金融行政方針とは?金融規制に強い弁護士がどこよりも詳しく解説


平成28年10月21日、金融庁から平成28事務年度金融行政方針が公表された。金融行政における基本方針として、金融当局・金融行政運営の変革や、金融機関のビジネスモデルの転換など、3つの変革を進めることの必要性が述べられている。本稿は、金融行政方針に関する全3回連載の第1回として、金融行政方針の全体像を説明する。

  1. 金融行政方針とは
  2. 平成28事務年度金融行政方針の構成
  3. 金融行政運営の基本方針
  4. 金融当局・金融行政運営の変革
  5. 国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換
  6. 「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換
目次

金融行政方針とは

金融庁は、平成27年より、事務年度(7月~翌年6月)ごとに「金融行政方針」を策定し、公表している。この金融行政方針とは、各事務年度において金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向けていかなる方針で金融庁が金融行政を行っていくかを示すものである。

そして、平成28年10月21日には、「平成28事務年度金融行政方針」が公表された 。平成28事務年度金融行政方針は、平成28事務年度(平成28年7月~平成29年6月)における金融行政の方針であり、金融実務に関わる者にとっては、この1年間の金融行政・金融関連制度の動きを予測するための参考となるものである。

金融行政方針についてはPDCAサイクルを強く意識することが明記されている。そして、平成27事務年度金融行政方針の進捗状況や実績等の評価として、平成28年9月15日に「平成27事務年度金融レポート」が公表されていたが 、平成28事務年度金融行政方針はこの金融レポートの内容も踏まえてとりまとめられたものである。

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平成28事務年度金融行政方針の構成

平成28事務年度金融行政方針の構成

平成28事務年度金融行政方針は、以下の8項目によって構成されている。

  • Ⅰ. 金融行政運営の基本方針
  • Ⅱ. 金融当局・金融行政運営の変革
  • Ⅲ. 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保
  • Ⅳ. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等
  • Ⅴ. IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応
  • Ⅵ. 国際的な課題への対応
  • Ⅶ. 顧客の信頼・安心感の確保
  • Ⅷ. その他の重点施策

このうちのⅠ.とⅡ.は総論的な内容であり、金融庁における全体的な基本方針が述べられている。そして、かかる基本方針をもとに、Ⅲ.~Ⅷ.では個別の項目について金融行政の課題を整理し、具体的に取り組むべき重点施策がまとめられている。

金融行政運営の基本方針

金融行政運営の基本方針

金融行政の目的

「金融行政運営の基本方針」の中で金融庁における金融行政の目的として、①金融システムの安定/金融仲介機能の発揮、②利用者保護/利用者利便、③市場の公正性・透明性/市場の活力を確保することにより、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すことを示している。

金融行政における基本方針で掲げる3つの変革

「金融行政運営の基本方針」では、以上の目的を示した上で、金融行政における基本方針として、以下3つの変革を進めることの必要性を述べている。

  • 金融当局・金融行政運営の変革
  • 国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換
  • 「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換

以下では、基本方針で掲げる3つの変革について紹介していく。

金融当局・金融行政運営の変革

金融当局・金融行政運営の変革

金融当局・金融行政運営の変革としては、以下3つの観点から、金融庁及び金融行政運営のあり方を変えていくことが述べられている。

  • 検査・監督のあり方を環境変化に適合する形に見直すこと
  • 金融機関による開示の促進等により、良質な金融商品・サービス提供に向けた金融機関の競争を実現すること
  • 金融庁の組織自身を、環境変化に遅れることなく不断に自己改革する組織に変革すること

そして、「Ⅱ.金融当局・金融行政運営の変革」の中でこれらの3項目の変革の具体的な内容が説明されている。

検査・監督のあり方

検査・監督に関する観点については、平成28年8月に設置された「金融モニタリング有識者会議」において、次の3つの考え方・手法について議論・整理の上、とりまとめを行うとしている。

  • 形式から実質へ(規制の形式的な遵守(ミニマム・スタンダード)のチェックより、実質的に良質な金融サービスの提供(ベスト・プラクティス)に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)
  • 過去から将来へ(過去の一時点の健全性の確認より、将来に向けたビジネスモデルの持続可能性等に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)
  • 部分から全体へ(特定の個別問題への対応に集中するより、真に重要な問題への対応ができているか等に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)

金融機関による開示の促進

金融機関による開示の促進等に関する観点については、顧客から金融機関の行動・取組みがより良く見えるようにする「見える化」を進めていくとしている。

具体的には、金融商品・サービスに係る各種手数料等の開示の促進、「金融仲介機能のベンチマーク」 等を用いた金融機関による顧客本位の取組みの自主的な開示の促進、当局が検査・監督等で得た知見の積極的な公表・問題提起、優良金融機関の表彰制度の創設等を推進することが述べられている。

金融仲介機能のベンチマークとは・・・金融機関における金融仲介機能の発揮状況を客観的に評価できる指標として金融庁が策定し、平成28年9月に公表したもの。5項目の共通ベンチマークと、50項目の選択ベンチマークから成る。

金融庁自身の変革

金融庁自身の変革として、民間金融・経済の実情を的確に把握し、金融行政に対し外部からの意見等が常に入る仕組みを構築すること、金融行政の考え方の公表を通じた情報発信の強化を通じて、「開かれた体制」を構築すること、金融庁職員一人ひとりが、「国益への貢献」を追求し、困難な課題にも主体的に取り組む中で、金融庁が組織として高い成果を上げていくための人材育成等を行うことといった観点からの取組みの実施の必要性が述べられている。

国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換

国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換

国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れという点については、家計、金融機関等、機関投資家の3つの観点からそれぞれ取組みを推進することが述べられている。

  • 家計については長期・積立・分散投資の促進
  • 金融機関等(運用機関/販売会社)については顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立・定着
  • 機関投資家(年金基金等)については運用の高度化

このうち、金融機関等のフィデューシャリー・デューティーは平成27事務年度金融行政方針でも強調されていた事項であるが、「顧客本位の業務運営」とも言い換えられていることが注目される。

「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換

「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換

金融機関のビジネスの観点からは、金融環境の変化の中、金融機関の現在のビジネスモデルの持続可能性の検証の必要性を指摘している。

その上で、金融機関が顧客本位の良質なサービスを提供し、企業の生産性向上・国民の資産形成を助け、結果として、金融機関自身も、安定した顧客基盤と収益を確保するという好循環を「顧客との『共通価値の創造』」と呼び、金融機関が顧客との「共通価値の創造」を目指すことが望まれると述べられている。

▼筆者:有吉尚哉氏の関連著書
FinTechビジネスと法 25講―黎明期の今とこれから―
資産・債権の流動化・証券化(第3版)

有吉 尚哉 氏
寄稿
西村あさひ法律事務所
弁護士
有吉 尚哉 氏
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