2019年成立の改正法により仮想通貨に関する規制強化
2016年5月に成立し、2017年4月に施行された「改正資金決済法(以下、2016年改正法という)」により、日本において初めて仮想通貨交換業者に対する登録制度が導入され、2017年内に16社が仮想通貨交換業者として金融庁に登録された。同年、仮想通貨は社会的な注目を集め、取引量は現物取引および証拠金取引ともに急速に拡大した。JVCEA(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会)が2018年4月10日に発表した「仮想通貨取引についての現状報告」によると、2016年度の国内取引金額が3.5兆円程度であったのに対して、2017年度は70兆円近い金額まで増加しているという。
JVCEAは、仮想通貨交換業の利用者保護および健全な発展に資することを目的として2018年3月に設立され、同年10月に資金決済法に基づく認定資金決済事業者協会として認定された。JVCEAは同月20本を超える自主規制規則などを施行し、同規則などの内容は、後述する2019年改正法の内容を多くの部分で先取りしたものとなっている。経緯としては、金融商品取引法などを参考に会員による綿密な議論を経て策定された。
2016年改正法施行後、「証拠金取引の拡大など仮想通貨の投機対象化」、「ICO(仮想通貨の発行による資金調達)の流行」、「不正アクセスによる仮想通貨交換業者が管理する顧客の仮想通貨流出事案の発生」など、仮想通貨を巡る課題が次々と顕在化した。これらの課題に対処するために、金融庁は2018年4月〜12月にかけて開催された「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書の内容を踏まえ、資金決済法および金融商品取引法などの改正法案を国会に提出した。結果、同法案は2019年5月31日に成立した。改正法案(以下、2019年改正法という)は政府令などの整備後、2020年春に施行見込みであり、その骨子は以下の通りである(図表2)。
(1)『仮想通貨』の呼称を『暗号資産』に変更
2016年改正法では、FATF(金融活動作業部会)や諸外国の法令などで“virtual currency”という表現が用いられていたことなどから、『仮想通貨』という呼称が用いられていた。しかしその後、G20(金融世界経済に関する首脳会合)など国際的な議論の場において、“crypto-asset”との表現が新たに用いられつつあることから、『暗号資産』へと呼称が変更された。また、後述する「電子記録移転権利」については、金融商品取引法において規定が整備されるため、暗号資産の定義から除外された。なお、本稿では執筆時点において、2019年改正法は未施行であるため、『仮想通貨』との呼称で統一する。
(2)資金決済法改正
①コールドウォレット管理の原則義務化
国内における仮想通貨の流出事案については、いずれも流出したのはホットウォレット(オンラインでの運用)で管理していた仮想通貨であったことから、顧客の仮想通貨は、原則としてコールドウォレット(オフラインでの運用)で管理することが義務付けられる。法令で許容される一定の範囲において、ホットウォレットで顧客の仮想通貨を管理する場合には、別途、同種・同量の仮想通貨をコールドウォレットで保持することが義務付けられることになっている。つまり、万一ホットウォレットから流出があった場合でも、利用者保護が図られるということだ。
②顧客金銭の信託管理の義務化
従前から利用者財産の分別管理は義務付けられていたが、実務上は銀行預金口座による分別管理が行われており、倒産隔離がなされていないとの指摘があった。2019年改正法においては、顧客の金銭を信託保全することが義務付けられることになった。詳細な要件については内閣府令により定められるが、金融商品取引法における信託保全の要件に近い内容となることが想定される。
③取り扱い仮想通貨などの変更に係る事前届出制導入
従前、取り扱う仮想通貨の追加変更などについては事後届出制となっていたが、2019年改正法においては事前届出制に改められることとなった。これまでも実務上、当局への事前相談は行われてきたが、制度上、事前チェックの仕組みが整備されることになる。
