【連載】自動運転の最前線~技術開発と日本の法整備

【連載】自動運転の最前線~技術開発と日本の法整備

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前稿では、自動運転技術とその影響を踏まえ実用化に向けた法整備の現状について解説した。第2回目では、走行試験と技術開発の現状を紹介するとともに法整備においてロードマップ、交通ルールの整備について解説していく。

  1. 走行試験と技術開発の現状
  2. 法整備の現状① ロードマップ
  3. 法整備の現状② 交通ルール整備の状況

走行試験と技術開発の現状

自動運転は、基本的には民間の事業者により技術開発が進められているが、いくつかの事業者は、自動運転車を販売する具体的な目標時期を公表し、中には販売中の自動車に自動運転の実施に必要なハードウェアが搭載されていると公表している事業者もある。

もっとも、これらはあくまで目標値であり、かつ各事業者において前提としている自動運転の技術レベルも同じとは限らないため、自動運転の技術開発の状況を推し量るための資料としては必ずしも十分とはいえない。他方で、カリフォルニア州では、公道での自動運転車の走行試験が認められており、非常時に対応するためドライバーの乗車を義務付け、かつ走行試験の走行距離およびドライバーによる運転介入(Disengagement)の回数を報告させ、その結果が公表されている。

それが、カリフォルニア州の「Department of Motor Vehicles」により公表されている「Autonomous Vehicle Disengagement Reports」である。自動運転車の走行試験において、ドライバーによる運転介入は、一般的にはシステムによる運転制御が困難または不適切な場合に行われるため、運転介入が少ないほど自動運転技術としての完成度が高いと仮定できる。「Autonomous Vehicle Disengagement Reports2018」に基づき整理した、主要な事業者におけるカリフォルニア州での走行試験における運転介入数、公道での走行距離および運転介入数1件当たりの走行距離は以下のとおりである(図表1)。

Google系のWaymoは、1年間の公道での試験走行距離も群を抜いているが、運転介入についても約1万1000マイル(約1万7600㎞)あたり1回にとどまっている。仮に1日に50㎞自動車に乗ると仮定すると、運転者が運転介入するのは1年間に1回程度という計算となる。GMについても、5205マイル(約8328㎞)に1回の運転介入にとどまっており、システムによる運転制御能力は、相当程度完成度が高いレベルに達していることが伺われる。

法整備の現状① ロードマップ

それでは、自動運転のための法整備はどの程度進展しているのか。内閣に設置された高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議が2018年6月15日に公表した「官民ITS構想・ロードマップ2018」(以下「ロードマップ2018」という)では、「ドライバーによる運転」を前提としたこれまでの交通関連法規について、「システムによる運転」を可能とする制度を組み込むべく、自動運転車両・システムの特定と安全基準の在り方、交通ルールなどの在り方、自賠責保険を含む責任関係の明確化など多岐にわたる法制度について見直しが必要であると指摘している。

ロードマップ2018では、高速道路でのSAE(米国自動車技術会)レベル3相当(原則として、システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行するが、作動継続が困難な場合はシステムがドライバーに介入要求などを行う)、および限定地域でのSAEレベル4(システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行)が2020年を目途に市場化・実用化することを想定し、それに向けて法整備を行うとしている。それでは、具体的に法整備はどのような状況にあるのだろうか。

法整備の現状② 交通ルール整備の状況

2018年4月17日に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議により公表された「自動運転に係る制度大綱」において、SAEレベル3相当および限定地域におけるSAEレベル4相当の自動運転車が公道で走行するためには、少なくとも道路交通法において以下の検討が必要であると指摘されている(図表2)。

他方で、自動運転を見据えた道路交通法の改正は、国内での議論だけではなく、国際的なルールとも整合させる必要がある。すなわち、日本は、道路交通に関する条約(1949年ジュネーブ条約)に加盟しているところ、同条約では、例えば8条1項において、「車両又は連結車両には運転者がいなければならない」と定めているなど、やはり自然人である運転者が運転制御を行うことを前提としている。

したがって、日本においてSAEレベル4以上の自動運転を許容するためには、同条約の改正が必要となる。本稿執筆時点において、国際連合欧州経済委員会(UNECE)の道路交通安全経済部会(WP1)に、非公式専門家グループが設置され、日本も含めた国および機関の間で、自動運転と上記の1949年ジュネーブ条約の整合を図る方策について議論されているところであるが、いまだにその結論は出ていない。

このように1949年ジュネーブ条約の改正について議論が進められているところであるが、日本国内では、これに先行して、1949年ジュネーブ条約に抵触しない範囲で、自動運転を想定した道路交通法の改正案が、2019年5月28日に国会で可決され、成立した。

この改正道路交通法では、以下のとおり、SAEレベル3相当の自動運転を想定した規定が盛り込まれている(図表3)。

以上のとおり、自動運転については、技術的にはかなり完成度が高いところまで至っていると考えられ、また法整備についても徐々に制定が進められている。次回以降では、交通ルール以外の法整備、すなわち自動運転車両・システムの安全基準の在り方、自賠責保険を含む責任関係の明確化、さらには自動運転車を使用して事業を行う場合の法規制などについて順次解説する。

寄稿
TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
永田 幸洋 氏
TMI総合法律事務所パートナー弁護士(日本国・カリフォルニア州)。
2006年弁護士登録。2004年京都大学大学院農学研究科修了。
2012年ジョージタウン大学ロースクール(LL.M.)卒業。
国内外のM&Aや投資案件を取り扱うとともに、大手自動車メーカーや
大手物流会社への出向経験を有し、自動車をはじめとするモビリティ分野への
造詣が深い。
寄稿
TMI総合法律事務所
アソシエイト弁護士
岩田 幸剛 氏
TMI総合法律事務所アソシエイト弁護士(日本国・ニューヨーク州)。
2008年弁護士登録。2003年慶應義塾大学法学部卒業。
2003年から2005年国土交通省勤務。2007年東京大学法科大学院修了。
2014年ワシントン大学ロースクール(LL.M.)卒業。
大手自動車メーカーへの出向経験を有し、
自動車を含む新規ビジネス関係の法務に精通している。
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