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【連載】債権法改正と金融実務~消滅時効に関する見直し

債権の消滅時効については、用語の変更や条文の配置の見直しを含めて、大幅な見直しが行われた。債権法改正に関する連載の第7回として、消滅時効について弁護士が詳しく解説する。

【連載】債権法改正と金融実務~消滅時効に関する見直し
  1. 消滅時効期間の統一
  2. 用語の見直し
  3. 協議合意による完成猶予制度の創設
  4. 経過措置
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消滅時効期間の統一

債権の消滅時効は、権利の行使がされないまま一定期間(消滅時効期間)が経過し、債務者が消滅時効を援用すると、債権自体が消滅する制度である。

消滅時効期間について、現行法は、「権利を行使することができる時」から10年を原則的な消滅時効期間としているが(現行民法166条1項・167条1項)、1年・2年・3年の期間を定める短期消滅時効制度(現行民法170条~174条)、商事債権について5年の期間を定める商事消滅時効制度(現行商法522条)といった例外的な消滅時効期間が定められており、どのような場合にどの例外が適用されるかが明らかでない場合もあった。

改正法では、短期消滅時効制度、商事消滅時効制度を廃止し、統一的な消滅時効期間を定めた。

改正法は、①「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年、②「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年の2つの時効期間のうち、いずれか早く経過した方をもって消滅時効が完成する制度をとった。このうち、②の要件は現行民法166条1項と同じ文言であり、その解釈は従前の判例法理がそのまま妥当すると考えられる。

「権利を行使することができることを知った」とは、債権者が自己の判断で権利を行使することが現実的に可能な状態になったことを意味し(部会資料69A・2頁)、ここには債務者を知ることも含まれている(部会資料80-3・1頁)。

契約に基づく債権(代金債権など)については、債権者が「権利を行使することができる」ことに気付かない事態は、通常は起こらないから、主観的起算点と客観的起算点は通常は一致すると考えられる。従って、契約に基づく債権については、5年の消滅時効期間が適用されると考えてよい。

これに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権については、債権者が必ずしも「権利を行使することができる時」の到来を知り得るとは限らないことから、主観的起算点と客観的起算点が一致しない可能性があり、ケースによっては、10年の消滅時効期間が適用される可能性がある。

損害賠償請求権については、債務不履行構成であれば主観的起算点から5年、客観的起算点から10年という消滅時効期間が適用され(166条1項)、不法行為構成であれば主観的起算点から3年、客観的起算点から20年という消滅時効期間が適用される(724条。なお、20年について、現行民法では除斥期間とされていたが、改正法では消滅時効期間であることが明らかになった。)。

しかし、生命・身体に対する侵害に関する損害賠償責任については、被害者保護の見地から、債務不履行構成・不法行為構成ともに、主観的起算点から5年、客観的起算点から20年という消滅時効期間が適用される(167条、724条の2)。

▼筆者:加藤伸樹氏の関連著書およびWeb連載
金融機関における個人情報保護の実務
若手弁護士が解説する個人情報・プライバシー法律実務の最新動向

用語の見直し

消滅時効期間は、一定の事由があると、(a) 期間の進行を一からやり直す、あるいは、(b) その事由が解消されるまで時効が完成しないこととされている。現行法では、(a)を「中断」事由と呼び、(b)を「停止」事由と呼んでいた。

しかし、中断と停止という用語と(a)(b)の効果は、一般的な用語法として対応しているとは言い難く、分かりづらいとの指摘があった。

そこで、改正法は、(a)を「更新」事由、(b)を「完成猶予」事由と呼ぶことにした。

協議合意による完成猶予制度の創設

(1)制度概要

債権の消滅時効制度において、新設された制度が「協議合意による完成猶予制度」である(151条)。この制度は、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときに、一定期間時効の完成を猶予するものである。