④広告・勧誘規制の整備
仮想通貨の投機対象化といった現象を受けて、2019年改正法において広告・勧誘についても整備がなされている。具体的には、「広告上に商号などの基本的情報や仮想通貨に関するリスクを表示することの義務付け」、「広告・勧誘において相手方を誤認させるような表示の禁止」などが盛り込まれている。
⑤仮想通貨カストディアンを登録対象に追加
2018年10月、FATFが仮想通貨カストディアン(仮想通貨の管理のみを行う業者)も、AML/CFT(マネーローンダリングおよびテロ資金供与防止)の観点から規制を課すべきとの勧告を採択したことから、2019年改正法においてカストディアンも登録対象となった。カストディアンについては、仮想通貨の管理に関する犯罪収益移転防止法および資金決済法上の義務が課されることとなる。
(3)金融商品取引法改正
①証拠金取引に係る規制の整備
金額において国内の仮想通貨取引の大部分を占める証拠金取引については、これまで規制対象外であった。そこで、FX取引(外国為替証拠金取引)と同様に、金融商品取引法上の登録制および販売・勧誘規制などが整備された。
②電子記録移転権利に係る規制の整備
収益分配を受ける権利が付与されたICOトークンを「電子記録移転権利」として定義し、金融商品取引法第二条第一項に規定される有価証券(以下、第一項有価証券という)として、株式などと同様に情報開示制度や販売・勧誘規制などの対象となることが明確化された。
③仮想通貨の不当な価格操作などの禁止
金融商品取引法上、仮想通貨の現物取引および証拠金取引について、上場株式などと同様に、相場操縦やその他の不公正取引などが禁止されることが明確化された。
仮想通貨・トークンの機能に応じた検討が必要
収益分配を受ける権利が付与されたトークンは、第一項有価証券として金融商品取引法に基づき規制されることが明確化されたが、ユーティリティトークン(商品・サービスの対価として利用できるトークン)は、引き続き仮想通貨として資金決済法に基づく規制を受けることになる。そこでJVCEAは、2019年9月27日にユーティリティトークンを発行して資金調達を行うICOに関する自主規制規則として、「新規仮想通貨の販売に関する規則」を施行した。同規則はICOの実施に際し、「対象事業の実現可能性などの審査」、「購入者のための情報開示および調達資金の分別管理」などを義務付ける内容となっている。
ただし、例えば米国のフェイスブックが発行を予定している仮想通貨『リブラ』のように、価格が安定するよう設計されたトークン(ステーブルコイン)については、果たして日本法上の仮想通貨に該当するかという問題がある。リブラは銀行預金や国債などの低リスク資産を裏付け資産とすることで価格の安定性を実現しようとしている。その他にも発行体の信用力(バランスシート)に基づき発行されるトークンや、仮想通貨を裏付け資産として発行されるトークン、トークンの発行アルゴリズムによって需給を調整し、価格を安定させようとするトークンなどがあり得る。
そのため、ステーブルコインについては定義上除外されている「通貨建資産」に該当しないかを個別具体的に検討する必要があるだろう。例えば、金融庁は、トークンの発行者などが利用者に対し法定通貨をもって払い戻すなどの義務を負っている場合、当該トークンは原則として通貨建資産であり仮想通貨ではないとしており、参考になる。
今後も国内外において様々な性質のトークンが現れ、トークンを利用した多様な商品・サービスが実現することが想定される。規制内容はトークンの機能・リスクなどによって異なることになるが、基盤となるのはいずれも分散型台帳技術であるため、統一的な理解の下で対応していく必要がある。一時の混乱期を乗り越え、業者側においても規制者側においても適切な対応がなされることにより、ビジネスが健全に発展していくことを期待したい。
- 講師
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一般社団法人日本仮想通貨交換業協会
福井 崇人 氏2009年弁護士登録、2014年10月~2017年3月金融庁出向。
現在は日本仮想通貨交換業協会事務局長として、弁護士活動及び
当局での経験を活かし、業界健全化に尽力している。