質や量をブラッシュアップすると共に、各部門が自発的にデジタル活用を向上させていくことを目指す。

デジタル化を支えるインフラ整備の取り組み

デジタル5カ年計画においては、データ、アイデア、人材の領域でデジタル化の強化を図ってきたが、それを実現させるための下支えとして重要なのがインフラ整備だ。

最後に、これまでの取り組みと今後の展望をSoE(System of Engagement)、SoI(System of Insight)、SoR(System of Record)の観点から整理する。SoEに属する領域では、顧客との接点を支えるインフラはオープンAPI環境を整備し、クラウドに移行してPaaS活用を実現。新たな技術を取り込む柔軟性を確保しつつ、既存システムとシームレスに接続できている。今度さらなるCX向上に向けてアプリ構造の見直しやアジャイル開発の拡大なども検討していく。

SoIに属する領域の成果としては、この5年間で基盤をクラウド環境に集約するなど、データ分析、データ利活用のための環境整備を促進。今後はBIによるデータの可視化や、システムの結果の自動連動などにも本格的に取り組み、さらなるビジネス価値の拡大を図りたい。

SoRに属する基幹システムへの対応としては、業務継続性や堅牢性、コスト効率を向上させるためにも、保有資産の圧縮や軽量化に取り組んできた。業務継続性の観点では、今後メインフレームを中心としたレガシーのシステムについて考える必要性が高まるだろう。メーカー撤退の可能性や前時代のシステムを支える人材の高齢化など、今度深刻になりそうなリスクの懸念事項もある。対応には期間もかかる観点から、10年20年先を見越した検討が必要という課題認識を持ち、継続して取り組んでいく。

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