協議を行う旨の合意を「書面」で行う必要があるのは、協議の存否と時効の停止の効力が生ずる期間を明確にし、後の紛争を防止するためである(部会資料69A・22頁)。

完成猶予の期間は、合意時から1年間(1年より短い期間を合意で定めることも可能)である(151条1項)。協議合意は再度合意をすることができ、最長5年まで完成猶予の効力を継続することができる(151条2項)。最長5年とされたのは、協議が5年を経過してもなお整わない場合にはもはや自発的な紛争解決の見込みが薄いと考えられたことによる(部会資料80-3・5~6頁)。

(2)協議合意と他の方法の比較(債権者側)

現行民法下では、消滅時効の完成を防ぐための方法として、①催告(内容証明郵便等による履行請求)をして、6ヶ月の間、時効の完成を猶予させた上で、訴訟等の法的手続を取る方法(催告ルート。催告なしに訴訟等の法的手続を取るルートも、ここに含めて検討する。)、②債務者に債務を「承認」させる方法(承認ルート)が考えられる。

以下では、催告ルート・承認ルートと、協議合意ルートをどのように使い分けるかについて検討する(差押えによる更新を行うルートについては、債務名義を有していることが前提となるため、協議合意を検討する必要がないと思われることから、検討の対象に含めない。)。

まず、債務者が債権の存在を争っておらず、交渉が専ら支払条件について行われているような場合には、最も簡易で、かつ、コストもかからない承認ルートを選択することになると思われる。ただし、連帯債務者や連帯保証人に対する権利行使のケースで、他の連帯債務者・主債務者に時効中断の効果を及ぼす必要がある場合には、承認ルートが適切でない場合もある点に留意が必要である。

次に、債権の存在について争いがある場合に、催告ルートと協議合意ルートのどちらを選ぶべきかについて検討する。

前提として、催告ルートと協議合意ルートは、どちらかしか選べない。すなわち、催告による完成猶予中の協議合意は効力がなく(151条3項第1文)、協議合意による完成猶予中の催告も効力がない(151条3項第2文)。従って、時効期間が満了する前に、どちらのルートにするかを選ばなければならない。

一般論として、請求権を明確に示す契約書等の書証が存在する場合には、協議合意を締結してまで協議するメリットは小さく、催告ルートを利用することになると思われる。

(3)協議合意ルートを選ぶ場合の留意点

協議合意は最長5年まで繰り返すことができるが、それはあくまでも、相手方が再度の協議合意に応じる場合に限られることを肝に銘じる必要がある。相手方が協議の続行を拒絶する旨の通知を書面で行った場合には、その通知から6ヶ月の追加猶予が与えられるが(151条1項3号)、期間いっぱいまで協議は続行するが再度の協議合意には応じないという態度に出た場合に、この6ヶ月の追加猶予は適用がないと思われる。

そうなると、残された期間で時効を止めるには、訴訟等の法的手続を取るしかないことになる。

協議合意ルートを選ぶ場合には、相手方が協議合意に応じるかも・・・と期待して失敗しないよう、法的手続の準備も進めておくことが重要である。

(4)債務者側から見た協議合意のメリット

債務者側から見た協議合意のメリットは、制度趣旨である訴訟の回避によりレピュテーションリスクの発現を防止するという点に求められる。

例えば、労働事件(解雇無効・時間外手当)や、不祥事を起こした役員・従業員に対する請求のように、公の目にさらされたくない案件の場合、協議合意に応じて、訴訟外での解決を目指すメリットがあると思われる。

経過措置

消滅時効期間については、2020年3月31日以前に債権が生じた場合(2020年4月1日以降に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が2020年3月31日以前にされたときを含む)については、現行法が適用される(附則10条4項)。

協議合意については、2020年3月31日以前に生じた債権であっても、2020年4月1日以降、協議合意制度を利用することができる(附則10条3項)。

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加藤 伸樹 氏 【寄稿】
和田倉門法律事務所
弁護士

加藤 伸樹 氏

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